~誓いの秘密~目覚めの稚戯~

せろり茶

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1話

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だって、そんなのおかしいよ....


小さな声で反論しても、タカちゃんは「そんなのフェアじゃない。」ってガンとして私の持論を支持してはくれなくて。


モジモジと照れくささと、そんなのイケナイ事だ、よくわからないけど、とにかくダメだって言う自分と葛藤する。


だって、

ちょっと淋しくなって風の音が怖くて『すぐだから待ってろ』っていうタカちゃんの後ろ姿が藪に消えてくのが怖くて、でも声を掛けたら怒られそうだったから。

だからそっとタカちゃんを追い掛けたんだ。


大きな栗の樹の下でタカちゃんがゴソゴソと何かをしてて。

何してるのかな?っていう小さな好奇心と、いつも偉そうなタカちゃんを驚かしてみたくて、こっそりと背丈の高い草の中を廻って、樹の影から「ばぁ!」ってしたらどうなるかな?って思っただけなのに。


タカちゃんの前に来たら....私のとは違う姿でオシッコしてるなんて思いもしなかったし、それがこんな事になるなんて。



「アンジュ、お前は俺のをみたんだから、俺もお前の見せろよ!」って。

いっぱい謝ったのに。

「だって....」

「だってなんだよ!」

「だって....私のと仕形が違うから....わかんなくて....」

「何が違うんだよ?ションベンするだけだろ。お前もしろよ!俺の前で!」

いっぱい謝ったのに。

タカちゃんは顔を真っ赤にして怒ってて、絶対見せろよ!って怒ってて。

見るまで許さん!って怖い顔で睨んでくる。

だからずっとどうしよう、どうしようって頭がぐるぐるする。

「ほら!早くしろよ!出なくてもいいからして見せろよ。それでおあいこだろ?」

「....わかった....」

茂みの傍でお兄ちゃんのお下がりのズボンを下ろす。

「なんだよお前まだ下ろさなきゃ出来ねぇの?だから恥ずかしかったのかぁ?」

吹き出したタカちゃんにちょっとムッとしながら、その場にしゃがみこむ。

「....アンジュ?なんで....しゃがんでんの?」

「....こうだもん....」

タカちゃんの顔を見れなくて、じっと地面の草を見る。

「え....?ションベンするだけだろ?な....んで....?」


答えずにじっと顔を上げずにいると

タカちゃんからなんだかゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。

それくらいシンと静まった森の中で。

さわっと風がむき出しの肌を冷やして、寒さでチョロチョロ....っと出始めた。


ショアアア....と恥ずかしい音がする。

タカちゃんがじっと見てるのが見なくてもわかる。

「アンジュ、チンコ....ねぇの?」

「女の子だもん....ないよ」

「そっか....」

「もう....いい?こ、これで....おあいこ、だよね?」

「う、ぁ、....ぁあ....。」


ポケットから布の切れ端を出して拭いて、足で土に軽く埋めたら、タカちゃんを見ないように地面を見たままズボンを上げる。

そのまま、なんでか涙が出てきて。

袖で顔を隠しながら涙を拭いた。


じっと立ってたらタカちゃんが頭を撫でてきて、「なあ....なんか、さ....?ちょっとよく見えなかったから、ちゃんと見せろよ。」

って、少し怖い声で私の肩を掴んだ。



「やだ。するとこ見せたもん。おあいこだもん。」


「だってお前、俺のチンコみたじゃん!お、お前のそれ、確か....マ、マンコってんだろ?兄ちゃん達が言ってた。俺、そこぜんぜん見えなかったし!」


「だって....見せたらダメなんだよ?け、結婚する人とお医者さんにしか見せたらダメなんだよ?ばあちゃん先生に言われたもん!女の子は人に見せたらダメなんだよ!」


「じゃあ俺と結婚すればいいじゃん!」


「....タカちゃんが私をお嫁さんにしてくれるの?」


「おう。アンジュ俺と結婚すればいいじゃん!....な?だから見るのは俺だけ。ならいいだろ?」



それから、ちゃんとお嫁さんにしてくれなきゃやだって言った私と、約束したんだから直ぐ見せろってごねるタカちゃんでしばらく喧嘩みたいになっちゃって。


「じゃあ、アンジュの言うお嫁さんって、どんなのだよ!」


「えっと、ベールを被ってお花を持ってお婿さんと一緒に神様の前で....誓うの。『汝を妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います』って。神様の前でキ....ス....して、初夜ってのを二人っきりでするんだって、お隣のキアリーが言ってたもん。」


「アンジュ、そんな長ぇのよく覚えられてんなお前....。そのあとは?なんかよく聞こえなかったんだけど?」

向かい合って、お互いの顔をさっきまで睨み合うみたいにして言い合いしてたはずなのに、私の声が小さかったのが聞こえ辛かったのか、タカちゃんは両手で私の肩を掴んだまま、一歩私の方へと踏み出す。


近い。そしてなんだか圧迫感が凄い。

私と同じ誕生日のタカちゃんは、私と去年の実り祭りまでは背の高さが変わらなかったのに、夏の頃からなんだか手足が伸びたし、なんとなく肌も色が黒く焼けてて、私よりも頭ひとつ分大きくなってきてて、今も肩を掴んだ手が力も強くて痛い。

