349 / 394
100億光年の時の彼方で
第347話
しおりを挟むボッ
全身が、雲の海の中にダイブする。
そこに「形」はなかった。
全身にぶつかっていく気流は、水面を揺らした時のように滑らかな振動を伴っていた。
半透明な粒と泡が、空気中を駆け抜けていく。
目まぐるしい速度で回転し、上昇する気流を掴んで。
——渦。
その軌道に乗っかって、光と波が交錯していく。
雲の表面を覆っていた水蒸気の峰。
その滑らかな曲線は、対流圏の表層にぶつかった途端に砕けていった。
あっという間だった。
それでいて、緩やかだった。
大気中にかたまって浮かぶ水滴の一つ一つが、屈折する光のそばに破裂していた。
確かな線と、——実体。
氷晶が、ゴムを引っ張ったように伸縮していた。
ぼんやりとした色とその形状は、対流する空気の“平面上”にはなかった。
パチパチパチパチという音と、サァァァァァという流れ。
指先に触れる感触は冷たく、柔らかい。
雲の表面上に広がる境界はぶ厚かった。
まるで、白いインクを垂らしたように。
地球の重力に引っ張られるその進行方向に向かって、その“層”は幾重にも織り重なっていた。
ただはっきりとは、その断面の線を捉えることはできなかった。
雲の中へと沈んでいく先で、バラバラにほどけていく氷の粒子が、霧状に飛散していった。
白く濁った靄が、——灰色が、一気に眼球の中へと流れ込んでくる。
スポンジに穴を空けたように、また、水の中に飛び込んだ時のように、確かな感触を連れて来る。
持ち上げられる感覚と、引っ張られていく視界。
光は吸い込まれていた。
深い靄の奥へと滑り込みながら、凝結した水滴を貫き、透けていく。
全身に触れていく空気の流れ。
粒子をかき分けていく重力。
底の見えない深淵が、時間を追うごとに濃くなっていった。
——そして
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
真夏のサイレン
平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。
彼には「夢」があった。
真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。
飛行機雲の彼方に見た、青の群像。
空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。
彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。
水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。
未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?


切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる