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一章「GAME START」
16話「崩壊の行方」
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TEAM Cyber
現時点で、このチームは他の三つのチームと比べて圧倒的に連携及びコミュニケーションが取れていないチームだった。
全員、一癖二癖とある者ばかりであり、人間の存在そのものを嫌う者が多く所属しているチームであったが為に余計であった。
そのせいで、誰も他の場所から来た者とは全く話さず、全員自室に篭ったまま出てくる事はなく、無情にも無駄な時間が流れていった。
こうなってしまっている原因は、主にロボットであるハデスと魔族であるヴィラスやペアが起因していた。
全員人間を強く憎んでおり、今彼らが抱えている敵意はこのチームで人間であるDefenderとKillerに向けられている。
統率も互いの理解なんて出来る訳もなく、結局五人はバラバラとなってしまっていた。
「……と言う事で、今の現状…我々五人で憎み合っても、何も変わらない。なので、このミッションは全員で協力するべきだと思うんですが?」
Defenderは出来る限り穏便に済ませたかった。なので、出来るだけ腰を低くして素直にKiller以外の三人に協力を要請する。
ここで憎み合って、協力せずに個々人で好き勝手に行動するのはただの愚行だ。
ここは素直に不可抗力とは言っても、利害一致で皆で共闘を、とDefenderは願ったのだが…。
「I have no obligation to help you. Join the mission and die quickly.(貴様に手を貸す義理はない、早くミッションに参加して死し果てろ)」
「何故、俺達魔族を殺した種族と手を組まなければならないんだ?滑稽だな…」
「貴方達人間と、共同作戦なんて虫唾が走る!」
この通り、見事な程までに誰も協力してくれない事態となってしまっていた。
人間であった自分が、人族を嫌う者達に協力を持ち掛けたのが間違いだったのだろうか。それとも、他に何か要因があったのかは分からない。
「はぁ…」
Defenderは変わる事のない現状に思わず溜息を着いて、少し肩を落としながら、クルッと後ろを向いて素早くその場を去ろうとする。
今の様な言い様では、説得をした所で何も変わらない様な気がしてしまったからだ。
結局はどうやって言おうと、心に根付いてしまった考えと言うのは変わらないらしい。
これでは、どうやっても現状に変化が生まれる事はない様だ。
「どうだった、Defender?」
「からっきし駄目だったよ。全員門前払いされた…」
ハデス達の前から去ろうとするDefenderの前に現れたKiller。
腕を組みながらDefenderに結果を尋ねるも、その答えは悪い方向に向いていた。
Defenderから答えを聞いたKillerは、少しばかり落ち込む彼と同様に、溜め息を吐く。
「はぁ…やっぱ無理か…」
「あぁ、もしミッションが発動したら…間違いなく別々で行動する羽目になるな…」
Defenderの言葉に、Killerは腕を組んだまま軽く笑いを見せる。
「まぁ、状況判断もロク出来ない奴が生き残れる訳ないよね」
ご最もだ。
奴らはこの状況下においても、協力を持ち掛けた自分達を容赦なく拒んだ。
現在の状況は不明の一択と言える。何も分からずのまま、まるで右も左も分からない様な状況なのだ。
本来の選択なら、ここは多少無理や妥協をしながらも協力をするのが最適解だ。
なのにも関わらず、自身のプライドやよく分からない拘りで協力を拒もうとした。
まるで馬鹿の極みだ。正直な所、見ていられない程だ。
裏切りの可能性を加味しても、それでも率直に阿呆と言わざるをえない程に。
「あんな奴ら、放っておこう。理解出来ない奴なんか、消えればいい」
捨て台詞の様な言葉を吐くDefender。
そんな彼に対して、Killerは無言のまま肩を優しく数回叩く。
「ま、気張らずにやろうぜ?」
「あぁ、そうだな…」
Killerの言葉を素直に受け止め、二人は部屋に戻ろうとする。
「一発、ヤるか…」
「おい!待ってもらおうか」
部屋に戻ろうとした二人だったが、後ろから整った男の様な声を掛けられた。
その声には怒りが込められており、二人は後ろから怒鳴られた様な気分になった。
ピタッと、足を止めてDefenderとKillerは背後を振り返る。
「何だ?…ヴィラス・ハウンデロッド、ペアスティーネ・アングネスド?」
「先程の会話、聞かせてもらったぞ。随分と魔族の事を卑下する様な言い様だな」
こう言うパターンか。また厄介な、いざこざに巻き込まれてしまった様だ。
前の場所にいた時も、こうやって面倒臭い喧嘩や口喧嘩に巻き込まれる事は多々あった。
