浦島

せろり茶

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後編②

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「まだだ...まだ...半分も入ってねぇよ、嬢ちゃん」

男はぬらぬらと中を己の物で滑らせながら、異物を押し出そうときつく閉じようとする肉壷を圧し進める。

ぬちゃ、ぬちゃ...と卑猥な音がする。

嫌々をするように女の首が左右に弱々しく振られ、涙が頬を伝って流れ落ちていく。


譫言の様に痛い、痛い、と繰り返し小さく漏らす女の声に男はうっすらと嗤う。


この女に己を刻み付けたい。

なんの因果があるのかも判らないが、こうして出会ってしまったのが、気が付いてしまったのが、運命なのだと男は思う。


...つ...っと、女の狭い窄まりの奥で薄い抵抗が肉竿の先に或る。

嗚呼、此処だ。

己の汗が女の肌の上に滴り落ちていくのを見ながら、あと一息でこの抵抗を暴いてしまう瞬間を思うだけで、思いきり吐き出して果ててしまいそうだが、そんな勿体ない事はしたくないと、歯を食い縛る。


ずん!

奥へ、と一気に入った。

ぶっ...つ...と音が聞こえた気がしたが、実際には何の音もしてはいない。

「ーーーーっ!かはっ!!」

女がカッ!と目を見開き、まるで溺れる者が水面で慌てるかの様に息を吐き出した音が耳を打つ。

腰を打ち付け、引き抜き、再び打ち付け...

ぱんっぱんっ...と肉が肉を打ち付ける渇いている音とじゅぶじゅぶと湿った音と、女の苦痛に耐える短い呼吸と男の荒い息遣いが空間に響く。


前後に腰を穿ち、時折円を描くように肉壷を掻き回し、男は思う様に女の中を蹂躙する。

女の中の熱さも、きつい程の締め付けも、全てを蹂躙し、それだけでは飽き足りぬと、尻肉を揉みしだき、乳房を舐め嬲る。

息が足りぬと喉の上がった女の細い首筋に吸い付き歯形を残し、腹の柔肉も甘く噛む。

何度も蹂躙し何度も中に精を吐き出した。

白濁の中にあった紅い血潮はもううっすらと淡い朱に見えるだけになっている。


女の両足を腰に持ち上げ、尻を男の腿の上に乗せるようにして深く穿き続け、揺さぶり続けた。

それに飽いて、片手で女を横臥させ、上になった脚を肩にかつぎ上げて穿った。

当たり処が変わったのか、女の艶声がかなり鼻に掛かった甘さを含みだしている。

尻を撫で回し、その割れ目の奥にある窄まりを指の腹で圧しながら解す。

挿入しっぱなしの肉棒が抽送する度に蜜が白濁と合わさりながら溢れ、とろりと垂れているのを指で掬いながら、窄まりへ一本の指を軽く押し込んだ。


「あぅっん...あああああっ!きゃうっ...ひぃっ...ふぅっあぁあんんんんっひぎっぃぃぃーーーーっ!」


角度が変わったからか、中のぎゅっぎゅっと搾り取るようなひくつく様子が変わる。包み込む柔らかさも横からの挿入に更に狭くきつく感じるのも、恍惚とする程に気持ちがいい。

その気持ち良さが、尻の窄まりを指で突いた瞬間に、ぎちぎちと締まるのに変わった。

突いた瞬間に女の声が若い獣のように高く太くなり、耳に届くたのと同時に熱い塊が背中を駆け上ってきた。

「おっおっおっ...うぅっ出るっ...うっぁぁ...」



思いきり粘り気のある白濁を吐き出すと、女の中の肉壁が吸い付く様に蠢いて奥に奥にと煽動する。

ちゅうちゅうと奥が鬼頭に吸い付くのも、肉棒そのものを柔肉が蠢いてぎゅっぎゅっと吸い付くのも、堪らなく...それをされるとまた中で肉棒が本能故か、期待に応えようとぎちぎちと荒ぶる。


