ブザービートはもう鳴っている。



人々の見る夢で構成された町、神廻町。

そこは、人々の記憶が集う「場所」でもあった。

現在に生きている人も、そうでない人も、永遠に変わることがない時間と空間の中で、平和なひと時を過ごしていた

世界が存在している限りは、神廻町も消えることがない。

ただし、この場所では、「可能性」という概念がなかった。

人生という制約がなく、縛られる“ルール”もない

一見するとそこは楽園であり、人々が理想とする世界でもあった。


2001年7月に起きた、死傷者約300人以上にも上った脱線事故。

事故の当日、先頭車両に乗車していた夏凪ウミは、生と死の境目を彷徨っていた。

夢の中で神廻町に紛れ込んでしまった彼女は、町の住人である、涼風ソラと出会う。

ソラは元々現実に住んでいた人間ではなく、神廻町で生まれ育った「夢の住人」と呼ばれる存在だった。

この町では、そういった人間があちこちに存在していて、現実に存在している人の「魂」と一緒に、永遠に続く時間の流れの中に漂っていた。

自らの存在が、世界のどこにも属していないことも知らずに。


夏凪ウミは、ソラを見て驚く。

そう、彼は栞にとって、どこか見覚えのある人間だった。

小学生の時に告白した、“初恋”の相手に——
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