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一章「GAME START」

10話「いってください」

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 今からおめぇらには、この方達と戦ってヤつけてもらいます

【戦闘ロボ アビレッドシーバー】

 特徴
 ザコ機体を仲間にしてる

 弱点
 ようどう

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 ◇◇


「今から僕達は、この「アビレッドシーバー」と戦うと言う事だな…」


 そう言ってレイヤは、険しい表情を浮かべて腕を組みながら、説明が記載された大きなモニターを他の四人と一緒に見つめる。
 モニターから一切視線は逸らさず、真っ直ぐにそのモニターを見つめていた。


「アビレッドシーバー、これも聞いた事のない名称だ…」


「よく分からないけど、取り敢えず来た者全て、斬り伏せる!」


(少しばかり不安そうなビープ音)


 何故、今この様な事になってしまっているのか。
 事の始まりは、少し前に遡る。


 ◇◇


「椿、もう一発…」


 事の発端の少し前、レイヤは椿と共に見つけた部屋の中で互いの性を発散する為に、夜の営みに耽っていた。
 周りに迷惑を掛けなくて済む、これと言って顔見知りがいると言う事もなかったので、椿は周囲を気にする事なくいつも以上に甘い声で喘ぎ、レイヤも声を漏らす程に激しく求め合っていた。

 無論、簡単に二人の性欲が落ち着く事はなく、何回も何回も二人はベットの上で互いの柔肉を貪り合っていた。


「いいよ、今日安全日だから…生でもう一回…」


 声を抑える必要は無い。
 いつもなら周囲の事を気にして、口に布を噛んで声を抑えたり、時には互いに交わる事も出来ず薄い布団の中、自分で慰める事もあった。

 しかし、今ならそんな自らに課した制約は全て取っ払う事が出来る。こんな風に交じ合えるのも今だけかもしれない。
 そう思うと、レイヤはいつも以上にヒートアップしてしまい、椿に大して強く腰を振っていたのだが…。


「レイヤ、椿…モニターに情報が映されている。来てくれ…」


 もう一回、とレイヤは再び自らの剣を彼女に下半身に突き立てようとした。
 何回も濃厚なディープキスを交わして、体も火照っている所で…と良い所まではいったのだが、残念な事に部屋を数回ノックする音が部屋に響く。

 そして、部屋の外から聞こえるくぐもっていて低めの男の声。
 マスク越しに話しているかの様に、その声は濁り気味だ。
 勿論、このメンバーの中であんな風な声が出る人物は一人しかいない。

 基本的にずっと、ガスマスクとヘルメットを頭部に装着し、絶対に外そうとしない人物であるヴィランだ。


「急いで準備しろ…」


 レイヤは仕方なくも、多少名残惜しい気分になってしまう。
 ヴィランの声を聞いて、二人共表情が少しばかりか曇っていた。


「ったく、新人のブートキャンプかよ」


「ま、仕方ないね。後二回ぐらいは注いでほしかったけど…」


 多少の愚痴を零しながらも、ベットの上で裸体のまま求め合っていた二人は部屋に設置されていたベットから降り、すぐに床に脱ぎ捨てた服を掴むと、そのまま着衣を始める。


「少し待ってください、すぐ行きます!」


「了解した……」


 そう言って、ドアの前にあったヴィランの気配は消え、遠くに歩き去っていく足音が耳に入った。
 そして、急いで下着を着て、上着を着ていく中でレイヤは椿と軽く会話を行う。


「椿、一応聞くが……動けるか?」


 それは、ほんの些細な事だった。スポーツではないとは言え、性行為はそれなりに体力を使う。
 まさか連戦で疲れてしまっているのではないか、とレイヤは僅かながらに不安になってしまい、体の方は大丈夫なのかと椿に問う。

 しかし椿はニカッと笑って、やけに嬉しげにレイヤを見つめる。


「別に!私は全然大丈夫!」


 椿の言葉に、レイヤの心配も簡単に吹き飛んだ。
 彼女のその言葉に偽りは一切無いと彼は確信したからだ。


「なら、急いで行こう」


「あぁ!」


 ◇◇


 そして、ヴィランの言う通りにレイヤと椿は服を着ると、最初に転送された場所。
 即ち、始まりの場所でありあの大きなモニターが設置されている場所に戻ってきた。

 案の定、大きなモニターは部屋に中心の後ろの壁に鎮座しており、決して動く様な仕草は見せない。


「と言う訳で、これが僕達の相手と言う訳か…」


 ◇◇


 モニターに映し出された、アビレッドシーバーと言う名の存在。
 そして、正直な所あまり役に立っていない様にしか見えない粗末な敵の情報。

 と言うか、ザコ機体って酷くないか?

 ようどうも、何故かは分からないが漢字じゃなくて平仮名で表記されてるし、全体的に安っぽい。
 しかし、表記が粗末等と決め付けて、侮った挙句に油断するのは間違いなく愚策だ。
 こうやって、油断すると大体ろくな目に遭わない。

 傭兵として、それぐらいの事は分かっているつもりだ。戦場じゃ気を抜けば、呆気なく死ぬか腕か足のどっちをもがれる事になり兼ねない。


「撃破する目標はこのアビレッドシーバーとその周辺の機体か……一応聞こう、撃破は出来るな?」


 モニターを一点に見つめていたヴィランであったが、一度彼は後ろを向いて他のメンバーに敵を撃破する事は出来るか、と問う。

 ヴィランは確認のつもりで聞いただけだ。これで出来ないと言う者がいるのなら、少しばかり予定が変わってしまうのだが…。


「ロボット相手は今までもしてきた、大した脅威じゃない」


「レイヤと同じだ、余裕よ余裕!」


「二人と同じく、これでも人は幾度も斬り伏せてきた!」


(自信ありげなビープ音)


 ヴィランの予想は見事に外れた。
 期待を良い意味で裏切る展開に、彼は僅かに利便性の良さを覚える。


「で、敵は何処だ?まさかこの狭い部屋で殺るのか?」


「それでは、転送を開始します」


 レイヤがそう呟いた。
 刹那、部屋に機械的な声が響いた。聞こえてきた声は、この前の様な加工が施された声ではなく、明らかに機械的で、人間ではなく合成音声ソフトを使用した様な声であった。

 この前の謎のウザさとは打って変わって、品が無く、感情が全くと言って良いぐらい込められていない声に場にいる全員は驚きを見せる。

 転送を開始すると言う声、恐らく戦闘はこの部屋で行われると言う訳ではなさそうであった。
 先の読めない展開に、紗夜は息を飲み、レイヤは先の事を予測して、武器をとして使っているホルスターに格納していたマグナムを取り出した。


「弾は装填されるな…」


 マガジンを一度抜いて、内部に装填された銃弾をレイヤは確認する。
 問題は無し、と言った所だ。


「他の皆も大丈夫?」


「私はいつでも!」


「準備完了」


「同じく、準備オーケーだ!」


(準備完了のビープ音)


「転送開始」


 その機械的な声が部屋に響いた時、レイヤ達五人は部屋の中から完全に消失し、その部屋の中には誰もいなくなっていたのだった…。
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