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トンネルの向こう
第339話
しおりを挟む部屋の奥にある扉の前に立ち、カードキーをかざした。
緑のランプが点灯し、ハンドルが回る。
プシューッという音を立てて。
「…うわ、なんや、ここ」
重い扉の向こうには、巨大な機械が設置されていた。
部屋の中央にコンテナのような箱型のボックスが置かれ、壁沿いには、パソコンの内部を剥き出しにしたような電気回路が、楽譜の譜面のように規則正しく整列していた。
ブラウン管のテレビに似たモニターが、何十個も埋め込まれている。
床にはコードが散乱していた。
3メートル近くある電子制御機器の基板には、様々な形をしたプラグが、夥しいほどに差し込まれていた。
空間自体は狭かった。
狭いというか、圧迫感を感じた。
部屋の隅にはポッド型の容器が、2つ、敷き並べられていた。
病院にある、MRIみたいなドーナツ型の機械装置が、その容器に連結するように設置されていた。
容器自体は横たわってる。
その装置に、もたれるように。
奇妙な空間だった。
巨大な機械の周辺にはいくつものコネクタがあり、無数のランプが、所狭しと点灯していた。
何と何が繋がっているのかもわからないくらいの、ボタンやスイッチ。
天井はそれなりの高さがあり、照明は薄暗い。
奇妙というか、不気味な感じか…?
部屋に入った途端に、音が遮断されたように空気が重くなった。
多分気のせいだとは思うけど、窓が一つもないせいか、暗い穴の中に閉じ込められたような、陰鬱な気分に襲われる。
女は、自分の背丈よりも大きな操作盤を触っていた。
電源を入れたのか、ブゥゥンという振動音が響き、モニターの画面が接続される。
迷ってる様子は少しもなかった。
慣れた手つきでテキパキと進め、画面上にコードを入力していた。
いくつかのモニターを見ると、ローマ字とか数字が上から下までズラッと並んでて、ぱっと見、何を書いてるのかがわからない。
ブレーカーに似たレバー式のスイッチが、太い配管に繋がれる制御ボックスの中に見えたが、触るとどうなるんだろうか?
こういう電気機器って、つい触りたくなっちゃうんだけど、わかる?
女は「じっとしてろ」と嗜めてくる。
…はい、すいません
じっとしておきたいが、椅子も何もないじゃないか。
倉庫並みに暗いし、妙に蒸し暑いし…
「何する場所なんや?ここ」
「そこにポッドが見えるやろ?」
「横たわっとるやつ?」
「横たわってる?…ああ、そう見えなくもないか。それそれ」
「あれがどうかしたんか?」
「あれを使って、あんたの脳の中にあるチャンネルへとアクセスする」
……??
………えっと、よく聞こえなかったんだけど
「あの中に入るってことや」
…あの中って、あのポッドの中に…?
「うん」
いやいや、無理無理無理…!!
あれって、人が入るもんなのか…?
大きさ的には入れそうだが、用途が謎すぎる。
「…冗談よな?」
「冗談に聞こえる?」
聞こえるか聞こえないかって言われたら聞こえない。
…え、がちで?
「ビビっとんか?」
「ビビるやろそりゃ」
ただでさえ得体が知れないってのに、あの中に“入る”だぁ!?
絶対にやなんだけど。
「別に怖いもんちゃうで?」
「この場所がすでに怖いんやけど?」
「そう?」
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