The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る!

Bastion

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一章「GAME START」

9話「恩人の傍で」

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「サイファーさん…もしかして、一緒に…」


「いや、そんな事は!」


 サイファーは必死になって弁明しようとしていた。
 人が全くと言っていない廃墟街の一角に拠点を構えたサイファーであったが、予定では一人で籠城する予定であった為、生活に必要な物も一人分しか用意していなかった。

 いや、用意していなかったと言うよりかは、一人分の物しかない所を見つけていたからと言う方が近いかもしれないが…。
 訳あって事情は語れないが、色々あって荷物は一人分しか運びこめなかった。
 それ故に、この部屋にはベットが一つしかなかったり、トイレやシャワーも一つしか完備されていない。


「俺はまだやる事があるし、先に寝てればいい。今日は寝る予定はないからな…」


 サイファーはそう言って、シズルから視線を逸らす。
 彼はシズルに負担を掛けたくはなかった。だから、敢えて強がって今日は眠らないと言ったのだ。

 自分自身かシズル、どちらが今疲れてしまい、疲弊しているかは分かりきっている事だ。
 彼女がベットでゆっくりと休んで、自分は休まずに起きていれば良い。
 別にこう言った事が、女性の前で無理をして強がるのが好きと言う訳では無いが、彼女に嫌な思いをさせるのは好ましい事では無い。
 その為にも、自分がベットを譲るのは当然の事だ。

 それに、眠くなってもエナジードリンクの貯蓄はまだあるのでそれを数本飲めば良い話だ。
 今夜の監視活動や、設置もまだ終わってはいない。
 彼女に出来るだけ迷惑は掛けたくない。


「そ、そんな!ダメですよ!ちゃんと寝ないと、明日頑張れませんよ!」


 そう心に決めて、再び部屋に設置しておいたパソコンを操作する為にデスクに赴き、そのまま作業を再開しようとするサイファー。
 しかし、彼女は先に眠りに入る様にと伝えたシズルは、サイファーの方に向き直り、彼の着ていた服の袖を掴んだ。


「え?」


 後ろから、彼女に服の袖を掴まれた。
 サイファーは恐る恐る、体は動かさずに首だけを動かして、後ろを振り返る。


「しっかり寝ないと、ダメです!」


 そう言って、彼女は少しばかり怒っているかの様な表情を見せ、狐の様な耳をピクピクと動かしながら、上目遣いでサイファーを見つめる。
 二人の身長の都合で、上目遣いになってしまうのは仕方の無いだった。

 彼女はベットから降りて、デスクに戻ろうとするサイファーを引き止める。
 サイファーの本心としては、今日はもう疲れたろうしゆっくりと休んでもらいたい。

 しかし、シズルは自分だけではなくサイファーにもしっかりと休んでもらいたかったのだ。
 今日、突然暗闇の中に訳も分からずに放り出されて、路頭に迷って怯えていた自分を彼は素直に助けてくれた。

 訳も分からず、何の事情も知らずに彷徨い歩いていた自分を助け、今この廃墟街に匿ってくれた。
 闇の中、化け物や他の殺しを得意とする者達を掻い潜りながら、繋いだこの命。
 きっと彼の力が無ければ今頃、自分は死んでいた。
 そう言った事の恩も込めて、彼には休んでもらいたかったのだ。


「……そこまで言うなら……少し休憩しよう」


「良かった!」


「何か入れるよ。柚子茶でいいか?」


「お茶なら、何でも大丈夫です!」


「ふっ、少し待ってろ。入れてきてやる」


 そう言って、サイファーは少しばかりにこやかな表情を浮かべると、座っていた椅子から立ち上がり、自室の様な部屋から一度立ち去っていった。


 ◇◇


(凄いお部屋。私の見た事ない物ばっかり置いてある…)


 サイファーがお茶を入れてくれている間、シズルは彼の部屋で一人静かに彼が来る時を待っていた。
 彼がいない間は誰も話し相手がいないので、静寂とPCの稼働音が僅かに響く部屋の中で彼女は一人部屋の中を見渡していた。

 しかし、自分が見た事のない物ばかり部屋に置いてある。
 パソコン、PC等の言葉は聞いた事はない。部屋に置いてあるベットも、自分が使っていた敷布団とは段違いの柔らかさだ。
 内装もどこか未来的な感じであり、部屋の明かりもネオン風だ。
 一応、この部屋には窓が取り付けられているものの、外の景色を伺う事は出来ない。外は真っ暗で、特に明かりが灯っていると言う訳でも無いので、何かが見えたりはしなかった。


(本当に、ここは何処なんだろう…)


 シズルは何も景色が見えない窓を見つめながら、悲しみと不安が僅かに混じる様な表情を浮かべていた。
 ベットに座りながら頬杖を着き、呆けてしまっている様にして、ボーっとしてしまう。

 口をポカンを開き、色々な事を同時に考えてしまう。
 何でここに来てしまったんだろう、今お母様やお父様はどうしているのだろう、そろそろお見合いと言っていたがどうなるのだろう、ありとあらゆる考えが浮かんでしまい、何から解決していけば良いのか分からなくなりそうになった。


(どうすれば……)


 そんな風に悩み続けていると……。


「おい、出来たぞ…」


 一人で部屋で考えていたシズルであったが、そこに両手にカップを持ったサイファーが戻って来た。
 両手に握られたカップからは、少々の湯気が立ち込めていた。


「ほら…」


 そう言い、サイファーはシズルに柚子茶の入ったカップを渡した。
 シズルは素直にお礼を言って、軽い会釈を行い、カップを受け取る。


「冷めない内に飲めよ…」


「いただきます……」


 僅かに肌寒い中、体を温めてくれる柚子茶の温かみはとても心地良いものだった。
 シズルは嬉しげに笑みを浮かべながら、サイファーと共に一杯の柚子茶を飲んだのだった…。
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