上 下
1 / 2
登場人物①

【ナナ・キャット】

しおりを挟む

 赤と青のツートンカラーの髪を持ち、元イレイザー(抹殺者)としての経歴を持つ凄腕のガンナー。

 現在はDEA(Devil Enforcement Administration)と呼ばれる悪魔取締局(司法省の犯罪捜査機関)で働いており、元イレイザーとしての腕前をいかんなく発揮している。

 彼女は「鬼」と呼ばれる種族の1人で、子供の頃から“悪魔狩り”と呼ばれる一族の使命を担われ、数百年もの間、戦いの絶えない環境に身を置いてきた。

 サンタモニカに移住してきたのは、つい最近のことだ。

 元々は南イタリア最大の都市・ナポリで暮らしていたが、彼女の友人であるリズと呼ばれる女性が“ある悪魔”に殺害されて以降、その悪魔の行方を追っていた。

 悪魔の正体は、巨大犯罪組織『アンダーテール』の“番人”と呼ばれるナンバーズの1人で、懸賞金600万ドルの大物犯罪者だった。

 ノラ・ネクロフィリア。

 通称、——“ネロ”

 組織から「緑」の戒律(※組織には、死の色を司った「12」の戒律があり、それぞれの戒律を与えられた12人のメンバーたちを“ナンバーズ”と呼んでいる)を与えられている男の行方を追いながら、彼らの拠点があるロサンゼルスへと移住していた。

 DEAに所属したのは、そういった経緯があったためだ。

 全ては、復讐のためだった。


 鬼として生まれ育った彼女は、元々人間のことを毛嫌いしていた。

 彼女が生まれた頃はまだ、鬼と人間との間に種族間の階級差が色濃く残っており、鬼が奴隷のように人間を扱っていた時代だった。

 ナナは“青鬼”と呼ばれる一派の元に生まれ、彼らの教えを一身に受け、種族としての気高さや価値を学んできた。

 彼女にとって人間は「敵」であり、種族の繁栄を促すための「贄」だったのだ。

 人間は鬼の社会にとっての“道具”でしかなかった。

 だからこそ、人間という存在を好きになることも、親しみを持つこともなかった。

 彼女自身が、元々“人間”であったにも関わらず。


 自らが鬼の血を分け与えられたものであること、家族を鬼に殺されたこと、それらの“事実”を知ったのは、彼女が生まれてしばらく経ってからのことだった。

 時代は流れ、世の中は大きな変動を迎えていた。

 “人間と共存すること”

 そういった考えが鬼の間に浸透してきたのは、西暦395年に古代ローマ帝国が東西に分裂した後、5世紀後半以降のことだった。

 5世紀初め、人間たちの反旗に晒された西ローマ帝国は、急速に統治能力を失い、数多の軍勢を率いていた「赤鬼」と呼ばれる鬼たちが皇帝を退位させたことによって、形式的にも滅亡を迎えた。

 「古代ローマ帝国」の崩壊である。


 「人間」という種族としての主権と自由を与えるべく、当時の帝国を築いていた鬼たちとは反対側の考えを持つものたちがいた。

 それが、「赤鬼」と呼ばれる鬼たちだった。


 彼らは帝国が築かれる以前は青鬼たちと同じ考えを持っていたが、時が流れるにつれ、少しずつその考え方が変わっていった。

 人間には人間の暮らしがあり、自由に生きるための権利があるのではないか?と考えるようになった。

 長い時間をかけ、反帝国軍を築き上げた赤鬼の軍事力は、世界を支配していた帝国を脅かすほどの存在に成長していった。

 帝国の凋落は、“人間の歴史の始まり”でもあった。

 ナナは、その時代の流れの中に生きてきた鬼の1人でもあった。


 彼女の人間に対する考えは、しばらく変わることはなかった。

 人間は敵であると教えられてきた身としては、彼らを“平等な存在”とみなすことは難しく、赤鬼たちのような人道的な考えを持つことはできなかった。

 鬼に家族を殺されたこと、元々は人間だったこと、そのような事情を加味したとしても、自らの心に根付いていた価値観を180度変えることは並大抵のことではなかった。

 そんな彼女の考えが少しずつ変わるようになったのは、ある“赤鬼”との出会いがきっかけである。

 彼女はその鬼と苦楽をともにし、人間たちが自由に生きていく時代を共に過ごした。

 生まれつき青色だった髪を半分赤色に変えたのは、彼女のように生きようと決めたからだった。


 人間とともに、同じ空の下を生きていく。


 いつしかそう志すようになったのは、第二次世界大戦が終わって間もなくの頃だった。

 世界各地ではいまだ戦争が絶えない地区もあるが、数世紀も前の世界に比べれば、人々が平和に暮らせる時代が少しずつ近づいてきていた。


 ナナにとっての「赤」は、自由の象徴だった。

 そして「青」は、一族としての“誇り”。


 相反する2つのを胸に抱きながら、ナナは墓前に誓っていた。

 ナナに教えを説いた赤鬼は、奇しくも人間に殺されていた。

 それでも、彼女は死の間際、ナナに言ったのだった。

 鬼も人も、いつか分かり合える日が来る。

 いつか、全てのものが、静かな安らぎと未来を描ける時代が来る、——と。


 21世紀、初頭。


 青と赤の2つの「色」を併せ持つ彼女は、“悪魔”と呼ばれる異形の怪物たちと対峙するべく、今日も戦う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ephemeral house -エフェメラルハウス-

れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。 あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。 あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。 次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。 人にはみんな知られたくない過去がある それを癒してくれるのは 1番知られたくないはずの存在なのかもしれない

一人息子の勇者が可愛すぎるのだが

碧海慧
ファンタジー
魔王であるデイノルトは一人息子である勇者を育てることになった。 デイノルトは息子を可愛がりたいが、なかなか素直になれない。 そんな魔王と勇者の日常開幕!

