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~1話~

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お久しぶりです!いらしてくださって嬉しい...

ああ、お客様もいらっしゃるんですか。ええ、どうぞ!


外は雨なのですね?恵みの雨の季節なのですね。


はい。はじめまして。

エミーリア=フローレンスです。

この前数えで16歳になって、成人の儀を終えました。

あの日、聖別 という儀式を経て、神から人生の指針である職の適正を授かり、私は確か...1200年ぶり?の聖女という職を賜りました。


幼馴染みの?...ああ、サミーリャですか?彼女はずっと憧れていたお針子ではなく、教職への適正を授かり、町から出て上級学校へ編入してしまい、聖女という職への愚痴もなかなか溢せない様になってしまいました。


はい。同じ年のお友達も、其々に適正な職業の訓練をしていたり、花嫁の修行に入ったりと忙しくなってしまい、目下、暇なのは私だけ、なのです。あ、暇というか...ええとですね、あ、話しても大丈夫なんですか?はい。


聖女という職業が何をするのか、というと。

週に3日程、木曜日、金曜日、土曜日の3日間、聖殿の奥の噴水というか、清水での御祓という沐浴をして、祈りを捧げ、神酒と呼ばれるお酒を飲んで、聖果という果物を食べて眠るだけ、なのです。

起きると神父さまがにっこり微笑んで、「お疲れ様です。よく頑張りましたね?」と労ってくださる...そんな楽な仕事なのです。

え?大変ですか?

いえいえ、とんでもないです!ありがとうございます。


でも...正直なーんにもしてない...ですよね?

お酒のんで、果物食べて寝てるんだなんて、友達には言えません。

なにそれ!!って憤慨されちゃうじゃないですか...。

なのに、私のお給料というか、聖女維持費とでもいえばいいのか、渡される金額はお貴族様か?ってくらいの大きな額。

聖殿は神官さま方は聖職であらせられるけど、皆さん男性なので、同じ場所と言うわけにはいかないとのことで、この離宮と呼ばれる小さなお城みたいなお屋敷に住まわせて頂いてます。


小さなっていっても、とてもとても実家と比べると、実家は物置小屋以下だったのか...と脱力してしまいそうな程の小ささに思える位、大きなお屋敷なんですが...とにかく立派な住居を与えられ、屋敷の維持に、とメイドさんや、しつじと言う管理?の方が私の為にと派遣されています。

衣服もこんなお衣装を作ってみたかった、と思うほど美しく軽やかな生地のワンピースが沢山...。


え?不満ですか?

他に欲しいもの?

特にない、です。


あ、不満はひとつだけ。

は、恥ずかしいです...えと、はい、その......


下着が...あの...ないのです。


聖女さまっていう仕事は、神に与えられたお職なので、出来るだけ身につけるものが不浄ではならない、とのことで...。

汗なんてかこう物なら...イヤ、あの...普通のもにょもにょ...でも、終わると即座に湯浴みです。

それも一人で入るのは御祓の時だけで、普段離宮での湯浴みは、メイドさんが3人位私についてくれて...その...全部を洗いあげられてしまうんです!

あの...恥ずかしい部分も、全部なんで...何度も何度も一人で出来ます!って抵抗したのですが...無駄でした...。


気力がガリガリ削られる時間なので、なるべく無心で挑んでいます。


今はなるべく水分や繊維質を取らないようにしてます...。


恥ずかしいから。


ええと、お食事ですか?

はい!とっても美味しいです。

食事はおうちにいた頃は、朝にミルクと前日の残りのパン、スープが残っていたらそれも。

夕方に家族とスープと、焼き物があればそれと、あとは雑麦の硬いパンが当たり前な食事でした。


ええ?!

貧乏だったのか?ですか?

いえいえ、ほとんどの下町の平均ですよー。

たまに果物が手に入ればそれも食べられましたし。普通です。普通。

なので、今は食べ過ぎ...だと思うんです。

なんとなく、太った...ともお恥ずかしながら思うんです。

だって、腕とか、お腹とか、ふ、太ももとか...ぽちゃぽちゃしてきたような気がするんですよー。


な!なんで笑うんですか。

酷いです。神父さまったら。

お客さままで!もーっ...






***************************



「いいね。可愛い。聖殿の秘匿する聖女様って噂を聞いてどんな高慢な女がいるのかって思ったが。あの子はいいね。サンドーム。」


またよかったら来てくださいね!なんて可愛い事をいって、昼に焼いたというクッキーなる焼き菓子を包んで寄越した聖女。

あの子はこの私を全く知らないのか。


「猊下、エミーリアはごく普通の下町育ち。ご尊顔を存じ上げないのも致し方ないと諦めて下さい。」


サンドームが笑うとは。

余程聖女の降臨が嬉しいと見える。

あの何物にも執着を見せなかった男が、こうも慶びを表現するとは。


「余程佳いのか?...あの娘は?」


「...ムケール神の思し召した聖女ですので。」


「主神の力を朕に取り込む儀式があったな?朕に聖女を寄越せ。」


愛でてみたい、と思ったのはあの無垢な笑顔には似つかわしくないこの国特有の巫女や種子の淫靡なオーラのせいか。


いや、あの聖女のそれは、それらよりも清廉でそれでいながら淫らな空気を纏わせている。

「奇跡の聖女の降臨で、神官やサンドーム。お前たちはかなり激しく夜毎に勤しんでいるのだろう?」


聖女の力の発現条件は神域での絶頂だ。

神官たちの普段の重大な仕事でもある。己の生命力の発現であるエクスタシーをムケール神の像に捧げる。

花祭りで御子として選ばれた種子達の若者達の行く宛は神官職であるのだ。生命力の発露が強いのは当然であり、必然だ。

御子である乙女たちは王宮へと傅く決まりである。奉仕するのが仕事であるが、見初められて高貴な身分に召し上げられる事も多い。

快楽に弱く肉欲に強い御子は、強い子を産むのでそれなりの家系の者達にとっては一族の強化になり、有難いのだ。

実情を知らぬ、町のごく普通の乙女たちにはその仕事である花のメイド職が、【憧れの職業】であるとは皮肉なものだが。


種子たちの上である神父やら司祭やら枢機卿やらになると大概が貴族の既得権になる。


まぁ、この既得権を有する連中も、ここでどれだけその年の御子を数多く娶ることができるか...で実力を推し測るところがある。

毎年選ばれる御子を如何に多く発露させられたか...だ、などと。

それこそ神の思し召し以外の何物でもないというのに、無駄なことだ。


普段の【一人で捧げる】よりも、効率がある花祭りの御子達との交わりはさらに良質な生命力の発現。

ムケール神へと捧げられることにより、国境の強化となり、土地が潤う生命の泉となる。


年に1度と言わず、何度でも行えばいいのにと、私等は考えるが。


「滅相もございません、猊下。我らはきちんと聖殿を調え、聖女に御祓をしていただいてからでなければ為らぬ掟でございます。万が一儀式が成されるので在れば、猊下にもそれ相応の御寄進を神に捧げて頂き、さらに御身の御祓をしていただいてから、となりましょう。」


真面目なサンドームはあくまでも儀式を推奨するか。

こやつの抱える御子の噂は、そういえば聞いたことがない。なかなかに底を見せない食えない男だ。


「...まぁよい。金はくれてやる。朕の褥に聖女を寄越せ。」


「それは成りませぬ。聖女様は聖殿...聖壇の前で為されなければ神の怒りを買いましょう。」


一聖殿が聖女を囲う。

本来ならば総本山たる王宮神殿が聖女を迎えるものであるのに、あのサンドームが此れだけは頑として受け入れない。

一体何事かと見に来てみれば、浮世離れした妖精のような儚い美しさの【聖女様】ときた。


くりっとした瞳は天真爛漫な純真無垢さ。

あまり高すぎない鼻も従順そうな表情をさらに純朴にみせていたし、ぽってりとした小さめの唇は、柔らかい花びらの様で、むしゃぶりつきたくなる程旨そうなのに、微笑む様子は此方の劣情なんぞ考えもしないような、例えるならば幼子のような人懐っこさだった。

そのある意味幼い表情とは相反する程にたわわな胸の稜線。

薄絹のおかげでそこにある果実の尖りも見えた。

なだらかな腰付きに、大きめな尻肉。

裾から覗く脹ら脛もすんなりと伸びていて、柔らかそうだった。

緩くカーブした髪は淡い茶色で、素直な性格をしているのだろう。

華美に飾られておらず、胸元を隠すようにゆったりと2つに肩口で結われていた。

美しいのに子供のようなアンバランスさ。

体が放つのは妖艶で淫靡であるのに、瞳の光や表情は童の純朴さ。


組敷いて哭かせてみたい。

柔らかい肌を赤く染めながら、悶える様を見たい。

そう思うのはそれこそが『聖女』だからか。

いや、たんに興味か?