ちょっと、怖い。


「えっと、神様の前でキ....キス....して、確か初夜?っていって二人きりで朝まで過ごすんだよ。そしたら村の皆から夫婦って認められるんだって。」

キスだなんて、恥ずかしい言葉をタカちゃんに伝えたのに、タカちゃんは真っ直ぐに私を見てるだけで、頬っぺたが今赤くなってるのは私だけ。


「....ふー....ん。

じゃあ....俺とアンジュで神様んとこでチューして誓ったら絶対に見せろよ。」


「なんでそんなに見たいの?!しつこいよ!?」

こんなに恥ずかしい言葉を伝えたのに....。


「なんでだよ!アンジュは俺の嫁だろ!アンジュの全部を知る権利が俺にある!」

そう言って、タカちゃんは直ぐに声を大きく荒立てる。しかもなんだか胸を張ってて、至極当然みたいな顔してるし....。


「....えっ....そうなの?全部?」

なんだか理不尽な権利?を主張しだして、タカちゃんが言うならそうなのかな?って思う。


「そう。全部。だから誓ったら見せろよ。今から教会行こうぜ!」

にやっと笑うタカちゃんはいつものタカちゃん。

さっきまでのちょっと怖い顔じゃなくなってて。


「お祭りの時期じゃないし、結婚式もないし、絶対鍵かかってるよ~....」

私だけ緊張するのがバカらしくなる位だ。


「大丈夫大丈夫!俺入れる場所知ってるから!」


早く早くと急かされ、背負い籠を肩に背負い直すと、タカちゃんは私の手を取って急ぎ足で森の奥へと向かう。

今日のお手伝いの分の草の実や茸が入ってるだけだから、いつもよりも軽いけど、なんだかずっしりと重い気がする。


村外れの森の中。

私たち子供が森の幸を採ったり、木の実を採ったりが出来る程度の小さな森。

ヤマメ程度しか捕れない浅い小川の向こうに建つ小さな無人教会。

結婚式やお葬式、あと命名式とお祭り位でしか使わない建物だ。

結婚式の新郎新婦が泊まる場所だともキアリーが言ってた。

2階に大きな寝室があるんだって。まるでお姫様のベットみたいな、カーテン付きのベットがあるってうっとりとキアリーが言ってた。


そのキアリーがタカちゃんの3番目のお兄ちゃんのガイ兄ちゃんが好きだって私のお姉ちゃんに、なんでか宣言するみたいにいってから、お姉ちゃんとキアリーはずっと喧嘩してる。

何で喧嘩してるのかはわからないけど、二人が喧嘩してるのをガイ兄ちゃんが困った顔しながら隠れてニヤニヤしてるのも、私は知ってる。なんだか歳が上の人たちの友達関係は拗れててちょっとめんどくさい。


タカちゃんにぐいぐいと手を引かれながら、ようやく丸太橋の近くについた。小さな森とはいっても用のない教会近くまで来る人なんて滅多に居ない。

やっぱり落ち葉が沢山教会の扉近くまで積み重なり、そろそろお昼も過ぎたお日様の光にあたって教会がいつもよりも寂れた感じがする。


「アンジュ、こっちこっち」

タカちゃんは教会の裏手に廻って、薪置き場の壁板をゴソゴソと探って。

「ほら、入れる!オク兄ちゃんから聞いたんだ俺。」

壁板をズイッと横にスライドさせると、ぽっかりと人ひとりが入れる位の穴が開いていた。

「こいよ」

タカちゃんに腕を取られて、ちょっと腰を抱かれるみたいに持ち上げられて、中に入った。


教会の中はとても高い天井の近くに明かり取りの窓があるからか、想像していたよりも明るかった。お陰で怖くはなかったけど、廊下を進むタカちゃんは中に入ってからはずっと無言で、繋いだ手だけが力強く握られてる。

廊下を進んで、小さな扉を潜ると祭壇の横に出た。いつもは両開きの大きな木の扉から入るから、なんだか視点が変わって変な感じ。

聖架の前に飾られた神様の描かれた大きなタペストリーをタカちゃんと手を繋いで見上げる。


「なぁ....アンジュ、今は冬支度前だからさ、花とか俺、用意出来ねぇから、アンジュは俺の嫁予約な。今日はさ、神様の前で宣言させてくれよ。えっと、なんだっけ、『汝を妻とし、今日よりいかなる時も傍に....』だっけ。俺、練習する。今日は予約....宣言式って事で。」

タカちゃんが繋いだ手をそのままに、くるりと私に向き合って、空いた手で腰を寄せる。

その手がするすると腰から背中に這い上がって、私を腕のなかに抱えて、おでこにキスをしてきた。


「予約....?」


「そ、予約。俺、絶対アンジュと夫婦になる。アンジュがずっと安心して暮らせる様にちゃんと猟覚えて、体鍛えてさ、ずっと傍で守るから。

男は女を守るもんだろ?俺の父さんも母さんは絶対守るし....。だから、俺が村で一番アンジュの全部を守るから。アンジュ、俺のものになってくれるか?」


おでこをくっ付けあって、凄く近くでお互いの眼を見つめ合う。

タカちゃんの夏の森みたいな深い緑の目が真っ直ぐに私を見つめてて、....ドキドキする。

小さな頃からずっと一緒に遊んで、ずっと傍にいたタカちゃん。

タカちゃんが傍にいるのは当たり前で、傍に居ない事なんて想像できない。

だから


「....うん。タカちゃん、私にお嫁さんの予約、してください....。」

そう小さな声で告げると、タカちゃんはフッと笑って。

その笑顔はなんだか知らない大人の男の人みたいな笑顔で、さっきのドキドキとは比べられない位、ドキッとした。


「予約....したからな....?」


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