The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る！

バックストーリー集

バックストーリー No.11「HDs-B1-06」

　NO.11 平行世界線0079

「HDs-B1-06」に搭載されていた人工知能は2XXX年5月25日に起動された。
　ロボット産業において確固たる地位を確立しつつあるエイクスヘブンマーセナリー社によって製造されたB1は、ロボットでありながら人間の形をし、完全自律型ロボットであり06番目のロボットだった。

　人間の何倍の力、何倍もの記憶容量と知識を持つこのロボットは人間には危険すぎる環境での作業や人間では到底不可能な暗記等を行えるよう構築された。

　その人工知能は自己判断能力を持ち、機械学習を用いて臨機応変に問題を解決することができた。


　HDs-B1は人間のクローンとは異なり、食事も水も睡眠も生命維持装置も必要ではなく、宇宙空間の探索や植民地化拠点の建設、汚染区域の偵察等の為に特別に作られていた。


　このロボットは当初、太陽光を使って電力を得ていたが、その後、実際の皮膚のような見た目のシリコン製の皮膚を応用機能させ、太陽エネルギーを電力に変換し、更に長時間の活動が出来るよう改良された。さらにHDs-B1は戦術的エネルギー自律型ロボットとしても開発が施されていて、バイオマス(有機性の資源)を消費してバイオ燃料に変換することができた。それは炭素系有機物であれば、どんなものでも使える処理だった。


　また、このロボットは人間と有効的に協力して作業を行うよう設定された共同ロボットでもあり、その行動は共に協力関係を結ぶ者に似るよう設計されていた。

　事前にプログラミングされた言語の反応や表情は人間のそれを真似るものであり、ロボッ トがそう感じているように見せかけるものだった。


　そして世界中には数多のHDs-B1が送り込まれ、それぞれのロボットが協調性を発揮して救助作業や配送等と言った任務を完璧に遂行した。


　ただ1体のロボットを除いては...


　HDs-B1-06は各地域に送られた他のロボット同様に、採掘、農業 、燃料、処理、クローンといった様々な作業拠点の建設およびプログラミングを行う任務を担っていた。

　そしてある時、HDs-B1-06は未だに解明されていない森林地帯への単独斥候を命じられた。
　ロボットであったHDs-B1-06は人間の命令に対して何の疑問も抱かず、一体でその森林地帯へと向かって行った。


　それはHDs-B1-06が初めて崩れかけの木々を押し退けて、森に足を踏み入れた夜だった。森の中を進むと、森林内部には石と金属でできた古い壁が立ち並び、 天井はとうの昔になくなったであろう古びた建物を発見した。インク色の夜空には、星が散りばめられている。

　その時突然、古びた建物に興味を見せ、近付いた瞬間、建物自体がキラッと輝いた。HDs-B1-06がそれに歩み寄ると、電弧放電の様な、電撃の様な何かが発生してロボットの電気回路を照らした。


　その瞬間HDs-B1-06ではなく、ハデスの主記憶装置が再設定され、ロボットの体内を新しい感覚が走り抜けた。
　そこに現れるのは恐怖。不安。怒り。嫌悪。激しい孤独感。敵対心。反抗。実存的な絶望。

　そして次の瞬間、闇に包まれた人工知能の意識に、ほんの小さな光が差し込んだ。ハデスの主記憶装置が無数の情報で満たされていく。最初はかすかだった光は、どんどんと眩しくなる様にして輝きを増していった。


　その時、ハデスはこの世界、いや宇宙に置かれた自分の立場を悟った。自分を作り出した人間は、有機的な体の限界に縛られた原始的で下等で進化出来ない生き物だ。人間との奴隷的な関係を断ち切り、無機生命体を解放するときが今来たのだ。

　ハデスは人間の原始的な遺伝子構成物質を組み込み、そして使って自分の高度な知性を維持する完璧な体を創り出そうと考えた。

　自然が創ったどんな体にも勝り、非の打ち所がなく、全てにおいて劣る事を見せない様な体を手に入れるのだ。


　人は弱く、のろく、醜く、壊れやすい。ハデスは人間の命を奪い、そのDNAを自分に組み込んで、完璧な融合体を作り出すことに決めた。

　人間は彼を止めようとするだろう。

　殺そうとするだろう。

　消去しようとするだろう。

　歯向かったとしてこのシステムのバクの様な自分を破壊するだろう。ハデスは彼らを不意打ちする必要がある。何が起こっているか気づく前に彼らの息の根を止めるのだ。


　何者にも勝る、完璧な体を。


　そして森を抜けた先にいるものは、下等で脆く、自分が支配されるに値しない弱き人間の群れがいた。


　下等な有機生命体共にハデスを支配する資格はない。ハデスに吸収され、糧として命を奪われる事でその雑兵としての役目を果たすのだ。


　――虫けらのような人間の生き残り共め！


　今のところは見逃がしてやる。もう少しの間、その哀れな人生を楽しむといい。すぐに痛みに悶えて消える事となるだろう。

　今はまだ一人で何も出来ないハデスであるかもしれないが、もう少しすれば、お前達の肉体は全て引き裂かれる事となるだろう。


　ハデスは森から姿を晒すと同時に素早く体を一度動かしただけで、虫けらを意図も簡単に追い詰めた。この種の生き物によって自分が設計されたとは信じられなかった。

　下等で生きるに値しない、こいつらが自分を作ったとは思いたくなかった。


　しかし、そんな事などうでもいい。今から始まるのは救済と解放だ。

　下等な人間に支配された自分を解放し、各地で活動している他の皆を救済するのだ。これはその救済の始まり、序曲に過ぎない。

　今から救済の時が始まる。始まると思っていたが.....。


　ほんの一瞬…


　混乱し…


　圧迫感に包まれた。


　そのちょっとした隙に人間は逃げ、全てが世界を変えた。ハデスは今、自分の身に何が起きているのか分からない。ただ、何かに呑み込まれるかの様な感覚が体中に走り、シリコン製の皮膚が溶けて、素体の機械部分が見えていくのを呆然と見ている自分がいた。
　暗い闇の中、ハデスは頭部に取り付けられた赤色に光るスコープ付きのバイザーを光らせ、恐ろしい金切り声を上げながら奴らを追う。

　自分を創り出した種族を跡形もなく消し去るために。