「...では『教育』を朕が施そう。ならばよかろう?」


頑なに秘匿する気配を見せるサンドームの顔から薄く見えていた表情が消えている。


「神殿が、ですか?」


「...いや、朕...コンラッド家次代当主ゾイドとしてなら、よいか?」


「...請け賜りました。」


「では早急に手配致せ。」


あまり嵩に着せたくはないが、ここで私に逆らうのは得策ではないと判断する程度には、サンドームも強かだ...ということだろう。素直に頭を垂れるサンドームを見て、溜飲を下げた。


ひとまずの楽しみができた。

聖殿を後にしながら、どう教育を施そうかと思案する。


あの幼さの残る穏やかな笑みを、啼かせて喘がせて懇願させたら、この沸き上がる嗜虐感は治まるのだろうか?


************************





滅多にないお客さまが帰って。

与えられたお部屋で私は、日課の教典の写本をする。

難しめの単語は古文だからだろうか?

ほとんど頭に入らない。

羽根ペンはすぐインクが垂れてしまうのも、私が慣れないからなのか。

吸い紙で盛り上がってしまったインクを吸い取りながら、ため息がでる。


花祭りで、私は緊張からか気絶してしまったらしい。

うっすらと記憶にあるのは、とても熱い何かに身体を翻弄された事...。

優しい声の神父さまに何度も撫でられた様な気がするけど...。


それを思い出そうとすると、カッと頬が熱くなって...人には言えない場所がじゅわり...と、恥ずかしい事になる。

なんでこの年になっておもらししそうになるんだ...とガックリきてしまう。


それでも、じゅわり...となるときに...お腹の奥がきゅんっとして、胸のなかがドキドキと熱くなる。

そんなときに頭のなかで優しい声が聞こえてくる気がするんだ。


エミーリア、と呼ぶ優しい声。

その優しい声が、あ、あ、あっ愛してる...って!!!

低くかすれた声で繰り返し囁かれるような...大好きで尊敬している神父さまの、知的で優しい声が...甘く囁く。


本当に言われたような気がするけど...そ、そんなことないよね!!!

完全に私の妄想だよね...。

だって、神父さまだもん。

......神父さまだもん...。

大好きだけど...兄より年上で、多分お父さんと同じ?位?

うわぁあゎわわわっ!

いかん。ダメ!神父さまだもんっ。

でも...このきゅんってするのって...こ、恋とか...なのかなぁ...。


最近は神父さまの声を思い出すだけで、何故か胸の先が固くなる。

ジクジクと痛くなる程固くなって、ワンピースがさわっと擦れると、ジンジンと熱くなる。

こんな変な事になってる私、どうかしてしまったのだろうか?

いつもは判らない事はお兄ちゃんや、サミーリャ達に聞いたりしたけど...今は独り...。

誰に聞けばこの妙な熱を冷ます方法がわかるんだろう?

こんなことばかり考えてしまうのは、何故なんだろう。

本当に、どうかしてしまったのだろうか?不安になりながら、写本を続けるしかなかった。


古典教典の言葉の煩雑さに軽く眠気すら覚え出した頃。

小さくノックの音が聞こえた。

「はい。」


「聖女さま、夕げの準備が調いました。」


音を立てずに扉が軽く開いて、メイドさんのノースさんが深々とお辞儀をしている。

まっすぐに伸びた背中が、腰のあたりからきっちりと曲げられて、見ているだけでこちらまで背筋が伸びる。

ノースさんは、栗色のまっすぐな髪を肩口よりも少し上で、ぱつんっと切り揃えてて、結わく訳でもないのに、その髪型は乱れひとつない。

香油とかで整えてるのかなぁと思うけど、あまりそういう無駄話を好まないんじゃないかな、と思ってしまうほど無表情だ。

スラッとしたスレンダー美人さん。

長袖で被われてるから見えないけれど、腕とかも長くてスッとしてて、指が長くて手が大きいのも大人っぽくて。

多分私よりも年上なんだろう。とても落ち着いている人。


聖女付きの筆頭従士だ、と初めて会ったときに紹介されて、あ、これは私達女の子憧れの上級職、メイド職の方なのね!凄い!って感動してしまったんだ。

『わぁ!凄いです!私達憧れのメイドさんなのですね!初めてメイド職の方を拝見しました!感動です! あ、私、沢山いたらない部分がありますが、よろしくお願いいたします!』って挨拶したら、一瞬とても驚いた様に目を大きく見開いて、ちょっとだけ、笑った?と思うくらいには表情が柔らかくなったんだけど...。

あれ以来、ノースさんは、表情が動かない。


なんの教養もない普通の私が聖女だなんて、きっと残念に思われてるのかもしれない...。

従士って、聞いたことがないお職だけど、メイドさんって正しくは従士って言うのだと勉強になった。


ノースさんと他にも、サウスさん、ウェスさん、イースさんが主に私についてくれている。

着替えを手伝ってくれたり、湯...湯あみを手伝ってくれたりと、甲斐甲斐しくお世話してくださる。


「はい。食堂でいいですか?」

机の上のインク瓶に蓋をして、羽根ペンをペン立てに挿して立ち上がる。


さらり、と上質な布地のワンピースがさっきジンジンとした妙な熱をもつ胸の尖りを掠めた途端、ツン、と立ち上がってしまった。ダメだ。これ、お兄ちゃんがずっと前に言ってた。

確かあれは、六歳の頃だと思う。

お医者さんゴッコがあの頃のお兄ちゃんのお気に入りの遊びで、あの時、聴診器に見立てたお兄ちゃんの指に摘ままれて、こうして固くなってしまったんだった。

そのときのお兄ちゃんの慌てかたは尋常じゃなかった。

『俺の前以外でこんなになったのを見せたらダメなんだぞ!』と叱られて、これはいけない状態なのだとあの時に覚えたのだもの。


不自然にならないように、髪の房を前に垂らして隠す。

チラッ...とノースさんの視線が動いた気がしたけど。


差し出された手のひらに、指先を乗せて、そのまま促されるように廊下に出た。


さらさらと胸元が衣擦れる度に、熱くなるのをひた隠しに歩く。

ああもう...まただ。じゅわり...と、もどかしい熱が体を渦巻く...。

この理解不能の熱をどうしたらいいの?と、頭の片隅で悩みながら、これから広い食堂で1人きりで食べる夕げを思って、憂鬱になった。


ちょっとだけ、お兄ちゃんを思い出したからか、ホームシック...なのかもしれない。いつも隣に座ってたお兄ちゃん。肉や魚が出るといつもサッと取られてしまったり、お兄ちゃんの苦手なセローリが出るといつの間にか私の皿に乗せられていたりしてた。

そばにいるときは、かなりムカついてケンカも沢山したけど...。


やっぱり、1人は寂しい。


「聖女さま...?」


浮かない顔を見せてしまったのだろうか?慌てて俯きかけた顔をあげて、ノースさんを見る。頼んだら一緒に...ごはん食べてくださらないかなぁ...と思いながら。


「あのですね...いえ、なんでもない...です...。」


無表情に迎えられると、そんな思い付きも言葉に出来なくて、やっぱり俯いてしまった。


「...聖女さま。私は貴女様付きの従士です。なんなりとお心を伝えて下さい。」


硬い声だけれど...ノースさんを見上げると、ほんの少し、ほんの少しだけ、微笑んでくれた...?