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

御伽の住み人

佐武ろく
ファンタジー
国内でも上位に入る有名大学を首席で卒業し大手企業に就職した主人公:六条優也は何不自由なく日々の生活を送っていた。そんな彼が残業を終え家に帰るとベランダに見知らぬ女性が座り込んでいた。意識は無く手で押さえたお腹からは大量の血が流れている。そのことに気が付き慌てて救急車を呼ぼうとした優也を止めるように窓ガラスを割り部屋に飛び込んできたソレに思わず手は止まり目を丸くした。その日を境に人間社会の裏で生きる人ならざる者達【御伽】と関り始める。そしてある事件をきっかけに六条優也は人間社会から御伽の世界へ足を踏み入れるのであった。 ※この物語はフィクションです。実在の団体や人物と一切関係はありません。

【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん
ファンタジー
 ~あらすじ~  炎の力を使える青年、リ・リュウキは記憶を失っていた。  見知らぬ山を歩いていると、人ひとり分ほどの大きな氷を発見する。その中には──なんと少女が悲しそうな顔をして凍りついていたのだ。  美しい少女に、リュウキは心を奪われそうになる。  炎の力をリュウキが放出し、氷の封印が解かれると、驚くことに彼女はまだ生きていた。  謎の少女は、どういうわけか、ハクという化け物の白虎と共生していた。  なぜ氷になっていたのかリュウキが問うと、彼女も記憶がなく分からないのだという。しかし名は覚えていて、彼女はソン・ヤエと名乗った。そして唯一、闇の記憶だけは残っており、彼女は好きでもない男に毎夜乱暴されたことによって負った心の傷が刻まれているのだという。  記憶の一部が失われている共通点があるとして、リュウキはヤエたちと共に過去を取り戻すため行動を共にしようと申し出る。  最初は戸惑っていたようだが、ヤエは渋々承諾。それから一行は山を下るために歩き始めた。  だがこの時である。突然、ハクの姿がなくなってしまったのだ。大切な友の姿が見当たらず、ヤエが取り乱していると──二人の前に謎の男が現れた。  男はどういうわけか何かの事情を知っているようで、二人にこう言い残す。 「ハクに会いたいのならば、満月の夜までに西国最西端にある『シュキ城』へ向かえ」 「記憶を取り戻すためには、意識の奥底に現れる『幻想世界』で真実を見つけ出せ」  男の言葉に半信半疑だったリュウキとヤエだが、二人にはなんの手がかりもない。  言われたとおり、シュキ城を目指すことにした。  しかし西の最西端は、化け物を生み出すとされる『幻草』が大量に栽培される土地でもあった……。  化け物や山賊が各地を荒らし、北・東・西の三ヶ国が争っている乱世の時代。  この世に平和は訪れるのだろうか。  二人は過去の記憶を取り戻すことができるのだろうか。  特異能力を持つ彼らの戦いと愛情の物語を描いた、古代中国風ファンタジー。 ★2023年1月5日エブリスタ様の「東洋風ファンタジー」特集に掲載されました。ありがとうございます(人´∀`)♪ ☆special thanks☆ 表紙イラスト・ベアしゅう様 77話挿絵・テン様

炎のトワイライト・アイ〜二つの人格を持つ少年~

蒼河颯人
ファンタジー
――僕は死にません! 君を守りたいから!!――  門宮茉莉は綾南高校に通う二年生。吸血鬼による怪事件が起こり続ける日常の中、彼女の目の前に突然一人の男子生徒が現れた。多彩性豊かに輝く青い瞳を持つ彼の名は神宮寺静藍。病弱で一見ひ弱そうに見える彼には「吸血鬼」というもう一つの顔があった。  彼は過去にかけられた呪いの為に、体内に巣食う「吸血鬼」としての血が覚醒すると、赤い瞳を持つ吸血鬼と化してしまうのだ。この呪いを解くには「芍薬姫の血」が必要だが、制限時間内に見付け出さないといけない。そんな彼を我が物にしようと虎視眈々と狙う吸血鬼達。彼等が起こす事件に茉莉達は巻き込まれてゆく。静藍は果たして無事に人間へと戻れるのか?  襲いかかる吸血鬼とそれに抗う高校生の戦いを描いた現在バトルファンタジー。 ※本編は完結済みです。 ※過去編から先よりブロマンス要素が入って来ます。 ©️2021-hayato sohga ※当サイトに掲載されている内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。(Unauthorized reproduction prohibited.) 表紙絵や挿し絵はMACKさん、凜々サイさん、長月京子さん、藤原 柚月さんに描いて頂きました。

処理中です...