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一章「GAME START」

14話「心の痛み」

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 レイヤと椿は、戦いにより激しい運動を行っていた。
 そのせいもあってか、レイヤも椿も汗ばんでしまい、体は強く火照っていて、蒸れてしまっていた。

 そそくさと二人は移動し、汚れた体を綺麗にする為に共用のシャワー室へと向かう。
 そして二人は、シャワー室の前にある脱衣所に辿り着いた。後は服を脱いで、タオルを手に取りそのままシャワー室に入るだけだ。

 しかしここで一つ、問題が発生した。


「どうする、一緒に入るか?」


「椿、それは…」


 その問題と言うのは、一緒に浴びるかどうかと言う事であった。
 十年程と言う長い時間の間、共に過ごしてきたとは言え、仮にも普通に年頃の男女だ。
 壁一枚隔てただけのシャワー室、しかもその壁の隣に立つのは何も服を身に付けていない美しい女性。

 シュチュエーション的には、あまり女慣れしていない人からすれば目が飛び出てしまう様な展開だろう。
 一応、レイヤと椿は数々の戦いと生活を共にしてきたので、その関係はただの傭兵仲間や友達の仲を余裕で超えている。
 無論、仲が友達の域を余裕で超えているので何をしているのかは分かりきっているだろう。

 なので、今更互いに裸体を見せたぐらいで何も問題はないかもしれない。
 しかし、何故なのだろうか。

 レイヤは久方ぶりに思わず戸惑ってしまう。

 最近になって、少しばかりこのと言うものに違和感を覚えてしまっている自分がいる。
 自分自身、椿の事は大切だし誰よりも一番大好きな人だ。
 だが、どうしてだろうか。
 少しばかりではあるものの、躊躇いが残りつつある自分。このまま一緒に壁に隔てられながらもシャワーを共に浴びて良いものなのか。


「まぁまぁ、私らの仲だしいいじゃねぇか!」


「お、おい!」


 椿は特に何も気にしてはいない様子だった。レイヤの肩に手を置いてそう言うと、彼女はいきなり上半身に着ていた服を両手で掴むと、そのまま上に捲り上げて、上半身の下着を露にしてしまったのだ。


「うぉ…」


 レイヤの口から、思わず言葉が漏れる。下着で覆われているとは言っても、彼女の胸は巨乳と言ってもいいほど大きな胸。

 Gカップかそれ以上の大きさの為、軽く歩いただけで揺れてしまうので、胸元なんて見せてしまえば大抵の男は簡単に悩殺されてしまうだろう。


「ん、どうした?早く脱げよ」


「あ、うん…」


 結局、本心を素直に口にする事が出来ないままレイヤは椿に唆されて、自分も服を脱いでしまった。


「先行ってるし、すぐ来いよ」


「分かった…」


 複雑な気分だ、そのせいで感情の起伏が少ない答えしか返す事が出来ない。
 目を離した隙に、彼女は生まれた時と同じ姿となっていて、レイヤに安産型のデカい尻を晒しながら、先にシャワー室の中へと入っていってしまった。

 今脱衣所にいるのはまだ下の方の下着を脱がずに呆然と突っ立っているレイヤだけだ。
 何もしないまま、無言のまま立っているだけのレイヤ。ここからどうやって動いていくのか、分からなくなってきた。
 このまま服を脱いで、椿と同じ空間に入るか。
 それとも引き返してしまうか、だ。


「………」


 しかし、答えは前者であった。結果的に、無意識なままにレイヤは下半身に着用していた服すらも脱ぎ捨てて、タオルを下半身に巻いてシャワー室へと入る選択をした。


 ◇◇


 シャワー室の中は、既に椿が使用している事もあってか、湯気が立ち込めており、視界は若干立ち込める湯気によって遮られてしまう。
 そして、シャワーを浴びる音がこの部屋の中に響いている。
 きっと椿は体に湯を浴びているのだろう。

 レイヤは、シャワーを浴びる音の聞こえる方向へと、招かれる様にして近付いていく。
 彼女を求める様に、傍にいたいかの様にして壁と簡素な扉によって隔てられたその場所へと…。

 しかし、そこまで腐ってはいない。レイヤは直前で手を止めて、音が聞こえる場所の隣の扉を開けて、中に入る。
 勿論、そこには誰もおらず、壁にシャワーヘッドが取り付けられているだけだった。
 ご丁寧にシャンプーも置いてあると言う待遇だ。傭兵時代はこう言う物も買わなければならなかった為、制限なく勝手に使えるのは良い話だ。


「これか…」


 壁にはシャワーヘッドの他にも、押したら何か起こりそうなボタンが設置されていた。 
 レイヤは直感的に、壁に設置されているボタンはシャワーヘッドから湯が出てくるボタンだと思い、レイヤはその銀色に光るボタンを押す。


「………ふぅ…」


 直前通り、ボタンを押すと音を立ててシャワーヘッドからは温かい湯が流れ出てきた。
 こうやって湯を全身に浴びたのは、久しぶりな気がする。

 風呂に入れる事自体かなり稀であったし、シャワーを浴びれるのも週に数回と言った所だ。
 大体はぬるま湯か水で体を拭くと言う原始的な事しか出来ないので、今の様にシャワー室が完備されているのは個人的には非常に嬉しい事であった。


「はぁ~気持ちぃぃ~」


 全身に当たる湯の気持ち良さに思わず、気の抜けた声が漏れる。
 いつもは気を抜かずに、絶対油断しないスタンスではあるが、この湯の心地良さに抗う事は出来ない。
 レイヤは目を瞑りながら立ち尽くし、湯の心地良さに抗えなくなっていく。