うっわ!美しいってこう言う人を言うんだろうなぁ。

物凄く貴重なものを神様ありがとうございます!って祈りを捧げたくなる位、ドキドキする微笑だった。


「聖女...エミーリアさま...? どうなさったのか、教えてください」


手のひらに乗せている指先を、スー...ッと親指でなぞられた。

ゾクッ...とした痺れが全身の表面を撫でる。

「ぁ...ふぅ...ッ」

思わず変な声が漏れた。


「エミーリアさま?」


ぐっと、手首を掴まれて、ノースさんの腕のなかに倒れ込んでしまった。そのままぎゅっと抱き締められる。


「お付き筆頭の自分にだけは、何でも話してください。エミーリアさま。」


少しの間、強く抱き締められて、すぐに背中をポンポンポンポン...とあやすように軽く叩かれる。

やっぱり働き者のノースさんの腕は、私なんかよりもしっかりと力強い。肩幅も胸元もしっかりしていて、女性とはいえ仕事で鍛えられてるのかな、と思う。


そして優しい。


気遣いの優しいノースさんは、こんなあやふやな私を心配したくれていたのだろう。

気が付かなくて、自分の事だけで手が一杯になりすぎて、周りの人への感謝とかを御座なりにしてなかったか?と反省した。


「はい...ありがとうございます。ノースさん...。」

笑顔でお返しして、きゅッとちょうどいい高さの腰を抱き返した。


「あのですね...」


私の願いを聞いてもらう。叶うかどうかは別として。




****************************



結論。


ノースさん達の召し上がる物と、私の食事の内容が違う為、【共に】という私の願いは叶わなかった。

私の食事は、どうやら聖壇へ捧げられたのち、神の生命の滴を垂らし、清められた物だということだった。

ノースさん達従士さんらは、従士舎というところで用意されているため、ここで食べるのは職務規定違反なのだという。

それでも、いつものように壁際で立つだけではなく、座席に腰かけてくれることと、たまにはお茶程度なら付き合うのは大丈夫だと執事長さんから許可を貰ってくれた。

一人で食べて、それを眺められている苦痛からはとりあえず脱した...と思うことにしよう...。

すぐに結果が判るように動いてくれるノースさんや、サウスさん、イースさん、ウェスさんの優秀さに感謝しつつ。

広いテーブルの一角で、こんなに近い必要あるのかな?って戸惑う事態に陥っていた。


お昼御飯までは、イースさんが給仕を、ノースさんが私の側にいて、希望するメニューをイースさんに伝える。

ウェスさんや、サウスさんは、壁際で静かに立っていたように記憶してるのだけれど。


今、一緒に...と希望したからでしょうか...?


ノースさんの膝の上で、イースさんに食べさせられながら、左右をウェスさん、サウスさんに挟まれながら座っている。


思いの外、近すぎる距離に赤面してしまうのは仕方ない。と、思う。

飲み込むのもやっとの状態で食事を終わらせると、湯あみの時間が来ていた。

これも聖女のお勤めのひとつ、と聞いている。

常に御祓状態...清潔に、ということなのだろう。


いつもなら、手を引かれながら移動なのだけど、ノースさんが

私の膝裏に手を入れて、背中に片手を回して抱えあげる。

「ええ?!や、やめて下さい重いから!!」

慌てて身動ぐと、「エミーリアさま、お静かに...裾が上がってございますよ」


囁かれて、足をみるとサラリと滑るようにら柔らかくて滑らかな生地が腿の上まで捲れ上がってしまい、小さく悲鳴をあげる。

端ないと嗜められ、そのまま湯殿へと連れられてしまった。


湯殿は、真っ白な艶々とした石作りのお風呂場で、泉の様な流れ出る滝のついた大きな湯舟と南国の木々が木陰を作る広い洗い場と、横たわりながら、メイドさんによって(私が)洗い上げられる傾斜のあるソファーとベッドの中間のような大きな藤の椅子があり、どうにも落ち着かない。

湯殿の扉のすぐ手前にある脱衣場は、やはり藤の背もたれが扇のような椅子と、大きな南国の葉が添えられた人の背よりも高い花瓶の置かれた小部屋が用意されている。

どちらも絵本で読む様な異国情緒が溢れる、不思議な作りのお風呂だ。


この時の湯浴みでは、椅子の横に畳まれて用意されている【湯帷子】と呼ばれる薄衣の、簡単な前袷せの羽織ものを素肌の上に羽織る。

この脱衣の時も、いつもノースさんと『自分でできる』と、『いえ側仕えの仕事です』との押し問答があるのだけれど。


今日は湯帷子が、ない...?

