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【1章】選択肢ミス
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"ぼく、おおきくなったら にいちゃんみたいに つよくなって、びいねえちゃんみたいに だいすきなひととけっこんして、おかしもこーひーも つくれるようになって、しいねえちゃんといっしょに このおみせを つぐんだ!"
って、弟は言ってくれてたっけ。
「…あれからもう、1年が経つのね」
墓前に花を供えながら母さんが言う。その声は穏やかで、でも、父さんはそんな母さんを支えるように肩に手を添えて そっとさすっていた。
私の背にある十字架。重すぎるそれは、家族が何を言おうとも軽くなることはない。
「…シーも、少しずつ 自分を責めないようにしてね」
「辛くなったら、すぐに父さんか母さん…もちろんエィフィルやティビーでも良い。溜め込まないできちんと言いなさい。……お前が背負う必要なんて、どこにもないんだから」
私を挟んで座る兄と姉が父の言葉に頷いて、優しい色を浮かべているであろう瞳を私に向けているのが分かる。
「………うん、ありがとう」
もう少しここにいるから 先に帰ってて。そう告げると、両親は私の頬にキスをして去っていった。兄は大きな手で私の頭を優しく撫でて、姉は痛いくらいに強く私を抱き締めて、帰って行く。
そんな家族の愛が、私を責めない家族の優しさが、逆に私には身を裂かれるほどに 痛くて辛い。
________
1年前。弟、マディは 俗に言う"魔力欠乏症"で命を落とした。
5歳になったばかりだった。
魔力欠乏症。
それは、生まれたばかりの赤ん坊から5歳くらいまでの子供が引き起こす突発的な病である。
そのくらいの年齢の子供は、人間が多かれ少なかれ持つ魔力の制御を上手に行えない。制御の練習をしていたとしても、だ。それは感情が急に昂り 抑え切れなくなった時_例えば、危険を感じて身を守ろうとして、自分の持ち得る魔力を全て放出してしまうなどして、魔力が空になることで引き起こされるのが"魔力欠乏症"というものなのだ。そうして"魔力欠乏症"になってしまった、体力もなく未発達な彼らの身体は、生存維持をできずに死んでしまうことがあるらしい。しかもそれは数分の出来事で、治療費はとても高いが治せる可能性のある教会に行く時間さえないのだと言う。
ポーション等では治らないそれを治す、または予防するための研究は続けられているらしいが、未だ結果は出ておらず、国内では毎年数百人の幼い命が失われている現状だ。
何の障害もなく、元気いっぱいで産まれてきた弟。
私たちは物心つく前からマディには魔力の制御を教え、聞かせていた。
だけど、あの日。
"しいねえちゃんっ…!!!!"
12も年下の弟。可愛くて可愛くて堪らない、愛してやまなくて、大切だと思っていた弟を。
私は、目の前で、彼を死なせてしまったのだ。
私のせいだった。
「ディー、ごめん……ごめんね…っ」
私の、せいなのだ。
________
「…!兄さん、姉さん……」
5つ年上の兄と3つ年上の姉。
私が腰を上げたのは家族が帰ってから約1時間経った頃だったと思う。
家路へついた私を待っていたのは2人だった。
「もう…、こんなに目真っ赤にして…」
もう既に帰っていたとばかり思っていたので驚いていると、姉が優しく目の縁をなぞってそう言った。
「…行くぞ。父さんと母さんが家で待ってる」
「……うん」
口調はぶっきらぼうだけど、もはや定位置になった私の頭の上に手を置く兄の声も 顔も、優しくて、温かくて。安心しつつも、やはり私の胸はぎゅう、と苦しくなる。
って、弟は言ってくれてたっけ。
「…あれからもう、1年が経つのね」
墓前に花を供えながら母さんが言う。その声は穏やかで、でも、父さんはそんな母さんを支えるように肩に手を添えて そっとさすっていた。
私の背にある十字架。重すぎるそれは、家族が何を言おうとも軽くなることはない。
「…シーも、少しずつ 自分を責めないようにしてね」
「辛くなったら、すぐに父さんか母さん…もちろんエィフィルやティビーでも良い。溜め込まないできちんと言いなさい。……お前が背負う必要なんて、どこにもないんだから」
私を挟んで座る兄と姉が父の言葉に頷いて、優しい色を浮かべているであろう瞳を私に向けているのが分かる。
「………うん、ありがとう」
もう少しここにいるから 先に帰ってて。そう告げると、両親は私の頬にキスをして去っていった。兄は大きな手で私の頭を優しく撫でて、姉は痛いくらいに強く私を抱き締めて、帰って行く。
そんな家族の愛が、私を責めない家族の優しさが、逆に私には身を裂かれるほどに 痛くて辛い。
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5歳になったばかりだった。
魔力欠乏症。
それは、生まれたばかりの赤ん坊から5歳くらいまでの子供が引き起こす突発的な病である。
そのくらいの年齢の子供は、人間が多かれ少なかれ持つ魔力の制御を上手に行えない。制御の練習をしていたとしても、だ。それは感情が急に昂り 抑え切れなくなった時_例えば、危険を感じて身を守ろうとして、自分の持ち得る魔力を全て放出してしまうなどして、魔力が空になることで引き起こされるのが"魔力欠乏症"というものなのだ。そうして"魔力欠乏症"になってしまった、体力もなく未発達な彼らの身体は、生存維持をできずに死んでしまうことがあるらしい。しかもそれは数分の出来事で、治療費はとても高いが治せる可能性のある教会に行く時間さえないのだと言う。
ポーション等では治らないそれを治す、または予防するための研究は続けられているらしいが、未だ結果は出ておらず、国内では毎年数百人の幼い命が失われている現状だ。
何の障害もなく、元気いっぱいで産まれてきた弟。
私たちは物心つく前からマディには魔力の制御を教え、聞かせていた。
だけど、あの日。
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私の、せいなのだ。
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「…!兄さん、姉さん……」
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口調はぶっきらぼうだけど、もはや定位置になった私の頭の上に手を置く兄の声も 顔も、優しくて、温かくて。安心しつつも、やはり私の胸はぎゅう、と苦しくなる。
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