The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る!

Bastion

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一章「GAME START」

5話「新しい日」

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 序章の時は過ぎた。
 これをもって、始まりの中の始まり。即ち、オープニングゲームは終了だ。

 ようやく物語は始まりを迎え、スタートラインに彼らは立った。
 今までの物語はほんの小さな話、これからが本番なのだ。
 今から全てが見える。


 全てを裏から操るアレは今もずっと、彼らを監視している。

 誰の目も届かず、誰にも気が付かれない様な影に塗れた場所でそっと静かに……。


「レイヤ、椿、ヴィラン、神無月紗夜、∑」


 TEAM Wolf


「ゼノ・ケイオス、マリス・ヴァンパッテン、エルヴァ・グレイザー、シュバルゼ、シン・ティルモディア」


 TEAM JOKER


「HDs-B1-06、Defender、Killer、ヴィラス・ハウンデロッド、ペアスティーネ・アングネスド」


 TEAM Cyber


「MasterMind、Castor、Witch、サイファー、シズル」


 TEAM Irregular


 この戦いはまだ始まったばかりだ。

 いや、戦いと言うよりかは難局を齎す死のゲームに過ぎないだろう。
 誰かが死に絶え、誰かが生き残り、再び誰かが消えていく。
 そんな物語なんだよ、難局たる死戦をどうやって潜り抜けて行くのか……。


 実に楽しみだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……あれ!?」


「……ここは?」


 景色が突如として変貌を遂げる。暗闇に支配され、何も見えずにただ影と闇が巣食っていた世界は、目の前からは完全に消え去っていた。

 変貌した世界に、レイヤと椿は思わず目を見開きながら、息を飲む。
 そして驚きを見せながら周囲をキョロキョロと何回も首を振りながら見渡した。

 あまりの驚きの連続に、己の表情に驚きと動揺を見せながらも傭兵としてのキャリアが長いレイヤは、すぐに平静を取り戻して周囲を確認する。


「ここは、部屋か?」


 正にただの部屋だ。白い壁に、茶色の床、家具等は特に設置されておらず、殺風景な風景がただ広がっている。
 あるのは、一つの黒いモニターだけだ。


「本部、急いで応答を。今度は人が転送された」


「ん?……うぉあ!?」


 気が付けばレイヤは反動的に体が勝手に動いてしまっていた。
 正に神速の如く、速いを通り越して、音速とも言える様な程の素早い速度でレイヤは声の聞こえた方向に向き直る。

 歯噛みしながら焦る表情を浮かべながら、レイヤは腰のホルスターに収納していた拳銃をすぐさま右手で強く握り締めると同時に引き抜いた。


「な、何者!?」


「まずは、そっちから名乗るべきではないか?」


 くぐもった男の様な低めの声に、レイヤはだんまりと黙り込み、何も言う事が出来なかった。
 確かに、ご最もな意見だ。まずは自分から名乗るべきだろう。
 この人物の言っている事は何ら間違いではない。

 威圧的な赤いレンズの軍用ガスマスクに軍用の頑丈素材で作られたヘルメット。そしてポケットや内部に防弾チョッキが仕込まれた軍用のベストに、肘や膝の皿を保護する為に取り付けられたプロテクター。
 右手にはアサルトライフルを握っており、両手で強く保持すればこちらに発砲する事は容易だろう。


「……私設傭兵特務部隊「Insurgent」隊長のレイヤだ」


「同じく、副隊長の椿…」


「エイクスヘブンマーセナリー社私兵部隊のヴィランだ。傭兵なのか…まだ若いな…」


 その言葉に、レイヤよりも若干気の短い椿は苛立ちを覚えた。
 食って掛かる様にして、椿は多少声を荒げながらヴィランに言い寄った。


「若くて悪いか?これでも、私達はもう19なんだよ!」


「そうか、なら訂正しよう。あまり若い兵士は我々の私兵部隊にはいなかったのでね…」


「お、おぅ……」


 素直にヴィランは先程の発言を訂正し、謝罪の様にして落ち着いた口調で言葉を投げた。
 意外にあっさりとした言葉に、椿は思わずキョトンとしてしまう。

 もう少し、食って掛かった事に対して抵抗を見せるのではないかと思っていたのだがあまりにも呆気ない感じに椿は多少疑問を覚えた。

 一応、殴り合いも予想していたのだが…。


「聞きたい事がある…」


 少しばかり沈黙を貫いていた二人であったが、突然発されたヴィランの言葉に二人はヴィランから外していた視線を元の方向に戻す。
 つまり、それはヴィランと視線を合わせると言う事と同じであった。