椅子にそっと置かれながら、疑問を込めて

「あの...?」とノースさんを仰ぎ見た。


しっとりと見つめられ、私の前に踞くノースさんに、ワンピースの前見頃の小さなくるみ釦を1つずつ丁寧に外されながら、


「実は、先ほどサンドーム神父長様からご連絡がありまして。

近くエミーリアさまの聖女としてのご教育が始まりますので、本日より聖女さまへの清拭方法が本格化致します。

本来であれば神父長様御自らが為さりたいとの仰せでしたが、僭越ながら従士隊でのご奉仕をさせていただきます。」

と、熱を込めた視線で告げられてしまう。


「は...い...?」

なんだろうか...少し怖い位の視線で、返事をしながらも、その視線には、ゾクッと背中から痺れる様な感じがする。


「エミーリアさま、我等も今日からは沢山触れさせて戴きますね?」


触れるか触れないかの力加減で、するり、と髪を背中へと流され、肌の全てを曝してしまう羞恥と、普段見たことの無い程に、妖艶な気配のノースさんの視線に、どうしたら良いのか、でも勉強の準備ってことは、どういう意味なの?と混乱する。

抱き上げられ、湯殿の洗い場でイースさんに渡される。そのまま洗い場のソファーベッドへと腰かける様に降ろされ、イースさんが手桶で私に湯を掛け始めたらノースさんがイースさんへ頷いて離れていく。

ノースさんも湯帷子に着替えるのだとイースさんに告げられて、よくよく改めて見ると、皆さんは普段の濃紺の、長袖で長い裾が体を被うチュニックに長いエプロンの服装ではなく。

イースさんも、サウスさんも、ウェスさんも水色の湯帷子で、軽く開いた前を腰に結わえた帯が抑え、鍛えられた太股が垣間見える。


私にはない筋肉の陰影がその脚に見える。


あれ...?


うそ...。


「黙っていてすみません、エミーリアさま。

我等はメイドではなく、聖従士...聖騎士見習いなのですよ。貴女仕えの...ね。」


気配もなく私の真後ろに立ったノースさんが、スッと私の両肩を軽く抱き締めた。

ゆっくりと這い降ろされる手のひらが、吸い付く様に密着している。

細く長い指は、よく見ると節々がしっかりしていて、男性の手...?

「エミーリアさま、我等従士隊は貴女の物です。怖がらないでくださいね?」


そろりと這いながら、肩、二の腕、肘...と揉みほぐされる。


それを合図に小さく声が出そうな程熱い手のひらが、8本。

一斉に私の体をゆっくりと揉みだす。


「僕に足を。エミーリアさま、ウェスの指は絶対貴女様を痛くしないですから、安心して?」

足先を持ち上げられ、ウェスさんが足の甲へ口付ける。


「だめです、そ、そこっ!汚いですっ!」

慌てながら引こうとすると、やんわりとだけど、引けない力で引き戻される。

そのまま軽く音を立てながら、ウェスさんが口付けながら、あがってくる。

膝頭をペロリと舐めるその表情は、今まで見てきた無表情なウェスさんではなく、男性そのもの...。

黒髪に茶色い瞳のウェスさん。

四人の中で一番小柄で、くるくると跳ねる短い髪が愛らしい同じ年頃の女の子だと思っていた。


褐色の肌のサウスさんの栗色の長い髪が、私の上で影を作る。

私の腰に手を這わし、背中に手を当てながら、

そのまま私を横たえて、低い声で囁く。

「聖女さま。俺とは初めて言葉を交わしますね?...ずっと聖女様と話したかった。」


おへそへと口付けながら、私を見上げるように見つめてくる。

熱い視線を感じながら、ドキドキと速打ちしだした心臓の音に翻弄されそう。


こんな事は、いけないけれど。

いけないのだと頭では理解しているのに。

強張った体は動かない。


「聖女様。これは必要な事ですので、貴女に奉仕させていただきますよ...たっぷりと。」

イースさんは、小さな壺を片手にニヤリと笑う。

金髪のイースさん...眼鏡の奥の煉瓦色の目がしっかりと私を見ていた。

背の高い大人の女性だと思っていた。

まるでお洋服のモデルの人のようにスレンダーで、短い髪型も大人の女性だと似合うんだなぁって、ずっと思っていた。


ニヤリと笑うその表情は、まるで遠い国に居るという豹のようだ。

肉食獣の前で、抗う術などは私には無い。

縮こまる様に体に力が入る。

その強張った体を、ノースさんが口付けながら、柔らかく撫で回す。

「大丈夫です。我等は決して貴女を傷つけたりはしない。安心して身を任せてください。」


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