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~11話~※百合導入回※

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食事の案内をニイゾノさんにされて、扉を出ようとしたところで、扉の脇にノースェンドさんが剣を腰に携帯した状態で直立不動の姿勢で立っていた。

「ノースェンドさんおはようございます。」

「おはようございますエミーリア様。...失礼致します。」


すっとしゃがんだ?と思ったら背中と膝裏に腕を通されてあっという間もなく抱き上げられる。

「では参りましょう。食堂までこのまま護衛致します。」

「歩けますぅ...」

半分諦めつつも、一応言ってみる。

「...エミーリア様。」


はい。何も言いません...。


溜め息をついて、ノースェンドさんの胸板に身体を預けると、なにやら満足気に頷かれて、歩き出す。


でも、ぼそっとノースェンドさんが何やら小声で独り言を言うのを真っ赤になりそうになりながら無心で聞き流すのには大変な精神力が要されてしまった...。


「なんだ...?...エミーリア様のお耳の下に赤い印が...。虫刺されか...?何か悪い虫が出たか?虫除けをご用意せねば...」


何とは言えなかったけど、どう考えてもテセウス様のキスマークだと思うのです。


きっと今私は頭から湯気でも出ているんではないかしら?と思う程に一気に一部(主に頬ら辺...)体温が上昇してしまうけど無表情を装う。

そのまま、食堂に着くと、扉の前にウェスダーさんがやはり帯剣した状態で立硝していた。

いつもの濃紺のチュニックの上にはエプロンではなく、聖殿の紋章が金の刺繍で描かれた水色のサーコート。その上から深紅の丈の短めなマントを肩に羽織っている。

「おはようございますエミーリア様。」

「おはようございます、ウェスダーさん。騎士服ってこうだったんですね。かっこいいですね。」

朝のご挨拶。

にこっと笑みを浮かべて、ウェスダーさんが扉を開けてくださった。うーん。男性的なお洋服だけど、どう見ても美少女...。なんか悔しいのは何故でしょう?


食堂にはモーリーさん、キャシーさんが既に待っていてくださって、ニイゾノさんが椅子を引いて、座ると同時に、座りやすいように椅子を戻してくれる。テーブルとの距離も申し分ない手際に感動する。

「ありがとうございますニイゾノさん。」

お顔を見て、感謝を伝えると、小さく頷かれながら、「敬称はお止めくださいね聖女様。」とちょっとだけ眉をしかめながら笑っていた。


「聖女様、本日の朝食でございます。」

キャシーさんが綺麗な琥珀色のジュレのコンソメスープ、温かい湯気が出ている焼きたてのパン、野菜の色どりが綺麗なサラダ、黄金色のオムレツ、イチゴを彩りよくバランスよくお皿に取り分けてくれて、用意してくれた。

アメリアさんがオムレツにチーズの香りが微かに漂うホワイトソースをかけてくれて、どうぞ、と下がる。


「うわぁ、綺麗ですね。ありがとうございます。」

キャシーさんが紅茶を淹れてくれて、そのまま美味しく朝食を頂いた。

ナイフとフォークを手に取ったのを見てからか、にこにこのキャシーさん、アメリアさん、表情のないモーリーさんが静かに下がっていってしまうのを見て。

やっぱり一人で食べるのかぁ...と思いながらだったけれど。


湯浴みの時間には、アメリアさん、キャシーさんが迎えに来てくれて、やっぱりノースェンドさんに抱えられて移動。

湯殿にノースェンドさんが入ろうとしたところで、キャシーさんに嗜められて扉の前で、ノースェンドさんは扉の前で待機ということで。

ようやっと床に立つことが出来た。

「では、磨きあげさせていただきますね?」


キャシーさん、アメリアさんがスポンジを手に手にして、しっかりばっちりあちこち洗われて、ぐったりとする事になるのは変わらなかったけど...。


髪を乾かされながら、午後のお召し物です、とアメリアさんが持ってきたお洋服に驚いた。

「え?!さっきのでいいですよぅ、もったいないです」


「聖女様...。ですが、湯を浴びられましたし、先程は朝のお食事の為の装いでございます。午後はコンラッド様がいらっしゃいますので...。



にこっと差し出される服と下着。

あれほど欲しいなぁ欲しいなぁと思っていた下着。合ったのか!?との思いもありつつ、一番気になるのは

「あの...でも、お洗濯とか大変ですよね..?




