The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る！

バックストーリー集

バックストーリー No.19「サイファー」

　NO.19 並行世界線0051

「サイファー」と言う名前は、ただの偽名であり本名を知られない様にする為のコードネームに過ぎない。

　本名「ハク・イジュン」韓国籍の男性であり、非常に高いハッキングスキルを持った敏腕ハッカーだ。

　機密情報の不正入手、監視活動等において彼の右に出る者は決していない…。


　◇◇


　若くして高いコンピュータープログラムスキル、無人小型偵察機の操縦技術を身に付けたイジュンはその才を遺憾無く発揮し、国外へと飛び立った後にとある有名企業のコンピューター技師及びエンジニアとして生計を立てていた。

　傍から見れば、ただのコンピューター技師兼エンジニア。別にこれと言って何かしら特別な力を持っている訳でもない。

　いつもパソコン片手に仕事をしている二十代後半の男……。


　の、はずだった。イジュンはある日を境にその生活の全てが凶変した。


　今日と言う日もまたパソコンを開き、膨大な情報を前にしながら仕事を行っていたイジュンであったが、システムのバクかそれとも誰かからのメッセージなのかは知らないが、イジュンが使用していた大型のモニターの全てが見知らぬ映像によって埋め尽くされた。

　プログラム用のモニター画面に映るのは、いつもの仕事の風景ではなかった。
　明らかに異常そのものだ。

　イジュンは、堪らず座っていた椅子から驚いて転げ落ち、尻もちを着きながらそのモニターを目を見開いて見つめる。


　―――な、何が起こっている!?


　画面を埋め尽くすのは、何処か分からない。自分も何処の場所なのか分からない映像であった。

　画面には、1人女性が映っている。やけに扇情的な衣装を着用し、濃い紫色の髪をポニーテールにして纏めている。

　映像越しでも、分かる。何か見てはいけない映像を見てしまったのではないだろうかと…。
　そして映像越しに何かを語り掛ける女性を前に、イジュンは何も出来なくなった。ただ石像の様に固まっている事しか出来なくなる。

　イジュンの脳内に悪い予感が走る。背筋が凍る様な感覚だ、全身が一瞬軽く震える。


　次の瞬間、扉の先からドタドタと大人数が走ってくる様な音が聞こえた。
　明らかに、自分に用にある人物が次々とこの場所に迫って来ているのがイジュンには分かった。


　しかし、相手の用は明らかに穏やかな話ではない様にしか思えない。
　イジュンは考える事を後回しにして、先に逃げ出す選択を取る事にした。

　仕事用のコートを剥ぐ様な形で強引に掴み取り、一台のノートパソコンと愛用している専用の無人小型偵察機を鷲掴みにすると、命の危険を感じ、無理を承知で窓から無理矢理飛び出した。


　窓ガラスを突き破って、外に飛び出したぐらいの所で、仕事部屋の中に人が大勢押しかけてきた。

　全員戦闘服を身に付け、銃等で武装をしている。


　―――振り返るな、振り返れば死ぬ！


　振り返らなかったのはある意味正解だ、奴らは窓から飛び出そうとしたイジュンを見つけるなり、周りの事等見境無しに銃を乱射してきたのだ。
　四方八方に放たれる銃弾は、彼の仕事部屋をどんどん破壊してゆき、数秒も経てば彼の部屋はほぼ崩壊してしまった。

　イジュンはあまり運動をする事は好みではなかったが、死に際に発動した生存本能がイジュンの全身を半場無理矢理に動かした。

　窓ガラスを突き破って外へと飛び出したイジュンは、林立するビル地帯を走って走って駆け抜けていた。
　止まった車の下をスライディングして逃げ出し、パルクール並の激しい移動を繰り返してどうにかイジュンは姿を眩ませ、何とか追跡を振り切る事に成功した。

 
　◇◇


　その日の夜、イジュンは素性等明かさなくて良いこじんまりとしたネットカフェに一人入り浸っていた。

　まだ落ち着かない体と、湧き上がる怒りに耐えながら今日の出来事が一体何なのかを考えていた。

 
　しかし、自分が考えている時間は無駄に等しかった。
　パソコンのネットニュースの記事には……イジュンの顔写真及び住所が全面的に公開されていた。

　企業の機密情報をハッキングし、ハッカーに機密情報を売り渡そうとしたと言う覚えのない罪状と共に。

　イジュンは怒りに駆られた。何故、何故何もしていない自分がこんな目に遭わなければならないのか。

　高々巻き込まれた側だと言うのに、まるで自分が首謀者の様にして扱わている。


　――お前らは俺から全てを奪った。なら、俺もお前らの全てを破壊して奪ってやる！


　その日を境に、犯罪者であり各国で重要指名手配されている「ハク・イジュン」の姿を見る者は誰一人としていなかった。


　姿も、髪型も、服装も、雰囲気もその全てを前とは全く違う姿へと変貌させ、冴えない会社員の男からサイバー風のハッカーとして生まれ変わったイジュンは自らの名を隠し、新たな名前「サイファー」と名乗った。

　そして、彼は事情を知る者が殆どいない中、自らの足であの霧と闇の中へと辿り着き、単独でその内部へと逃亡した。


　誰もが知らぬ中で、彼だけは皆が知らない様な情報を握っている。気が付けば、彼はすぐ傍に迫り誰かを監視しているだろう…。