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一章「GAME START」

11話「転送先へ」

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 FIELD1『RED FOREST』


 レイヤは、一瞬だけ気を失ってしまったかの様な感覚に包まれた。
 気が付けば、言ってしまえばほんの一瞬だ。
 圧迫感と、体が完全に消失する感覚。

 神経感覚が、言わば五感の内の一つである触覚がどんどんと消えてしまったかの様に、気が遠くなって、感覚が消えていく事が分かった。
 それとほぼ同時に自分の視界が偽物本物問わず、徐々にぼやけていき、そして最後には完全に消えてしまった。

 しかし、そこに恐怖と言う感情はなかった。感じたのは恐怖ではなく、寧ろ闘争心に駆られてしまっている自分がいた。
 長い間戦場で戦い続けた代償なのか、それとも自分がそんな好戦的な性格なのかは分からないが、少なくとも戦わなければあまり落ち着けない、刺激を得られないと言う点では間違っていないと言えるだろう。

 だが、ここで戦わずに何もしなければ誰にも知られる事なく、永遠に闇の底に沈む。


「森林地帯か……」


 レイヤは転送が完了された事に気が付いた。場に漂う空気が先程とは打って変わって、非情な様に冷たくなり、肌に触れる外気も明らかに変わっている事に気が付く。

 部屋の若干冷たくも温かみのあった空気と、今の夜間区域特有の冷たい空気の違いを見つける事は簡単な話だ。
 これでも、夜間区域での戦闘は嫌な程やって来た、簡単に分かる。

 そして、夜間区域の森林地帯に転送された事に気が付いたレイヤはすぐに周囲の状況を確認する。
 夜間区域での戦闘は、基本的に耳と相手の殺気と気配を頼りにして行動するのが基本だ。
 夜間は、相当な夜目でもない限りは敵の姿を目視で捉えるのは非常に難しく、動いた時の僅かな歩行音や着用している服の衣擦れの音、そして相手が見せる殺気等が敵の位置を探る唯一の情報となる。

 一応、敵の熱源反応を捉える事も出来るが相手がロボットである以上、熱源反応はあまり当てにならない。
 スラスターの音源や熱、稼働により発せられる熱を追えば出来ない事もないかもしれないが、ロボットの熱源探知はまだやった事がないので何とも言えない。

 やはり、頼りになるのは熱源、殺気よりも歩行音と音源だ。
 ロボットやオートマトンは殺気を見せたりはしないが、その分重量が人と比べると非常に重く、移動なんてすれば間違いなく歩行音が発生する。
 仮に歩いての移動をしなければ、スラスター等を展開して迫り来るだろう。
 そうなれば、スラスターから発生する音や熱を捉えるのは然程難しい事では無い。

 熱と音、そしてカメラアイの光などの情報を見つけて、そこから場所を炙り出して敵を攻撃して撃破する。
 殺気を見せない分、普通の人間相手とは違って少し面倒臭いが、こう言う戦いも悪くは無い。

 静寂と暗闇が支配する森林地帯の中で、レイヤは武者震いに駆られ、体が僅かに震える。


「さぁ……来るがいい……」


「レイヤ、聞こえるか……音を探知」


 椿がレイヤにいつもとは異なり、落ち着いた口調で小さく呟く。
 狼の様なケモ耳を数回ピクピク動かしながら、真剣な表情を見せている。

 椿がこうなる、と言う事は戦闘態勢だ。基本的にガサツであまり周囲に気を使わない椿が今の様に真剣な口調と表情を見せている。
 ガサツで乱暴な所があるが、彼女もまた一人の傭兵だ。
 慢心はせず、傭兵としての知識は備えているのだ。


「間違いない……いるぞ…」


 ヴィランが片手で握っていたアサルトライフルを両手を握り締める。
 右手の指は引き金にかかっており、左手は強くフォアグリップを掴んでいる。そしてアサルトライフルの銃口は、真っ直ぐに暗闇が支配する闇の方向を指していた。
 ガスマスクの下で見据えているその瞳に映るのは、間違いなく敵の姿だった。


「さて、ひと暴れしますか!」


(攻撃的なビープ音)


 戦闘開始、これより開始してください。
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