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命日
第12話
しおりを挟む「息を吐いて。しっかり意識を保って」
落ち着いた声色が、アンバランスな時間差の底に落ちてくる。
ふくよかな感触が肌の先に掠める。
尖った先端が降り注いでくる。
押して、引いて。
交互にすれ違う、軋みのような厚み。
今、何が起こってるのかの理解は、遥か遠い場所にあった。
彼女の言葉の大部分は、繋ぎようのない破片となって散らばっていた。
それは「言葉」だけじゃなくて、もっとずっと、身近に動いているもので…
「……………くっ」
刺すような痛みが、そこらじゅうで起こってた。
グワングワンする頭が、地響きのようにうねってた。
どうすることもできなかった。
手は縛られてるし、動くことすらままならない。
…本当に、俺は死んだのか…?
不意にそう思ってしまったのは、目の前の「現実」が、あまりにも“剥離”していたからだ。
こんなこと、起こるはずがない。
ここは地獄か何かで、俺は今「あの世」に…?
まさか、…夢…?
目の前にいるのは天ヶ瀬だ。
それは間違いなかった。
ただ、だからこそあり得なかった。
天ヶ瀬がどんな子なのかは、まだよくわかってない。
出会って数ヶ月だし、同じクラスってだけで、そんなに話したこともない。
接点だってほとんどない。
たまたま隣の席ってだけで、たまたま、“共通の趣味”があるってだけで。
…だけど、「変な子」じゃないっていうのはわかる。
クラスのみんなは天ヶ瀬の虜になってる。
容姿端麗で、成績は優秀。
おまけに明るい性格ときた。
付け入る隙なんてなかった。
ガッ
髪を掴まれて、無理やり顔を持ち上げられる。
抵抗もできないまま、俺は痛みに耐えるしかなかった。
彼女は俺の目を見て、必死に何かを訴えかけた。
その全部を拾い切ることはできなかった。
「大丈夫だから」
そう言っていることは、確かに聞き取れた。
突っぱねるようで、どこか静かな“温かみ”を、——持ちながら
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