浦島

せろり茶

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終幕

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上半身を肌けた男は小気味良い音を立てながら割り続けた薪を、ある程度の束にして持ち運び易いように荒縄で結わく。


幾つもの束に満足気に頷くと、手ぬぐいで額を拭いながら、次の段取りを考える。


薪を割り、釣った魚を三枚に卸し、塩水につけ、簾に干す。


日に当てて一夜干せば明日の肴になるし、干して塩に漬けおけば保存食になる。


煮詰めた海水から作った塩は山を降りて売りにいけば、そこそこの値で売れるだろうし、魚も売れる。


荒屋の修繕にもう少し釘も欲しいが、冬を越す蓄えももっと必要だろう。


それにさらし布も新しい物を用意してやりたいし、着物...は要らぬ、と怒るのでまぁいいか。



やらねばならぬ事は多いが、それもまた愉しい。




と、男は考えて、ふっと微笑んだ。




「源さん、クコの実は干しておけばいい?」


庭の裏手から、ふっくらとした腹を抱えながら、若い桃のような頬を上気させて、手ぬぐいで髪を押さえた幼妻然とした女が顔を出す。


「小雪、そんな重いもの持っちゃなんねぇ。俺がやるから」


慌てる男は女の手からやんわりと紅い木の実の入った笊を取り上げ、女の肩を抱くように真新しい縁台に座らせる。


「やだ、源さんったら、それじゃあたしが何にもできる事がなくなっちゃう。」

ぷくり、と頬を膨らませながら女は反論するが、男からの触れるだけの甘い口付けひとつで陥落する。

ほんのりと頬を赤く染めて上目に男を見上げる。

力を抜いて男の厚い胸板に撓垂れ掛かる。

その表情は安堵と信頼に満ち足りたものだ。

そんな女の様子に男も目を細めて、愛し気にその腰を抱き寄せる。


そっと女の腹に手を充て、撫でる。

女の丸く張った腹に、己の種が慈しまれているのだ。愛しくて堪らなくて、触れると壊してしまいそうで、でも抱き締めたい。


出会いは最悪だったが、愛しくて愛しくて、そっとそっと囲いこんで、幾度も、己だけのもので居て欲しいと、共に有りたいのだと言葉を尽くして、漸く漸くほだされてもらったのだ。

己の妻にとなって、2年。

秋には生まれるだろう己と妻の子を待ち望んで待ち望んで、ここで生きている。




――――――終幕――――――


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