 しかしながら、視線を合わせるとは言ってもヴィランは素顔が分からない。
 見た者を強ばらせ、畏怖させる様な不気味で無機質なガスマスクを顔に取り付けているせいで、視線を合わせるも何もないのだが。


「何ですか?」


「君達も、何処かからあの場所に転送されたのか?」


「なっ!?」


「お、おい。それって!?」


 レイヤは、まるで意表を突かれた様な驚きの表情を浮かべ、目を見開いてヴィランを半場睨み付ける様な厳しい視線で見つめる。
 少しばかり踏ん張る様な体勢を取り、レイヤの身は一瞬だけ震え、息を飲んだ。

 驚きを隠し切れていないレイヤと椿を前に、ヴィランは臆する事も怯えている様な彼とは全く異なり、落ち着いた様子を崩す事はない。


「自分の場合は暴徒化したロボットの鎮圧任務に当たっていた所、気が付けば暗闇の中に……そして、また気が付けばこの部屋だ」


 同じだ、理由は違くともこの場所に招かれた経緯は全てにおいて同じだった。

 気が付けば、あの暗闇に包まれた世界に。

 そして今は、電気が付いていて普通の部屋のリビングの様なよく分からない場所に。
 確かに最初にいた場所等には違いはあるかもしれない。
 しかし、あの暗闇の中に放り出された事や今この場所に転送させられた事に変わりはない。


「僕達もだ、戦場で大型無人機動兵器から隠れてたら、この場所に…」


「大型無人機動兵器……妙だな、エイクスヘブンマーセナリー社はオートマトンの開発には成功したが、実用性も加味して一番大きいタイプでも3メートルが限界だったはずだが……」


「え?あれって……3メートルしかなかったっけ?」


 記憶が曖昧な状態である為、レイヤは疑問の表情を見せながら椿の方に振り向き、答えを求める。


「えぇ?でも、10から14ぐらいは……」


 レイヤの質問に、椿の首を横に傾げながら考えるが、残念な事に実物がこの場に存在しない為、答えを出してくれたが彼女自身はよく覚えていない様だ。
 ここは、あまり気にしない事にしておこう。

 一応、見た者としての率直な答えは、ヴィランの言う3メートルよりも明らかに大きかった気がする。
 仮に、あの大型無人機動兵器の全長が3メートルなら、あんな下から首が痛くなる程、高く見上げる必要はないはずだ。

 しかし、ロボットの大きさの事よりもレイヤには気になる事があった。
 それは、聞き覚えの無い会社である「エイクスヘブンマーセナリー社」の存在についてだ。

 傭兵としてのキャリアが10年とそれなりに長いレイヤと椿は、傭兵として今まで多くの雇い主と出会ってきた。
 無論、雇い主は企業の重役、ましてや社長と言う事もあった程だ。

 仕事の依頼の大半は、移動中の護衛やライバル企業の謀殺等と言った仕事が基本だ。
 その為、社会から隔離された様な世界を生きている身であったレイヤ達ではあったが、そこまで世間知らずと言う訳でもなかった。

 会社の名前を聞けば、そこがどの様な会社で何を作っているのか、何を企画しているのか等はある程度把握していた。

 しかし、今ヴィランが言った「エイクスヘブンマーセナリー社」はレイヤの記憶には存在しない会社名であった。


 ――――エイクスヘブンマーセナリー


 何か大手企業の子会社や傘下の会社…。
 いや、ヴィランの様な軍用装備を揃えた私兵を雇い、それを一人ではなく複数人の私兵部隊を作っている時点でそこら辺の小さな会社ではない事は明らかだ。

 まだ表に出ていない、出ていないと言うよりかはずっと影に潜んでいる会社なのだろうか。
 裏で秘密裏に活動を続け、犯罪や汚職に手を染めている汚い会社なのだろうか。
 名前も聞いた事がないので分からないが、その手の会社である可能性は大いに有り得る。