連れている女を貸してほしいだとか、若いくせに強力装備を所持しているだとか、理由は様々であったが、今起こっている様な事には慣れている。
前々からよくあった事だ、軽く口で喧嘩して最後は気を失うまでに叩きのめしてしまえば良い話だ。
「何か問題でも?事実を述べたまでだ」
「否、我々誇り高き魔族を愚弄するか!?」
会話が成り立っていない。
あくまでDefenderは緊急的な状況下においても協力をしようとしない奴らの事について言っただけだ。
何も、魔族を愚弄する様な事は言っていないのだ。
確かに魔族は下等、劣等種族等と言った事を言えば、愚弄となるかもしれないが、Defenderは魔族を愚弄する様な事は言っていない。
なのにも関わらずヴィラスは面と向かって、Defenderに対して、魔族を愚弄したと言ったのだった。
「誰も愚弄なんてしていない。この緊急事態にも関わらず、利害一致での協力も出来ん奴への愚痴を言っていただけだ」
あくまで事実。何も間違った事は言ってない。
淡白に答えたDefenderではあったが、冷静に答えを述べたDefenderに対して、ヴィラスは極めて落ち着きのあるDefenderとは異なり、強い怒りを見せる。
歯を剥き出しにし、目に強い怒りを込めながら怒りの表情を顕にし、Defenderとの間合いを大胆に詰めるとそのまま彼の胸ぐらを掴む。
激昂し、ヴィラスは怒りの言葉を口から叫ぶ。
「貴様ら獣畜生如きが、正論を並べるな!」
Defenderは抵抗はしなかった。何を言っているのかが全く分からない。
何故、まだ会って間もない奴に獣畜生等と思いっきり罵られなければいけないのだろうか。
もし、何か酷い事を彼に言っていたのなら、獣畜生と罵られても仕方ないかもしれない。
しかしながら、彼にそんな記憶は一切なかった。
「……」
Defenderは敢えて、何も言わなかった。胸ぐらを掴まれたままではあったが、仮面越しにヴィラスを無言のままで見つめる。
「っく!だから嫌いなんだよ!」
そう言ってヴィラスは掴む力をより一層強くする。
Defenderも、更に力強く胸ぐらを掴まれてしまった事で、僅かに苦しい様な声が口から無意識に漏れる。
流石にそろそろマズいと感じたDefenderは、自分の胸ぐらを掴む手を払い除けようとする。
「おい、お前。何やってんの?」
Defenderが、自分の胸ぐらを掴む手を払い除けようとした瞬間、ヴィラスの右頭部辺り、言ってしまえばこめかみ辺りに何かが押し付けられた。
ヴィラスは自分のこめかみに何か冷たい物が押し付けられ、僅かに動揺する。
「なっ!?」
「離せよ、殺すよ?」
ヴィラスの横に立っていたのは、無表情に近い表情を浮かべるKillerだった。
その前に出した右手には、サブウェポンである一丁のハンドガンが握られていた。
そして、無機質なデザインのハンドガンの銃口は絶対に狙いが外れない様に、ヴィラスのこめかみに突き刺さる勢いで強く押し付けられてる。
正にゼロ距離。今引き金を引けば、銃弾が外れる事は絶対にないだろう。
殺気を向けられている事に気が付き、ヴィラスは胸ぐらを掴む手の力が僅かに緩んでしまう。
冷や汗を流し、思わず歯噛みする。
「人間は、こうやって卑怯な手しか使えないんだな!」
せめてもの抵抗のつもりだろうか。
ヴィラスは苦し紛れにニヤリと嫌味な感じの笑いを浮かべ、Killerを睨み付ける。
しかし、Killerを煽る様な言葉も、睨み付ける様な表情も彼女にとっては何の問題でもなかった。
「だから?卑怯だろうと好きに言えばいいわ。ただアンタが敵だから殺す。それだけよ」
Killerにとってはこれが常識だった。
世紀末が近い世界を生きていたKillerとDefenderにとって、卑怯な戦い方等何も問題ではない。
寧ろ、卑怯に立ち回って戦わなければ死ぬだけなのだ。
「くっ、お前に誇りはないのか!?」
言い返す事が出来なくなっていく。ヴィラスは苦し紛れに、Killerに対して誇りはないのかと問いただした。
ヴィラスとペアスティーネ、二人の魔族は強い誇りを持っていた。
誉れある者として、美しく純潔な者である為に誇りは決して捨てない。
それこそ、生き恥を晒すぐらいなら潔い死を選ぶ。そのぐらいの感覚だ。
自分達にとっては、命よりも重い価値のある魔族としての誇り。
しかし、Killerは彼らの誇りを踏みにじる様な言葉を投げた。
「誇り…?あぁ、そんな下らないモノ。そこら辺の犬か低所得者に食わせればいいわ、早く捨ててしまえ。その方がどっちも楽になれる…」
その時、ヴィラスの堪忍袋の緒が切れた。
女性には優しくと教えられたが、この時ばかりは我慢の限界だった。
ヴィラスは胸ぐらを掴む手を離すと同時に、我を忘れてKillerに殴り掛かろうとする。
―――魔族としての誇りが下らない?
―――犬の餌?
誇りを否定するなど、魔族に対する最大限の侮辱に等しい。
ヴィラスは雄叫びを上げながら、拳を石の如く硬く握り締めて、Killerへと殴り掛かる。
しかし、この時ヴィラスは怒りで我を忘れるあまり、Defenderの胸ぐらを掴む手を完全に離してしまっていた。
即ち、今はDefenderは自由の身だ。
そして、運悪くヴィラスが殴り掛かろうとしている相手はDefenderにとって一番大切と言っても良い人物のKillerだった。
目の前で大切な親友的存在が殴り飛ばされようとしている。それを見過ごす様な事は絶対にしない。
「何をするつもりだ?」
ヴィラスの真っ直ぐに伸びた腕を、Defenderは片手で意図も簡単に掴む。
小刻みに震えるDefenderの手による拘束力は異常と呼べる程に強く、ヴィラスは自分の腕を掴むDefenderの手を払おうとするが、ギチギチと音を立てる勢いで腕を掴む手は、どれだけ動かしても払う事が出来ない。
「離せ!」
この状況で、離せと言って離す奴などいないだろう。
Defenderは手の力を緩める事なく、絶えず握る力を込め続けた。
「やめろ、こんな事で争いたくはない…」
「煩い!人間風情が、俺達の同士を奪った人間が!」
何を言っているのか。
Defenderはヴィラスの並べる言葉に困惑してしまう。
世迷言でも言っているのだろうか、それとも気が狂って虚言を吐き続けてしまっているのだろうか。
分からないが、こう言う輩は一度殴り飛ばして気絶させてしまえば良い話だ。
『まもなくミッション開始。まもなくミッション開始です。TEAM Cyberのメンバーは準備を開始してください』
ヴィラスの事を殴り飛ばそうと、拳を握って構えたDefenderではあったが、殴ろうとした瞬間、自分の耳に無機質な声が響く。
その声は明らかに機械音声であり、Killerの様な美しい声ではなかった。
Defenderは殴り掛かろうとした手を急速に停止させて、機械音声が聞こえる上の方を見る。
「さて、遂に来たか…」
「いい加減に、喧嘩してる場合じゃなさそうね」
Killerは構えていたハンドガンを下方向に下ろし、Defenderも機械音声を聞き、その場から去ろうとする。
今から始まるのは、未知と同義な出来事だ。
残念な事に、雑魚の掃討の様な軽いミッションな雰囲気では無い。
Defenderはいつも以上に緊張感を強める。
胸ぐらを掴まれてしまった事により、歪んだ服を直すとそのまま何処かへと向かおうとする。
「おい、待て!」
しかし、そんな状況にも関わらずヴィラスは去ろうとする二人を引き留めようとする。
現状を見てもなお、何も分かっていない様であった。
Defenderは去り際、振り返らずにヴィラスに告げる。
「状況判断も出来ないのか?それじゃ、人間より劣っていると言われても仕方ないぞ…」
それだけ告げて、DefenderとKillerはその場を去った。
小走りで去りゆく彼らの背中を、ヴィラスは追いかけようか立ち止まるかで迷ってしまっていた。
ヴィラスは何も言い返せなかった。
―――仕方ない
そう言われて、ヴィラスは矛先の分からない怒りと葛藤に駆られた。
強く歯噛みし、痛々しく血が滲み出る程に拳を強く握り締める。
「……クソォ!」
「ヴィラス……」
結局、何かに背中を押される様な形でヴィラスはDefender達の後を追った。
そしてペアスティーネも、走るヴィラスの後ろを追っていった。
現時点で、このチームは他の三つのチームと比べて圧倒的に連携及びコミュニケーションが取れていないチームだった。
全員、一癖二癖とある者ばかりであり、人間の存在そのものを嫌う者が多く所属しているチームであったが為に余計であった。
そのせいで、誰も他の場所から来た者とは全く話さず、全員自室に篭ったまま出てくる事はなく、無情にも無駄な時間が流れていった。
こうなってしまっている原因は、主にロボットであるハデスと魔族であるヴィラスやペアが起因していた。
全員人間を強く憎んでおり、今彼らが抱えている敵意はこのチームで人間であるDefenderとKillerに向けられている。
統率も互いの理解なんて出来る訳もなく、結局五人はバラバラとなってしまっていた。
「……と言う事で、今の現状…我々五人で憎み合っても、何も変わらない。なので、このミッションは全員で協力するべきだと思うんですが?」
Defenderは出来る限り穏便に済ませたかった。なので、出来るだけ腰を低くして素直にKiller以外の三人に協力を要請する。
ここで憎み合って、協力せずに個々人で好き勝手に行動するのはただの愚行だ。
ここは素直に不可抗力とは言っても、利害一致で皆で共闘を、とDefenderは願ったのだが…。
「I have no obligation to help you. Join the mission and die quickly.(貴様に手を貸す義理はない、早くミッションに参加して死し果てろ)」
「何故、俺達魔族を殺した種族と手を組まなければならないんだ?滑稽だな…」
「貴方達人間と、共同作戦なんて虫唾が走る!」
この通り、見事な程までに誰も協力してくれない事態となってしまっていた。
人間であった自分が、人族を嫌う者達に協力を持ち掛けたのが間違いだったのだろうか。それとも、他に何か要因があったのかは分からない。
「はぁ…」
Defenderは変わる事のない現状に思わず溜息を着いて、少し肩を落としながら、クルッと後ろを向いて素早くその場を去ろうとする。
今の様な言い様では、説得をした所で何も変わらない様な気がしてしまったからだ。
結局はどうやって言おうと、心に根付いてしまった考えと言うのは変わらないらしい。
これでは、どうやっても現状に変化が生まれる事はない様だ。
「どうだった、Defender?」
「からっきし駄目だったよ。全員門前払いされた…」
ハデス達の前から去ろうとするDefenderの前に現れたKiller。
腕を組みながらDefenderに結果を尋ねるも、その答えは悪い方向に向いていた。
Defenderから答えを聞いたKillerは、少しばかり落ち込む彼と同様に、溜め息を吐く。
「はぁ…やっぱ無理か…」
「あぁ、もしミッションが発動したら…間違いなく別々で行動する羽目になるな…」
Defenderの言葉に、Killerは腕を組んだまま軽く笑いを見せる。
「まぁ、状況判断もロク出来ない奴が生き残れる訳ないよね」
ご最もだ。
奴らはこの状況下においても、協力を持ち掛けた自分達を容赦なく拒んだ。
現在の状況は不明の一択と言える。何も分からずのまま、まるで右も左も分からない様な状況なのだ。
本来の選択なら、ここは多少無理や妥協をしながらも協力をするのが最適解だ。
なのにも関わらず、自身のプライドやよく分からない拘りで協力を拒もうとした。
まるで馬鹿の極みだ。正直な所、見ていられない程だ。
裏切りの可能性を加味しても、それでも率直に阿呆と言わざるをえない程に。
「あんな奴ら、放っておこう。理解出来ない奴なんか、消えればいい」
捨て台詞の様な言葉を吐くDefender。
そんな彼に対して、Killerは無言のまま肩を優しく数回叩く。
「ま、気張らずにやろうぜ?」
「あぁ、そうだな…」
Killerの言葉を素直に受け止め、二人は部屋に戻ろうとする。
「一発、ヤるか…」
「おい!待ってもらおうか」
部屋に戻ろうとした二人だったが、後ろから整った男の様な声を掛けられた。
その声には怒りが込められており、二人は後ろから怒鳴られた様な気分になった。
ピタッと、足を止めてDefenderとKillerは背後を振り返る。
「何だ?…ヴィラス・ハウンデロッド、ペアスティーネ・アングネスド?」
「先程の会話、聞かせてもらったぞ。随分と魔族の事を卑下する様な言い様だな」
こう言うパターンか。また厄介な、いざこざに巻き込まれてしまった様だ。
前の場所にいた時も、こうやって面倒臭い喧嘩や口喧嘩に巻き込まれる事は多々あった。
連れている女を貸してほしいだとか、若いくせに強力装備を所持しているだとか、理由は様々であったが、今起こっている様な事には慣れている。
前々からよくあった事だ、軽く口で喧嘩して最後は気を失うまでに叩きのめしてしまえば良い話だ。
「何か問題でも?事実を述べたまでだ」
「否、我々誇り高き魔族を愚弄するか!?」
会話が成り立っていない。
あくまでDefenderは緊急的な状況下においても協力をしようとしない奴らの事について言っただけだ。