何もかも蹂躙しつくしてやる。そう強く思う。

嬲り尽くしても、まだ女の体から薫る甘い香りが、己の匂いに染まるまで何度でも嬲る。そう思う。

女の頤を掴み、無理矢理口付ける。荒く中を舌で掻き乱し、歯肉を舐め、舌を擦り合わせ様と這わせる。

唾を飲ませると、女の喉に入りきらない物が口の端を伝い落ちる。


「気持ちいいな...嬢ちゃんの体は気持ちいいな...お前ぇさんも...善くなれ?...ほら、ほら、ほら、逝け逝け逝け逝けっ...!!」


穿つ。揺さぶる。嬲る。撫でる。突く。

尻の窄まりまでも犯し尽くし、女の声が意味をなさない喘ぎだけになる頃に、ようやく空が白み始める前。

日の出の冴え渡るような寒さが荒屋に入り出し、夜の帳が終わりを告げたのを感じた。


明るくなりつつある荒屋に、男の吐精に塗れ、力なく肢体を投げた女と、欲情に塗れたままの男の姿が鮮やかになる。

くたりと糸の切れた操り人形の様に横たわる女の目がゆっくりと閉じられ、気を失うように眠りについたのを感じ、男はゆっくりと女を離した。

「...おおぅ、無体しちまったなぁ...」


明るい日の光の下で見る女の寝姿は、あちこちに散る噛み跡と赤い鬱血痕と塗れた粘液とで、凌辱の限りを尽くしたのだと思い知る。

優しく抱いてやるつもりだったのに...と少し冷えた頭を掻くが、反省した処で結果は変わらないのだ。

男はかぶりを振ると皺くちゃではあるが、濡れてない男物の着物...昨夜自身が羽織っていた物で女を包んでやる。

適当に濡れ汚れている布...女が纏っていた男物の着物や、女の破瓜の跡が残る敷布をまとめながら立ち上がる。


土間で随分と古いたらいを見付け、そこに炉端の灰を適当に入れ、引き戸を開けた。









丘の上から海岸線を見下ろし、自分が出てきた相当なぼろさの荒屋に、室内から古さは知ってはいたが、改めて驚く。

見下ろした限り、廃村らしき崩れ落ち、草に埋もれた家屋も見てとれる。

「おおぅ、本当見事に廃村だなぁ...」

ぐるりと荒屋を廻ると湧き水を引いた水場がある。

そこで適当に塵灰を流し、洗濯をする。

古い布は瞬く間に真っ黒に染まるが、浮いてくる皮脂汚れやなんかはさっぱりと流れ、すっきりとするだろう。


湧き水横の柚木とクコの木に適当な縄を結び、敷布と着物を干すと朝の風にはたはたと靡いて、人心地がつくようだ。

灰汁を流し、手布巾を綺麗な水に浸して荒屋へと戻る。


荒屋は薄暗い中に板目の隙間から白い光が帯のように降り注ぎ、ちらちらと輝く中に眠る女の姿が浮かび上がる。

緩く上下する胸と腹が女の眠りの深さを伝え、胸が締め付けられる程に高鳴る。

そっと横に膝を付く。

乱れた髪を手で漉き梳かす。しっとりとした烏の濡れ羽色の髪は、つい最近まできちんと油を挿して櫛梳っていたものだろう。潮焼けによる傷みもなく絹糸の様にさらりとしている。

指も手も足も小さな傷はあれども、どこも傷んでいない柔らかな肌だ。漁村の娘などではなさそうだ。


「訳ありかぃ。嬢ちゃんも」

眠る姿を見て、胸の中に温かな何かが芽生え育つのを感じる。


湯を沸かし、手布を濡らして温かなそれで女を浄める。ゆっくりと浄めながら、手のひらに女の形を覚えている自分に笑えてしまう。

惚れたか、と思う。

無体を強いておいて都合のよい思考だな、と思う。


それでも、丸い頬の上を彩る濃く長い睫毛、ぽってりとした淡く紅い唇、細く長い手足、くびれた腰にゆっくりと曲線を描く尻。もっちりとした太腿からなだらかな流線を描きながら細くなっていく脹ら脛と足首。

手のひらからこぼれ落ちる乳房。

極上の姿態と、あの強い輝きを帯びた瞳を思い出すだけで、中心が滾るのだから堪らない。

深く眠る女の肩に着物をかけ直しながら、男は思うのだ。

とりあえず、たらふく飯を食わせねばな...と。









ふと、肌寒さに目が覚めた。相変わらずの荒屋の襤褸さを隠す様に薄暗いが、その雰囲気は朝では無さそうだ。

囲炉裏の火はないが、燠火があるのか少しぱちぱちと小さな音が囲炉裏端からする。

いつの間に眠ってしまったのか、と考えた瞬間、悲鳴が洩れる。


思い出した。


男が、己に何をしたのか。

己が、何を失ったのか。

恐ろしい程の執拗さで嬲られ、撫で回され、舐め回された全てを思い出す。

じわり、と乳首が立ち上がり着物に擦れた瞬間に、下腹の奥からじくりとした疼きを感じる事に、悲しくなった。勝手に体が反応している事に、悲しくなった。


何のためにここまで逃げたのか...。


絶望しても、生きることを止められずに居る己にも、悲しくなった。


よろりと力なく敷き布の上に起き上がる。


ずるりと肩から滑り落ちた布団を視界に納め、己が着物をきちんと着ている事と、枕元に畳まれた着物と、ちゃぶ台に乗せられた椀と小さな土鍋に気が付いた。


「なにこれ」


椀のなかに、小さな花と、水が入っている。

欠け割れた蓋を乗せた土鍋のなかに、どうやら汁物が入っているようだ。


大きな葉に、【瀬をはやみ 岩にせかかる 滝川の われても末に あわむとぞ思う】


とだけ、炭で書かれている...?

「百人一首...?何のために?」


ぼんやりと葉っぱをながめ、土鍋を眺め、いつの間にかあったちゃぶ台や、土間に積まれた薪を見て首を傾げる。


「なにこれ...」


意味はわからないが。

腹も減ったし、喉も乾いた。

体は...さっぱりとしているし、着ている物は襤褸だが、さっぱりとしていて洗い晒したものだと理解できる。

鍋の中身を食べ、椀の水は花が活けてあるのでそのままに。

土間に降りると水瓶のなかには、しっかりと水が湛えられているし、大きな葉を荒く編んだ皿の様なものの中には何やら木の実が入っているし、明かり取りの開口部には魚が幾匹か目刺しに干されているし、襖のない押入れにはどこから現れたのか葛籠に幾枚か着物が入っている。


「なにこれ?」


幾度目かの疑問が内心答えは出ているが、発せられてしまう。

何もなかった荒屋だ。

なのに、古いものではあるが生活の匂いがする空間になっている。

土間の隅に新しく束ねられたのであろう箒まで立て掛けてある。


くすっ。

思わず笑みがこぼれた。

犯人の中りはついている。意図は不明だが、一夜の暴挙からは思い付かない結果なのだが。


「なんなの、もう。」


わからないが。なんだか悲観するのも莫迦らしくなってきた。

瓶の水を飲み。

囲炉裏の燠火を確認して女は眠りについた。

腰も重いし、何やら股座には間に何か挟まったままのような違和感極まりない状態ではあるが、何だかそれすら莫迦らしく。

少しだけ、椀の花を眺めてから深く眠りについた。






朝の光が暖かく降り注ぎ、視界の明るさと暖かさに女は目が覚めた。

うんと伸びをして、身を起こす。

身仕度を整える程度で引き戸を開けた。

潮騒が聞こえる。

貝でも拾うかと、笊を取る。

丘を降りようとする女の視線が、地面に向かうと、男が土下座の状態でそこに居た。


びくりっと身が竦む。

それでも、じっと男を眺めると男の手元には小さな花が握られていて『あ、椀の花と同じだ』と気が付いた。


「すまねぇとしか言えねぇ。お前ぇさんにゃぁ、無体な事をしたと判っちゃいる。それでも言わせて欲しい。惚れた。夫婦めおとになっちゃくれねぇか?」


「...はい?」

今この男は何を言ったのだろうか。

一瞬理解が及ばなかったのは、仕方ないだろう。

疑問で返答したつもりでいたが、男が顔を輝かせて勢いよく立ち上がった。


「不自由させねぇとは言えねぇが、幸せにする!」

と強く抱き締められ、慌てる女は「ちがっ...!離せ!」と暴れるが、男は柔らかく笑いながら「お前ぇさんを生涯守るからな。」と耳許に囁いてくるから始末に終えない。


「俺の名前は源之助。お前ぇさんの名前を聞いていいか?」


男の抱擁に諦め半分で、女は小さな声でこたえた。


「小雪...」









源之助、と名乗った男はあれから幾度も幾度も愛を囁く。

何処で調達してくるのか板伐れやら倒木やらを運んできては荒屋を修繕し、雨風は凌げる古屋になった。

一月もすると、古屋の裏に畑らしき物ができ、塩を作る小屋や、物干し台で魚を干したり、燻したりする竈まで出来てしまう。

その間にも幾度も惚れたと言われ、優しく抱かれてはまた惚れたと好きだと囁かれ、小雪はなんだかもうそれで良い様に思えてしまう自分に頭を抱える。


自分が親無し故に、村から女郎に売られた事も、もしかすると女衒が探しに来るかもしれない事も話した。

万が一見つかると関係のない男まで足抜けの助けをしたと思われてしまうかもしれない事、そうなれば拷問程度では済まされない事も話した。

それでも「腕っぷしにゃ自信がある。大丈夫でぇじょうぶだ」とにやりと笑われてしまえばそれ以上は何も言えない。


男の事情は「俺は竜宮城から追い出されたのさ」と巫山戯半分なのか、今一よくわからないが。

堅気ではないのかもしれない程度で、女も深く詮索はなさなかった。

過去など要らぬと思うほどに男の...源之助に惚れたか、と言えば『わからない』としか考えられない。

何暮れとなく甲斐甲斐しく働く源之助は好ましいと思うし、畑仕事や釣り、大工仕事となんでもこなし、汗をかく様子は好ましいと思うが...。

それでも...一緒に居ても良いかとは思う。

共に白髪になるまでは。





【完】


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