「あの、ヴィランさん…そのエイク…」


 そしてレイヤは意を決して、行動を取る事にする。
 藪から棒に、かなりいきなりな形ではあったがレイヤはヴィランにそう質問を投げようとするが…。


「………あれ、ここは?」


 まさか過ぎた展開に、レイヤと椿は思わず驚愕する。
 今、自分の目の前で起きた出来事。

 目の前に人が現れた。

 別に字ずらだけ見ればあまり大層な事ではないかもしれない。しかし、レイヤ達はその人が目の前に現れたと言う小さな出来事だけで強い驚きを見せる。


 確かに目の前には人が現れた、しかしそれは何も無い。何も存在していない所から現れたのだ。
 言わば、何も無い所から突然誰かがポッと現れたのだ。
 ワープ機能?の様な、まるで転送されたかの様な形で目の前に人が現れたのだ。


「どう言う事だ……また一人…」


 ガスマスク越しのくぐもった声で、ヴィランはアサルトライフルを握りながらそう呟いた。

 明らかにこの現象は異常そのものだ。普通に考えて、何も無い所から人が出てくるなど有り得ない話だ。
 それなのに、今目の前ではその有り得ない様な事がまるで遠慮する事ない様にして起こっている。

 突然転移、暗闇の中、叫び声、死体、何も無い所から人…。


 まるで超常現象のバーゲンセールだな……。


 そしてレイヤ、椿、ヴィランの前に現れた人物の姿を、レイヤはその目でしっかりと見つめる。

 目の前に現れたのは、肉体的特徴は女性の形を捉えている。
 薄紅色の綺麗な髪に、髪はポニーテールの様に纏めている。
 和風な服装に色白な肌、そして整った顔出ち。可愛らしいと言う印象よりかはクールビューティ風で男前美人な感じの凛々しい印象を受ける。

 身長はそれなりに長身で、腰には鞘に納めたを携えていた。


「あれ?君達は………誰?」


「あ!……うぅん…」


 レイヤは一度目の前に突然として現れた薄紅色髪の女性から、視線を逸らし数回咳き込んだ。

 そして咳き込みを終えると再び向き、直り彼女と視線を合わせる。


「あぁ…僕はレイヤ。まぁ……その何と言うか…」


「て、転送?させられたんですよ、皆」


「侍、受け入れられていないかもしれないが…これも現実だ。成る可く早く理解してもらいたい」


「えぇ……その何が何だか……」


 まぁ、至極真っ当な反応だ。
 彼女の言う通り、何が何だか状態だろう。恐らく、と言うか絶対に彼女はまだこの状況を飲み込めていない。

 しかし、それは普通の事だ。逆にすぐさま適応出来る方が稀な話だと思う。


「取り敢えず、名前教えてくれますか?」


 見た目的に、恐らく年上の人物だとレイヤは見たので敬語口調でレイヤは、目の前の女性に対して話しかける。


「承知した。やつがれは神無月紗夜。誇り高き神無月の長女……と言うが実際はただの呆けている浪人さ」


「そうですか、よろしく」


「椿よ、同じ女としてよろしく頼むよ」


「……私兵のヴィランだ」


 三人は簡易的に目の前に現れた神無月紗夜と名乗る女性に自己紹介を行い、会話を終える。

 すぐに会話は終わりを迎え、部屋の中には再び静寂が舞い戻った。


「椿、あまりに奇妙過ぎる事ばかりだ。一体どう言う事だ?」


「うぅん、分からん。ただ、分かるのは私達は確かに戦場で戦ってた。でも今はこの何もない部屋にいる。それだけは確かだ…」


「幻術か何かの類か?奇妙な術でも使われたのだろうか……」


「集団催眠……。いや、洗脳や催眠に対する訓練は受けたはずだ…」


 未だに現状何が起こっているのか分からない者でこの部屋は埋まっていた。
 幻術の類かと疑う者や集団催眠かもしれないと思う者までいる。


「何も分からんままじゃ、どうしようもない。一旦待機して………」


「レイヤ殿、椿殿、ヴィランさん!また誰か来たぞ!」


 紗夜の言葉に、三人はすぐさま反応を見せる。
 それぞれ違う方向を見つめながら、それぞれ思考を回して考えていたのだが、紗夜の言葉がトリガーとなり、すぐに彼女が指差す方向に視線を向ける。


「こ、今度は何だ?」


「もう一人って……事?」


「まさか……」


 再び、空を裂く様な聞きなれない音が部屋の中に響くと同時に部屋の中に再び誰かがされてくる。


「………え?」


 思わぬ来客に、レイヤは思わず疑念の表情を浮かべて首を軽く捻る。
 その表情には明らかに戸惑いが存在していた。


「また、オートマトン?」


 レイヤと椿は呆気に取られた。
 何故なら、目の前に突如として現れたもう一人の人物とは…。
 人ではなく、間違いなくロボット、オートマトンの類の存在であったからだ。


 見た目は明らかに人間と呼ぶには程遠い見た目で、これが人だとは誰も言わないだろう。

 くすんで僅かに汚れの目立つ白色に塗られたボディに、その塗装が剥がれたのか、露出した灰色のボディ。
 頭部は横に僅かに細長く、メインカメラと思われる所には青い光が着いていた。

 そして、一段と目を引くのは右手に直結で装備されたアサルトライフル肩部に装備されたガトリング砲や背部にセットされたキャノン砲だ。

 間違いなく、作業用等ではなく戦闘用に製造されたオートマトンだろう。戦場でも、これとは違っても同型の様な形のオートマトンは見た事がある。

 まさか、人間以外も転送されてくるのは思っていなかった。


「へぇ、何かちょっと可愛い…」


「何でだよ…」


 そう言いながら好奇心が勝ったのか。動こうとしない謎のオートマトンを前にしても、椿は硬直して怖がる事もなく、目を多少輝かせながら、そのオートマトンに近付いていく。

 レイヤですら、まだ少し離れて観察している程度だと言うのに…。


「待て!それから離れるんだ!」


 突如、ヴィランの怒号が部屋に響いた。後、1メートルと言った所まで接近していた椿であったが、ヴィランの大きな声を聞き、足をピタッと止めた。


「ヴィランさん、何で!?」


 ヴィランはアサルトライフルを両手で構え、その銃口を謎のオートマトンに向けて構えている。
 引き金には指がかかっており、撃とうと思えば簡単に銃弾を撃つ事が出来るだろう。


「これは…間違いない。こいつは「War Type Automaton:シグマ」これも、エイクスヘブンマーセナリーの生み出したオートマトンだ…」


 再び出てきた謎の会社、エイクスヘブンマーセナリー。
 ヴィランが私兵として所属しているとの事だが…。やはり何か怪しい会社だな。


「え、何?これも危険なの?」


「ロボット産業最初期に開発され、各戦線に導入されたオートマトン……コストにも優れた量産型、だが量産型だろうと……簡単に人を殺す恐ろしい殺人兵器だ」


「でも、動いてないじゃん?」


「触らない方が良い。起動させれば、戦闘プログラムも回復してしまうかもしれない…」


 椿に対して、釘を刺す様にして言ってヴィランは構えていたアサルトライフルを下ろし、一旦この∑と呼ばれる。
 今の所は、動いていないがこれはどうするべきなのだろうか。


「取り敢えず放置………」


「うっわー!凄すぎ!こう言うの、憧れてたんだよなぁ!取り敢えず叩いてみよっと!」


(何故そうなるぅ?)


 次の瞬間、ガンッと鉄を叩く鈍い音が部屋の中に響いた。


「な、何をやって!」


 ヴィランが言った頃にはもう手遅れだった。止めに入ろうとした時には、紗夜は∑の動かないボディに対して、容赦のなく手痛い手刀を放ったのだ。

 紗夜の無垢で疑問な表情を浮かべたまま放たれた手刀。
 これが何なのかよく分かっていない感じだ。


「え、またやつがれ……何かやっちゃいましたか?」


 何かやっちゃってますね。まず目の前にロボットが現れてチョップをお見舞いする奴が何処にいるんだ?

 あ、ここにいたわ。


「気を付けろ、起動するかもしれない!」


「えぇ!?自分はどうすれば!?」


「死にたくないのなら、隠れていろ」


 ヴィランは、取り敢えず物陰か何か遮蔽のある場所に隠れろ、と言う意味で言ったのかもしれない。
 だが、若干説明が足りていない様で……。


「何故、そこに隠れた?」


「ひぃぃぃぃ!」


 お化けに怖がる子供の様に、紗夜は蹲ってヴィランの後ろに隠れていた。
 まるで、ヴィランを盾にするかの様にした隠れ方だ。


「…やれやれ…」


 少しばかり愚痴を漏らしながらも、ヴィランは自分の後ろに隠れた紗夜に対して何か咎める様な事を言う事もなく、蹲っている紗夜は無視してアサルトライフルを構えて、その銃口を∑に対して向ける。

 起動して襲いかかって来たら、ヴィランは間違いなくその引き金を引くだろう。
 装甲が厚くて、銃弾が弾かれて跳弾してしまうと言う考えも多少は過ぎったが今は非常時だ。


「気を付けろ、傭兵でもそれぐらいは分かるな?」


 ヴィランの言葉に、素っ気ない感じでレイヤは答える。


「言われなくとも、自分の身ぐらいは守れるさ」


「攻撃してくんのなら、叩き潰す」


 レイヤと愛用しているマグナムを両手で握り締め、接近戦を得意とする椿は敵の首を掻っ切る為に使用しているコンバットナイフを取り出し、逆手で持って構える。


「………」


 三人はそれぞれ、何も話さず沈黙を貫き通したまま、ただ一点に目の前で静止するオートマトンを睨む。

 何か動きがないか、瞬きすらしない勢いで見つめ続け、レイヤ達は武器を下ろす事はない。


(起動のビープ音)


 突如として、高めの機械音が鳴り響く。
 電子機器の発するのかの様な、通知に使われている様な高めながらも落ち着きのある機械音だった。

 そして、機械音が部屋の中に鳴り響くと同時に静止を続けていたオートマトンである∑は、まるで時が来たかの様にして遂に動き出した。

 ゆっくりと立ち上がるかの様に、部品同士が軋む音を響かせながら、は遂に起動する。


(周囲を伺うビープ音)


 ビーだのブーだの、人の言葉を発さずに∑は機械音のみを発している。
 恐らく何か言っているのだろうが、残念な事にこの場にいる全員はこの∑が発しているビープ音が何を示しているのかは分かっていなかった。


「な、何て言ってるんだ?」


「モールス信号……じゃないね」


「∑は強制執行プログラムが起動しない限りは、自らの人工知能をベースに行動する。恐らく何か言っているんだろう…」


「でも、それでも何を言ってるか……」


「分からんな…」


 先程とは打って変わって、無害だと認めたのかレイヤは銃を下ろして、素直に腕組みをしながら∑の事を見つめる。

 起動したにも関わらず、∑はこちらを攻撃する事なく周囲の状況を伺っているかの様な仕草を見せている。


「ひとまず、戦闘用プログラムが起動していない以上…何か手出しはしてこないはずだ。今は大丈夫だろう」


「貴方がそう言うなら、僕も廃棄はしません」


「取り敢えず、大丈夫って事かな?」


 そうは言うが、部屋にいる四人は大丈夫と思いながらも少しづつ後退りする。
 一応、安全が確認出来たとは言っても相手は対人を簡単に始末出来るガトリング砲やキャノン砲を装備した強力なオートマトンだ。

 気を抜いてしまえば、速攻で蜂の巣にされる可能性もある。
 レイヤ達は、目を離さずに少し離れた所から∑を監視する事とした。


「これで、五か。まだ来ると思うか?」


 レイヤは、綺麗な床に腰を下ろして座り込み、壁にもたれかかりながら隣で同じ様にして座る椿に話しかける。

 彼女の横顔も美しいが、正面から向いた顔も美しいものだ。


「どうだろうね、五人でも傭兵なら小隊としてやってけるし……どうかな?」


 レイヤは戸惑っていた。
 また誰かが転送されてくるのかと、今は五人だがこれ以上増える事はあるのかと、考え込んでいた。


「………」


 椿の言葉に反応せずに、レイヤは無言を貫いた。
 何か返す言葉が思う様に紡ぎ出す事が出来ず、静かに唸る様にして、眉をひそめた。


「はいは~い!皆さん、おめでとうごさいまーす!」


 突如として、部屋の中に響き渡る甲高く、まるで嬉しい事があったかの様な陽気な口調の声。
 しかしエコーとノイズが声には掛かり、発している本人の声がどの様な声なのかは判別出来なかった。

 明らかに外部から流れている声で、この部屋の中にいる誰かの声とは考えられない。


「な、何だ?」


「外部からの通信か?」


 五人はそれぞれ周囲を警戒し、何者かからの干渉を感じながら周囲を見つめる。


「それではこれより、ゲームのルールを説明しよう!」
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