差し出されたのは、ハイウエストの切り替えが可愛い水色のカシュクールワンピース。袖はレース布が重なっていてとても上品。

下着もサイドのリボンが淡い水色のグラデーションで、こちらもとても綺麗。

コルセットも同じ色のグラデーションのリボンで締め上げるようだった。

繊細な作りのこれらは、絶対手洗い必須...。さっきまでのワンピースだって、とても丁寧な作りだった。


「そのためのハウスメイド達も居りますから。聖女様はなんのご心配も為さらないで大丈夫ですよ!」

笑顔に押しきられた...。


コンラッド先生がいらっしゃるまで、部屋で自習して待つことにして、またノースェンドさんが抱き上げる状態で移動。

歩かせる気が全くないですね、ノースェンドさん...。



自室で歴史の教本を手に取り、予習する。

羽根ペンがどうしても慣れなくて、何度か手をインクで汚してしまう。うーん。鉛筆がほしい...。


一人色糸で綴じた自作のノートの前でうーんと唸っていると、ニイゾノさんがどうしましたか?と寄ってきた。教本以外にもマナーや花言葉等、これから来るであろう貴族達との面会用にと、勉強に役に立つ本を持ってきてくれたのだ。

「どこか解らないところでもございますか?聖女様。私でよろしければお尋ね下さい。」


「あ、こんなに沢山本をありがとうございます。重かったですよね?すみません。」

机の端に乗せられた本の多さに驚きながら、お礼を伝えると、「謝ってはダメでございます。」と再び嗜められつつ。


「解らないところもそうなんですが、どうしてもこの羽根ペンが苦手で...。鉛筆がほしいなぁって思ってたんです。」

ほら、指が汚してしまうんです...と手のひらを見せつつ、鉛筆どこかにないかしら?との願いを込めてニイゾノさんに相談をしてみた。


「鉛筆...でございますか...。そうでしたね。聖女様はご実家がご商家でしたね。商家ですと鉛筆を使いますが...貴族以上は羽根ペンかもしくは鉄ペン、ガラスペンを使うのでございます。ですので離宮にはないかと...。

畏れ多くも王家以上のご存在で在らせられます聖女様のお持ちものとしても、用意が無かったのでしょう。ですが、しばしお待ちください。用意させていただきます。」


うーん、と唸ったのち、ニイゾノさんはキャシーさんを呼んで、何やら話をしてから、「鉛筆の件はお任せ下さい。それと、あと半刻程でコンラッド様がいらっしゃいますので執務室へ参りましょう。」

と、私の前で跪き、室内履きからヒールの高い華奢な靴を履かせてくれた。

脚に金具が触れないように足首のストラップを留めてくれる。

「もしかするとダンスの練習になるかもしれませんので一応ご用意致しました。履き心地は如何ですか?」


「わぁ、素敵ですね!でもこういう大人っぽい靴を履くの初めてです。」

歩いてみて良いですか?と聞くと、もちろんでございます、と頷かれ、椅子から立ち上がる。

視界が高くなって、おお!新鮮!とわくわくして。

一歩踏み出して、二歩、三歩...と進んでみた。

「凄く軽いです。素敵...。ありがとうございますニイゾノさん。」


パッとニイゾノさんを見上げて、視線を変えたのが悪かったのか、途端にバランスが崩れて、おもいっきりよろけてしまう。

「ぁ...!?」

転ける!


ぎゅっと反射的に目を瞑ってしまって、衝撃に備える。

けれども「大丈夫でございますか?」

ニイゾノさんに抱きつく格好で受け止められていた。

「わわわっ!すみません!」


「慣れるまで私の腕にお掴まりください。 聖女様、しばらくお部屋で二人で練習すると致しましょう。」


ホールドといいます、ダンスの基本姿勢ですから...と少しはにかむように唇の端が上がって、ニイゾノさんに向かい合いながら腰を片手で抱かれる様にして歩く。

「本当は腕も上げるのですがまずはパンプスの時の足捌きを覚えていきましょう。」


腰の少し下、お尻と腰の中間?そこに手のひらを添えられながら、しばらくお部屋で歩く練習をして、やはり馴れないせいか脹ら脛ががくがくになった。

けど、ほんのちょっと上手になった?と思う頃イースタンさんがコンラッド先生の到着を教えてくれた。

さあ、お勉強の時間だ。頑張ろう!





勉強は、歴史からだった。

今日と明日で大まかな歴史を浚ったら小テストと聞いて恐れ戦く。学生時代から小テストは苦手です...。自習しっかりしなきゃなぁ...。





***********



「では、キャシー頼みますよ」

と、ニイゾノにお使いを言付けられたのは確かにキャシーだったのに。

キャシーは貴族出身。鉛筆がほしいという聖女様のお願いを叶えるのに、鉛筆を見たことが無いと言う。

「モーリー、お願い。わたくしの代わりに行ってきては頂けないかしら?」

ね?と小首を傾げてお強請りするキャシーはやっぱり上品で、多分鬱いでいる私を思いやってのお使い交代なのも解る。

深い溜め息を一つ。

割りきれない気持ちを抱えて、私は離宮の外へと久しぶりに出掛ける。


アメリアあたりはちょいちょいと離宮の外へと個人的な買い物に勝手に出掛けたり、出入りの行商人と顔見知りになって適当に息抜きをしているようだが、私はそういうものが下手というか、要領が悪い。

杓子定規に『規定は規定』だと自己都合で歪曲させて都合よく抜け道を使うのが苦手だ。

要はサボり下手。

サボっている自分も嫌いだ。

だから...昨日までの四ヶ月間は苦痛だった。

四ヶ月だ。最初の2週間程はいつ聖女様にお目通りが叶うのかと期待して、緊張して。

従士を侍らせていると聞いて、私は勝手に聖女様を高慢で我儘な鼻持ちならない女のイメージを持って、怒りに任せて罵詈雑言をこれは愚痴だと思い込みながら、仲間に好き勝手に垂れ流した。


昨夜の聖女様との時間は...私の汚ならしい心根を浮き彫りにする程に清い光だった。

あれほど心待にしていた祝福は、魂が歓喜し、慶びに涙して震える程で。


その慶びが深く大きく膨れ上がる度に私の心根の穢らわしさが浮かび上がり、何故信じて待てなかったのかと己の汚ならしい心根が哀しくて哀しくて堪らなかった。

私は聖女様のお側にお仕えする資格など無いと絶望する程に。


余程顔に出ていたのだろうか?キャシーが朝から気にしてくれていたのだ。

この手のお使いならば適任はアメリアだろう。

でもちょっと気晴らししてきなさいっていうキャシーの心使いは素直に嬉しい。

ちょっと...離宮から離れて考えられる時間が嬉しい。


お仕着せ服の上から軽い羽織物を肩に、買い物籠を持って街へと出掛ける。

そう言えば聖女様のご実家はこの離宮のお近くだとか。確か聖殿の近くの金物屋だと聞き及んでいる。

ちょっとだけ...見てみようかな...。聖女様のご実家...。

不貞腐れてた昨日までの自分は嫌い。なんとか前を向く為に...どうしても聖女様のご実家を拝見したいと思ったのだ。


聖殿近くの街はそれなりに栄えていて、人通りも城下街よりは少ないが、かなり繁盛している街並みだった。

文具屋も貴族専用店の物に匹敵するのではないかと言う位に洗練されていて、安価な物から高価な物までと豊富だった。

鉛筆が複数ほしいと店員に訊ねると、「ご自宅用ですか?ご贈答用ですか?」と聞いてくる位にはサービスを理解しているようだったし、おまけです、と小さな試供品という消しゴムまで付けてくれたのには感心した。


鉛筆と対になる物だ。確かに必用であろう。なので消しゴムも追加で3つほど購入。

入り用の品を手に入れて、キャシーとアメリアへもお土産として可愛らしい押し花の透かしのはいった便箋のセットを購入。家族に手紙をよく書く二人に喜んで貰えたら嬉しいな、と思う。

文具屋から出てからは花屋を見たり、茶屋の軒先で流行りのカッファラータという苦さとハチミツの甘さとミルクの濃厚さの混ざった不思議な冷たい飲み物を手に歩いたりしてみる。


私の実家は地方の所謂、豪農だ。

場所柄この国のほぼ70%の農作物をうちがある地方が担っている。その中でも取り分け有名なのが、我が家とあと数件の豪農家だろう。


うちの何代か続く農園は、祖父、父、兄の無謀にも見える多角経営の挙げ句、農家同士の連携を保つという名目で、銀行擬きのような保険組合という不思議な経営まで拡大し、父は皇王家から名誉寄爵の打診をされるまでになっているらしい。父は面倒そうなのでいらぬと突っぱねているようだが。


それでもやっぱり私の地元は田舎だ。いくら発展しているといえども、風景自然が風光明媚と言えば聞こえはいいが、やはり田舎特有のもっさり感は拭えない。


聖女様のお生まれになった街は、洗練されているけれど活気もあって、『商売気質』豊かな店が並んでいる。切磋琢磨して商売を発展させている店が多い気がする。

角にある果物屋は軒先でフレッシュなジュースも売ってる様だし、パン屋は惣菜も扱ってるのか、色とりどりのサラダがショーケースから見える。


聖殿の前には噴水広場と、花壇。憩い易そうなベンチもある。

聖殿を中心に扇状に整地され発展している街並み。他の聖殿とはやはり違うのも流石、中央聖殿と呼ばれる聖殿といったところか。

この中央聖殿のある地から降臨なさった聖女様。

噂では幼い頃より信心深く、日毎に聖殿を訪れては祈りを捧げていたと聞く。神に愛された御子様の聖女様。

そんな聖女様に...なんで私はあれほどまで苛立ちをぶつける事が出来たのだろうか...。

己の未熟さが情けない。

どんな顔をしてこれからお仕えするのがいいのか...今朝は全く思い至らなかった。解らなくて無表情を装う等という情けなさだ。

「...はぁ...。」


溜め息をついて聖殿を眺められる位置にあるベンチへと腰かける。

冷たいカッファラータを飲みながら、ボー...と座る。

足を投げ出して座るのはだらしがないけれど。

石畳を歩き回った足には楽だ。


あとは聖女様のご実家を一目見て帰ろう...。


残りのカッファラータを飲み干して、はて、何処へ捨てていけばいいのか?と辺りを見回すと、花壇に大きな如雨露で水をあげている青年がいた。

厚手のエプロンには飾り文字でFが大きく刺繍されている物を身に付けている。

茶色の柔らかそうなカーブを描く髪の色は、聖女様に似ている気がするけど。

まさかなぁ...。聖殿に近いとは聞いたけれど、まさか隣の建物だったりするのだろうか?

あの建物のマークのFと、目の前でお水をあげている青年のエプロンのマークは同じ意匠な気がする。


もしかしなくとも...彼は聖女様の御家族様...?


「あの...」

恐る恐る話し掛けてみる。

「はい?どうかなさいましたか?お嬢さん。」

気持ちのいい明るい笑顔を向けられて、低すぎず高すぎない明るい声色はとても耳障りがいい。そんな声で返されて、「あの...私金物店を探してまして」とつい誤魔化してしまった。


だって...なんて言えばいいの?

聖女様のご実家は極秘中の極秘。

自分勝手に気持ちを整理したくて眺めに来ましただなんて言えない。

まして御家族に接触しただなんてバレたら懲戒で済めばましだろう...。ああ...なんて私は愚かな行為をしてしまったのだろう...。後悔しかないままに、誤魔化してしまった。


「ああ...解りにくいですよねー。聖殿の隣が金物屋ですよ!いらっしゃいませ!フローレンス金物店へ!俺、あそこの倅なんです。ご案内しますよ、お嬢さん。」

爽やかな笑顔を向けられ、空のカッファのコップすらいつの間にか彼の手元にあって、何となく気恥ずかしいまま、広場を横切った。

お店の前で、そうだ、自室の水差しを買い換えて帰ろうと思い付いた。

手でこのくらいのサイズの水差しを...と伝えようと彼を降りあおぐ。


「あの、水差しを...」


「天誅!」


大声に振り返ると、いきなり黒尽く目の男の大きく剣を振りかぶっている影絵が視界を占める...?

え?