何も、魔族を愚弄する様な事は言っていないのだ。
確かに魔族は下等、劣等種族等と言った事を言えば、愚弄となるかもしれないが、Defenderは魔族を愚弄する様な事は言っていない。
なのにも関わらずヴィラスは面と向かって、Defenderに対して、魔族を愚弄したと言ったのだった。
「誰も愚弄なんてしていない。この緊急事態にも関わらず、利害一致での協力も出来ん奴への愚痴を言っていただけだ」
あくまで事実。何も間違った事は言ってない。
淡白に答えたDefenderではあったが、冷静に答えを述べたDefenderに対して、ヴィラスは極めて落ち着きのあるDefenderとは異なり、強い怒りを見せる。
歯を剥き出しにし、目に強い怒りを込めながら怒りの表情を顕にし、Defenderとの間合いを大胆に詰めるとそのまま彼の胸ぐらを掴む。
激昂し、ヴィラスは怒りの言葉を口から叫ぶ。
「貴様ら獣畜生如きが、正論を並べるな!」
Defenderは抵抗はしなかった。何を言っているのかが全く分からない。
何故、まだ会って間もない奴に獣畜生等と思いっきり罵られなければいけないのだろうか。
もし、何か酷い事を彼に言っていたのなら、獣畜生と罵られても仕方ないかもしれない。
しかしながら、彼にそんな記憶は一切なかった。
「……」
Defenderは敢えて、何も言わなかった。胸ぐらを掴まれたままではあったが、仮面越しにヴィラスを無言のままで見つめる。
「っく!だから嫌いなんだよ!」
そう言ってヴィラスは掴む力をより一層強くする。
Defenderも、更に力強く胸ぐらを掴まれてしまった事で、僅かに苦しい様な声が口から無意識に漏れる。
流石にそろそろマズいと感じたDefenderは、自分の胸ぐらを掴む手を払い除けようとする。
「おい、お前。何やってんの?」
Defenderが、自分の胸ぐらを掴む手を払い除けようとした瞬間、ヴィラスの右頭部辺り、言ってしまえばこめかみ辺りに何かが押し付けられた。
ヴィラスは自分のこめかみに何か冷たい物が押し付けられ、僅かに動揺する。
「なっ!?」
「離せよ、殺すよ?」
ヴィラスの横に立っていたのは、無表情に近い表情を浮かべるKillerだった。
その前に出した右手には、サブウェポンである一丁のハンドガンが握られていた。
そして、無機質なデザインのハンドガンの銃口は絶対に狙いが外れない様に、ヴィラスのこめかみに突き刺さる勢いで強く押し付けられてる。
正にゼロ距離。今引き金を引けば、銃弾が外れる事は絶対にないだろう。
殺気を向けられている事に気が付き、ヴィラスは胸ぐらを掴む手の力が僅かに緩んでしまう。
冷や汗を流し、思わず歯噛みする。
「人間は、こうやって卑怯な手しか使えないんだな!」
せめてもの抵抗のつもりだろうか。
ヴィラスは苦し紛れにニヤリと嫌味な感じの笑いを浮かべ、Killerを睨み付ける。
しかし、Killerを煽る様な言葉も、睨み付ける様な表情も彼女にとっては何の問題でもなかった。
「だから?卑怯だろうと好きに言えばいいわ。ただアンタが敵だから殺す。それだけよ」
Killerにとってはこれが常識だった。
世紀末が近い世界を生きていたKillerとDefenderにとって、卑怯な戦い方等何も問題ではない。
寧ろ、卑怯に立ち回って戦わなければ死ぬだけなのだ。
「くっ、お前に誇りはないのか!?」
言い返す事が出来なくなっていく。ヴィラスは苦し紛れに、Killerに対して誇りはないのかと問いただした。
ヴィラスとペアスティーネ、二人の魔族は強い誇りを持っていた。
誉れある者として、美しく純潔な者である為に誇りは決して捨てない。
それこそ、生き恥を晒すぐらいなら潔い死を選ぶ。そのぐらいの感覚だ。
自分達にとっては、命よりも重い価値のある魔族としての誇り。
しかし、Killerは彼らの誇りを踏みにじる様な言葉を投げた。
「誇り…?あぁ、そんな下らないモノ。そこら辺の犬か低所得者に食わせればいいわ、早く捨ててしまえ。その方がどっちも楽になれる…」
その時、ヴィラスの堪忍袋の緒が切れた。
女性には優しくと教えられたが、この時ばかりは我慢の限界だった。
ヴィラスは胸ぐらを掴む手を離すと同時に、我を忘れてKillerに殴り掛かろうとする。
―――魔族としての誇りが下らない?
―――犬の餌?
誇りを否定するなど、魔族に対する最大限の侮辱に等しい。
ヴィラスは雄叫びを上げながら、拳を石の如く硬く握り締めて、Killerへと殴り掛かる。
しかし、この時ヴィラスは怒りで我を忘れるあまり、Defenderの胸ぐらを掴む手を完全に離してしまっていた。
即ち、今はDefenderは自由の身だ。
そして、運悪くヴィラスが殴り掛かろうとしている相手はDefenderにとって一番大切と言っても良い人物のKillerだった。
目の前で大切な親友的存在が殴り飛ばされようとしている。それを見過ごす様な事は絶対にしない。
「何をするつもりだ?」
ヴィラスの真っ直ぐに伸びた腕を、Defenderは片手で意図も簡単に掴む。
小刻みに震えるDefenderの手による拘束力は異常と呼べる程に強く、ヴィラスは自分の腕を掴むDefenderの手を払おうとするが、ギチギチと音を立てる勢いで腕を掴む手は、どれだけ動かしても払う事が出来ない。
「離せ!」
この状況で、離せと言って離す奴などいないだろう。
Defenderは手の力を緩める事なく、絶えず握る力を込め続けた。
「やめろ、こんな事で争いたくはない…」
「煩い!人間風情が、俺達の同士を奪った人間が!」
何を言っているのか。
Defenderはヴィラスの並べる言葉に困惑してしまう。
世迷言でも言っているのだろうか、それとも気が狂って虚言を吐き続けてしまっているのだろうか。
分からないが、こう言う輩は一度殴り飛ばして気絶させてしまえば良い話だ。
『まもなくミッション開始。まもなくミッション開始です。TEAM Cyberのメンバーは準備を開始してください』
ヴィラスの事を殴り飛ばそうと、拳を握って構えたDefenderではあったが、殴ろうとした瞬間、自分の耳に無機質な声が響く。
その声は明らかに機械音声であり、Killerの様な美しい声ではなかった。
Defenderは殴り掛かろうとした手を急速に停止させて、機械音声が聞こえる上の方を見る。
「さて、遂に来たか…」
「いい加減に、喧嘩してる場合じゃなさそうね」
Killerは構えていたハンドガンを下方向に下ろし、Defenderも機械音声を聞き、その場から去ろうとする。
今から始まるのは、未知と同義な出来事だ。
残念な事に、雑魚の掃討の様な軽いミッションな雰囲気では無い。
Defenderはいつも以上に緊張感を強める。
胸ぐらを掴まれてしまった事により、歪んだ服を直すとそのまま何処かへと向かおうとする。
「おい、待て!」
しかし、そんな状況にも関わらずヴィラスは去ろうとする二人を引き留めようとする。
現状を見てもなお、何も分かっていない様であった。
Defenderは去り際、振り返らずにヴィラスに告げる。
「状況判断も出来ないのか?それじゃ、人間より劣っていると言われても仕方ないぞ…」
それだけ告げて、DefenderとKillerはその場を去った。
小走りで去りゆく彼らの背中を、ヴィラスは追いかけようか立ち止まるかで迷ってしまっていた。
ヴィラスは何も言い返せなかった。
―――仕方ない
そう言われて、ヴィラスは矛先の分からない怒りと葛藤に駆られた。
強く歯噛みし、痛々しく血が滲み出る程に拳を強く握り締める。
「……クソォ!」
「ヴィラス……」
結局、何かに背中を押される様な形でヴィラスはDefender達の後を追った。
そしてペアスティーネも、走るヴィラスの後ろを追っていった。
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本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。
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