 ◇◇


 つい、湯の心地良さに気の抜けた感じに陥り、嫌な事を忘れて余韻に浸り、まるで前まで戦場に出ていた者とは考えられない様な様子を見せるレイヤ。
 気持ち良い、そんな感覚が身を満たしていく中。温かい湯が彼の過去を掘り起こそうとする。


「………あっ……」


 あの時と同じだ、また起こったのかもしれない。
 もう嫌になるよ。あんな経験は…。

 自分が傷付いてしまったり、純潔を汚されるより、引き受けたくもない仕事を引き受けるよりも何倍も嫌な事だ。
 今、この瞬間にまた思い出してしまった。

 絶対に思い出したくない、思い出せば全身が震える。恐怖で動けなくなる。古傷を抉られる様な痛々しい感覚に見舞われてしまう。
 所謂、PTSDと言うものなのだろうか。
 レイヤの心臓の鼓動は徐々に速度を増していき、口からは荒い吐息が何度も何度も漏れてしまう。
 そこには、先程の心地良さと気持ち良さに浸れる様な声はなく、完全に恐怖と過去の因縁に支配されてしまい、恐れ慄いている状態であった。


「はぁ…!はぁ…はぁ!」


(レイヤ……!?)


 隣でレイヤと同じ様にシャワーを浴びていた椿の耳にレイヤの荒い吐息が響く。
 彼女は誰よりもレイヤの事を知っている。確証はないが、絶対にそうだと思っている。
 いても立ってもいられなくなった椿はタオルを体に巻いて、胸部や秘部を隠す事もせずに自分が入っていた場所から飛び出し、隣の扉を強引に押し開ける。

 中にはレイヤが居た。シャワーヘッドからお湯を流したまま、壁に両手を着いて椿に背を向けている。
 口から吐く息は、椿の耳でしっかりと聞き取れる程大きく、最早痛々しさを感じさせる程だった。


「おい……レイヤ」


「…何だよ…」


 彼の声は震えている。
 そして、僅かながらに悲しみと怒りがこんがらがって、入り交じる様になっている。
 椿は彼の身に何が起こっているのか、分かっていた。
 最初こそ、その表情には焦りを見せていた椿であったが、レイヤの後ろ姿を見た瞬間、その表情は若干悲しみの籠る表情へと変わってしまう。


「……思い出したのか…?」


「あぁ……まただよ…」


「落ち着けよ、私はいつも……」


 傍にいる。そう彼女はレイヤに対して言ってしまいたかった。
 少しは気休めになるかもしれないと思い、呟いたのだが、レイヤは彼女が何か言うよりも先に言葉を紡ぐ。


「けど…!」


 そう叫ぶと同時に、レイヤは首だけを捻って後ろに振り返る。
 しかし、後ろを振り返ってしまった事でレイヤの双眸には眼前に立っている裸体の椿が映ってしまう。


「……タオルぐらいは巻いとけよ…」


 続きの言葉を、力強く言おうとしたのだが、身体中を湯で濡らし、裸の姿を見せる椿を見てしまった、レイヤは力強く言うのではなく、やる気なさげに素っ気なく呟いた。


「……落ち着かねぇなら、体で慰めてやろうか…?」


 お湯を全身に浴びたレイヤの体は湯によって濡れていた。
 しかし湯水は彼の全身を包み込む様にして濡らし、特に顔に降り掛かった湯水はまるで悲しみに暮れながら涙を流す様子を再現する様に顔を濡らしていた。
 更に振り返った時の表情は、悲壮感と哀しみ漂う表情であったが為に本当に泣いているかの様であった。

 だから椿は、体で慰めようか?と言ったのだ。


「今すぐ、ヤラセてくれ…」


「別に大丈夫だ、ゴムも必要無いだろ?」


 そう言って、開いた扉の前に立っていた椿はそのまま彼と同じ場所に進み、扉を閉めてしまった。
 これで、狭い密室的な空間に裸体で両想い的関係の男女が二人。
 何が起こるかは、誰でも分かる事だろう。

 椿と同じ部屋に入り、外から誰も見ていない事を確認したレイヤはすぐに彼女の体に思い切り抱き着く。
 豊満な胸元に飛び込み、そのままギュッとしがみついて、甘える子供の様にして離れる事はしなかった。


「ったく、19にもなって子供か」


「別にいいだろ…」


彼女の肉体を掴みながら、レイヤはそう言った。多量に流れた湯のせいで湯気が部屋を満たしていく中で、椿の体を掴むレイヤを、彼女は優しく撫でる。


「ほら、どんな体勢でやればいい?グイッて足開こうか?それとも壁に手でも着けばいいか?」


「バックで…」


 レイヤの言葉を聞くと、椿は彼の言葉通りに壁に手を着いて、丸みを帯びた綺麗な尻をレイヤに対して突き出した。
 この姿勢では、秘部が完全にレイヤから丸見えになってしまっている。首だけ捻って後ろを向きながら、椿は頬を赤らめる。


「気が済むまで好きにしろ、私もムラムラしてんだ。スッキリさせてくれ」


彼の性欲を掻き立てる様な言葉を椿は呟き、彼女の言葉に、彼もまた強い興奮を見せ、下半身には血が滾っていく。


「僕もだ、椿……」


 椿の柔らかい腰をレイヤは力強く掴む。そのまま彼は腰を動かし始めた…。
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