「危ない!」

大声が影となって肩を抱き抱えられた。

ぶつかる衝撃とザシュッ!という何かが斬り裂かれる音、ブシャッ...と頬に熱い飛沫が降りかかる。叫び声と怒号が交差して、悲鳴を上げる間もなく、金物店の息子と名乗った彼の重さと彼に何者かの襲撃から庇われている事を理解した。


「やめろ!何をしている!?」叫ぶ声と誰かが走ってくる音。


グラリッと崩れ落ちていく金物店の彼を支えきれない。


「聖殿の犬め!神に愛された聖女め!消えろ!我が国の為に死ね!!」

立ち尽くす私に黒尽くめの男が何か液体をぶつけて高笑いして走り去って。

バシャッと顔から掛けられた何か。

ーーーーッ!!痛い!痛い!熱い!痛い!

何かを掛けられた、と思った瞬時にその耐え難い程の痛みに転げ回る。

「ひぐっぎやああっ!!!がぁぁぁあああーー!!!!ぎゃぁッあがっあああっ!!」

痛い!痛い痛い痛い熱い熱いっ!

あらん限りの絶叫が勝手に喉から飛び出していく。

顔から掛けられた何かが私を焼いているようで、痛みと痛みと痛みと熱に転げ回るしかない。

痛みの淵で垣間見たお兄様が...ああ...聖女様のお兄様が背中から血を流して倒れている...。


ごめんなさい...ごめんなさい...

薄れていく視界の中で、顔から胸元までの痛みと痛みと...ここに私が来なかったら、彼は怪我などしなかったかもしれないのに...という後悔と懺悔に涙がでそうだった。

駆け寄って来た人影が、これは確か従士の誰かだ、と思ったのを最後に私は意識を手放した。






************


午後のお茶の頃には、コンラッド先生の怒濤の詰め込み式お勉強時間も終わり、出された宿題の為に私はサウスランさんと離宮の中の花壇でお花を選んでいた。

花言葉を意識してお茶会の花を活ける...という宿題だ。

久しぶりに出た離宮の外。離宮のお庭と言えども久しぶりに太陽の下に出たのが嬉しいのと、サウスランさんがなんだかお兄ちゃんみたいに構ってくれるのが楽しくて、沢山の花を抱えながら花器を選ぶ為に離宮のへとそろそろ戻ろうか...と話していた時だった。

「サウス!!賊だ!」

駆け込んできたイースさん...?誰かを抱えている...。


「!!聖女様?!ッサウスッ!聖女様を中へ!早くッニイゾノを!」


全部を聞き取る前にサウスランさんに抱き上げられて私は離宮の中へと運び込まれ、ニイゾノさんとキャシーさん、あと数人の神官服を着た誰かが入れ違いに外へと飛び出していく。


え?...なに...?何が起こっているの...?


「聖女様...お部屋から出ずに。」


サウスランさんに自室へと連れられ、部屋をざっと調べたサウスランさんは、窓を閉め、カーテンを曳いて部屋から急いで出ていく。

私は...この不穏な空気にただ立ち尽くすしかない。

さっき...イースさんが抱き抱えていたのは...布にくるまれた隙間から見えたのは茶色の髪の色...あれは...モーリーさんだった...。

力無く...意識もない様な抱えられ方は...まるで...。


ゾッと、背中を駆け抜けたヒヤリとした何かを私は振り落とす様に部屋から飛び出した。


廊下を駆け抜け、階段を降りようとしたときにノースェンドさんが駆け上がってきた。

「エミーリア様!?何故お部屋に居られないのです?!」

「ノースさんッ...!何が...何があったの?!」

肩を抱かれるのを振り切ってノースさんの胸元を掴む。

「...教えて!ノースさんっっ!!」

「エミーリア様...」






無理矢理聞き出したのは、とてもとても胸が痛くて何かモヤモヤした物で心がいっぱいで...。

私は従者棟のモーリーさんの部屋の前に連れてきて貰ったのはいいけど、扉をノックする事を躊躇ってしまう。

無言で、背後のノースェンドさんがそっと肩に触れる。多分戻ろうと言いたいのだろうけれど。

首を横に振って自分の手をきつく握り込む。


静かに扉が開いて、ニイゾノさんと神官の誰かが出てきた。

「ニイゾノさん。」

「聖女様...。今神官に治療神術を充てて頂きました。ですが...痛みを除くまでしか行かず...。」

ニイゾノさんの表情は痛ましい物で...癒しの術を施してくれたのだろう神官も目を伏せている。

「...会えますか?」

「はい...ですが...」

ニイゾノさんが言い澱む程の重症なのだろうか?

神官の神術を持ってしても治らないの...?

扉の向こうで...モーリーさんは、どうしているのだろう?

私の替わりに...私に間違われて襲われたんだ...。

足元からぐっと沸き上がるのは、襲撃者への怒りと、モーリーさんを護りたい救いたいという気持ち。

「ニイゾノさん...退いてください。モーリーさんは、私の侍女です。」

一歩踏み出すと、私の足元から白い光が立ち上る。全身が光に包まれて、その光のなかで私は今どうすればいいのかを察した。

生命の源を与える。それは私にしか出来ない事...。


「私...多分...モーリーさんを治せます。」

きゅっとニイゾノさんを見上げると、頷いたニイゾノさんが静かに扉を開く。


内開きの扉の中は、ベット、鏡台、衣装棚と小さな机が整然とした部屋。

その中で、ベットの上でモーリーさんが包帯に顔を、身体を巻かれて...横たわっている。


「...モーリーさん...」


「!!聖女様...!?ダメですこんなところへ...お願いです...見ないで下さい...これは私への罰なのです。ごめんなさいごめんなさい...聖女様...!!」

微かに嗚咽を洩らしながらモーリーさんが布団に潜り込む。小さく丸く縮まりながら...。張り裂けそうなその声は、私への謝罪が籠められている...哀しい声で。


「ごめんなさい...ごめんなさい...聖女様のお兄様が...私...私...」


ぎゅっと握り込んだ布団の手を、そっと握る。

モーリーさんのその手は火傷の跡の様に皮膚が爛れて。

私はその手へと口づけた。

私の体から光が溢れる。

口づけた場所が、キラキラとした光の粒を纏ってモーリーさんの手の中へと消えて、火傷の跡がゆっくりと消えていく。

「モーリーさん...。」


ゆっくりとモーリーさんの布団を剥いで、包帯に巻かれた箇所をほどいていく。

爛れた顔、火傷した胸元、火膨れた腕や、縮れた髪をみて私は涙が溢れた。


爛れた額、瞼、頬、そして唇へとゆっくりと口づけする。

チュッ...チュッ...と口づけをしていく度に私の中から光が溢れる。その光がキラキラと小さな粒になって、モーリーさんの傷付いた部分を癒していく。

私は髪を指で梳かして優しく撫でながら。

ゆっくり彼女の傷へとキスをする。


「モーリーさんの...身体を...見せて...?」


チュッ...と頬へ口づけをして、唇に触れる。

柔らかいそれを人差し指でゆっくりと撫でると、モーリーさんから吐息が漏れる。

「生命の源をモーリーさんに...」


「聖女様...お止めください...これは私への罰なのですから...私...聖女様のお側に仕える価値がない...」

ホロホロと涙を流すその瞼へと口づけて、涙を啜る。

「モーリーさん。ダメですよ?貴女の価値は私が決めます。貴女は私の侍女なのでしょう?」


小さく息を飲んだ柔らかな唇へとキスをする。

チュッ...チュッ...と何度も何度も口づけて、小さく上唇を舌で舐め、開いたそこへと深く口づける。チュッ...チュプ...と湿った音が漏れて「ッん...ふ...」と小さくモーリーさんの口から吐息が漏れる。

そのまま、口づけたままモーリーさんの寝着をはだけていく。

左前に合わせたそれは、腰ひもで結わえただけの前開きの寝着。多分治療しやすいようにガウンの様なそれを着せているのだろう。


顎から首すじへと手を這わせると、ヒクリッとモーリーさんが振るえた。


「モーリー...私を感じて...?」


光の粒がモーリーさんを包む。

キラキラと光って、私とモーリーさんを包む。

ふんわりと盛り上がる胸を優しく包むように手のひらで撫で、そこへ唇を落とす。

ふわりとした柔らかさ。

この柔肌に私の服が触れると痛いだろうな、と思った。

「...脱がせて。」

そう言うとニイゾノさんがするり、と側へ寄って。

するすると脱がされる服。少し骨張った指が下着のリボンを解いて、静かに抜き去っていく。


そのまま私はモーリーさんへと口づける。

ニイゾノさんが静かに扉を閉めるのを感じながら。

私は一糸纏わぬ姿で、モーリーさんの上に跨がる様にのし掛かった。




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