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100億光年の時の彼方で
第355話
しおりを挟む倉庫のような四角い家と、細長く平べったい3階建ての家。
「空」の文字がよく目立つパーキングが、狭い路地の中にある。
バカでかい広告に、昭和くさい古ぼけた事務所。
店なのか家なのかよくわからないコテージ風の建物のそばで、カラカラカラと、風車が音を鳴らしていた。
すっかり錆びたトタン屋根の物置小屋が、草だらけの敷地の真ん中に、何十個ものブイを散乱させていた。
赤に黄色に、紺に。
ブイとブイを繋ぐ紐が、ぐるぐる巻きになって積まれている。
ブルーシートの下には、杭のような木材が束になって重なっていた。
パレットが立てかけられ、紐でキツく縛られていた。
何も植えられていない畑が奥に見えた。
ブロックで組み立てられた小さな焼却炉のそばには、タイヤのない猫車が、うつ伏せになって倒れていた。
赤いコーンに、——底の割れたサーフボード。
駅と、海岸と、潮のにおいと。
海沿いの通りに流れる路地裏の向こうには、空気が入れ替わったように拓けた景色が広がる。
細長い堤防と、海水浴場の白い砂浜。
ゆったりとした海岸線の湾曲が、コンパスを引いたように緩やかな曲線を描いている。
海原に伸びていく低い沖の瀬には、眩しい陽の光が、チカチカと水飛沫のそばに揺れていた。
松の並木道の下に落ちる木陰が、埃っぽいコンクリートの表面を泳いでいた。
ビーチパラソルのカラフルな色彩が、街角を抜けてくる秋のそよ風になびきながら。
広い空。
どこまでも伸びる水平線。
おかんの店の近くのこの場所は、嘘のように人気がない。
大きい倉庫とか、新しい家とか。
芝生の庭とウッドデッキがあるガレージハウスが、桟橋のすぐ近くに見える。
『三上造花店』と書かれた一階建ての平屋には、90年台のスカイラインが、砂利の駐車場にいつも停めてある。
緑のフェンスの向こうには、ヘンテコな形のポストと、『ゴン』という名札のついた犬小屋。
青い屋根の工場の壁には、「氷」という謎の文字が、赤いスプレーでデカデカと書かれていた。
昔、海の家だったみたいだ。
その名残らしくて。
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