355 / 394
100億光年の時の彼方で
第353話
しおりを挟む煙突の見えるパン工房の裏を抜けて、ひらけた駐車場が見える家電量販店を通り過ぎた。
オレンジ色のマンションと、蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線。
マンションのベランダから布団を干している人が見えた。
南国にありそうな瑞々しい葉をつけた植物が、花壇の上でぎゅうぎゅう詰めに並んでいる。
駐車場の壁に沿って植えられた生垣が、寝ぐせを立てて丸まっていた。
葉と葉の間に見え隠れする茶色い枝が、ぐねぐねした線を象りながら。
落合中学のプールサイド。
網敷天満宮の水色の銅板屋根と、赤い柱。
茶色いフェンスが両サイドに並ぶ踏切を渡り、海沿いの通りに出た。
浜手幹線交差点。
須磨駅前のT字路に。
「そこのパン屋寄っていい?」
「先行っとくで?」
「あんたは何も買わんのん?」
「揚げパン買っといて」
「自分で買いぃや」
「財布無いって言うとるやろ」
金は払ってやるから自分のものは持てと言われた。
しょうがねー
つってもさっき食ったからな。
お腹空いてないっちゃ空いてない。
でも、買っとくだけ買っとくか。
どうせ、朝練の後に腹減るし。
駅前の通りにある、『ひまわりベーカリー』。
素朴な外観とは裏腹に、色とりどりのパンが並ぶこの店は、学生にすごく人気の場所だ。
値段が安くて、美味しい。
三ノ宮駅の中のパン屋とか、商店街のパン屋も時々寄るが、やっぱここが一番うまい。
とくに「揚げパン」が。
カリッとした衣に、噛んだ瞬間溶けるようなふっくらとした弾力が、息を合わせたようにやってくる。
他にはない絶妙なバランスの食感の後にやって来るのは、ジューという揚げたての躍動感と、餡子の濃厚な甘み。
口の中に到着する頃には、パンの生地に染み込んだじんわりとした甘さと、パンの中に閉じ込められた強烈な餡子の風味が、息をつく間もなくやってくる。
雷が落ちてくるように、口の中が弾けるんだ。
「うまっ!!!!」って感じで。
最初食った時は甘すぎると思ったけど、今は違う。
逆に今くらいとんがってないと、少し物足りないと思う。
とくに表面にまぶしたザラメが、触感といい舌触りといい、全体の味わいを良くしてくれてる。
最高なんだよな。
「ジャリッ、じゅわ~」って感じのコンビネーションが。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
真夏のサイレン
平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。
彼には「夢」があった。
真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。
飛行機雲の彼方に見た、青の群像。
空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。
彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。
水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。
未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?


切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる