6 / 34
命日
第6話
しおりを挟む自分がナイフに刺されたことを認識したのは、それからすぐのことだ。
すぐと言っても、俺にはそれが、何秒も、何分も先に起こった出来事にも感じられた。
…ああ、死ぬんだ…
って、思った。
きっとその感覚は、自分自身が予期していないところからやってきた。
感情はなかった。
やばいとか、痛いとか、目の前の出来事に対する焦りは、不思議となかった。
男の肩を掴んだところまではあった。
焦りっていうか、“なんとかしなきゃ”、っていうか。
それがどういう感情だったのかは、自分でもよくわからない。
少なくとも、焦ってたのは間違いなかった。
掴みどころのない不安だけがそこにあった。
胸の奥が、ぎゅっと押さえつけられるような感じだった。
髪の毛をぐいっと引っ張られるみたいな?
それでいて…
胸にナイフが突き刺さってる。
息ができなくなった。
胸に突き立てられたそれを見た時、言いようもない悪寒が、背筋を襲った。
起こってることを理解するのに、時間は必要なかった。
…いや、多分、何秒かは経っていた。
目まぐるしいほどの慌ただしさが、意識の隙間を縫うように襲ってきていた。
わけがわからなかった。
反面、“何が起こってるのか”は、すぐに認識できた。
ただそれに対する「言葉」は、すぐには見つからなかった。
言葉も、それに対する印象でさえも。
透けていくような時間があって、足元から、何かが逃げ出していく感覚があって…
声を発することもできなかった。
気がついたら、天井を向いてた。
世界が“下から”這い上がってきていた。
グァーッと視界が歪んで、バチバチッと何かが弾けた。
だんだんと苦しくなる自分がいた。
目の奥が熱い。
思うように力が入らない。
(…嘘だろ?)
必死にナイフの柄を持った。
ほとんど無意識だった。
無意識のうちに、刺さったナイフの場所を見ていた。
Tシャツが赤く染まっていく。
全身から、汗が引いていく。
(…俺は、このまま…)
どんな状況に陥ってるかを、自分なりに解釈しようとしてた。
どうすることもできないのはわかってた。
だって、“刺さって”たんだ。
信じたくはなかった。
夢なんじゃないか?とさえ思えた。
沸騰する感情がそばにあった。
どうにかしなきゃいけないとは思ってた。
『死』
ありありと浮かんだその文字が、確かな「予感」となって現れた。
…ただ、だとしても
ふと、視界に人影が入ったんだ。
天井から落ちてくる蛍光灯の光に、ちょうどそれは重なった。
「サトシ…くん…?」
だれかが俺を呼んでる。
…誰だ?
高くて、聞き覚えのある声で。
優しく撫でるようなその音が、頭の中に響いていた。
はっきりしてるわけじゃなかった。
意識は朦朧としてた。
息の仕方もわからなくなるほど、何が何だかって感じだった。
ぼやける視点の先に、とろけるような甘い香りが掠めた。
この匂い、——どこかで
俺は、目を疑った。
消えそうになる意識の片隅で、あり得ない光景が、視界の中に入ってくる。
赤く染まっていくシャツと、遠ざかっていく景色と。
…天ヶ瀬?
それからすぐのことだった。
鈍い音がしたと同時に、意識が途切れたのは。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
時々、僕は透明になる
小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。
影の薄い僕はある日透明化した。
それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。
原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?
そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は?
もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・
文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。
時々、透明化する少女。
時々、人の思念が見える少女。
時々、人格乖離する少女。
ラブコメ的要素もありますが、
回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、
圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。
(登場人物)
鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組)
鈴木ナミ・・妹(中学2年生)
水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子
加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子
速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長
小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員
青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生
石上純子・・中学3年の時の女子生徒
池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生
「本山中学」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる