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トンネルの向こう
第338話
しおりを挟む…なんだ、これ…
事故…?
…俺が…?
事故に遭う…?
何度も見返した。
信じられなかった。
「運命」って…
何が運命なんだ…?
絶句してる俺を横目に、女は言った。
「信じられんか?」
「…当たり前やろ」
「キーちゃんは知っとったんや。あんたが、事故に遭うこと。せやから、未来を変えようとした」
「待て」
「ん?」
「ちゃんと説明せぇ」
「昨日言うたやん」
「こんなん聞いとらん」
「言っとらんからな」
「…はぁ?」
「重要なんは、あんたが事故に遭うかどうかやない。変えないといけない「未来」があるっていうことや」
…なんだそれ
全然説明になってねんだけど?
変えないといけない未来?
“千冬を助ける”って、そういう話だっただろ?
なんだよこれ…
なんで、俺が事故に…?
「隕石が落ちる前の世界で、たった一つの「時間」が存在した。その世界には、キーちゃんとあんたがおった。甲子園球場で、夢を追いかける2人が」
「…で?」
「その先の“未来”に、まだ、世界は辿り着けてない」
「は?」
「せやからキーちゃんは走るしかなかった。あんたに会うために、世界を変えようとした」
「…意味わからんのやけど」
「問題は、あんたがどうしたいかや」
「俺が…?」
「世界の真実なんてどうでもええ。そんなことより、あんたが今何をしたいか。それが、一番大切なことや」
『人類のデジタル化』と題された、——文書。
脳科学。
情報。
意味のわからない記号や数字。
専門用語。
俺が事故に遭う。
そんなあり得ないことが、現実だとは思えなかった。
神戸の地下にこんな施設があること自体不可解なのに、「亡くなった」とか…
世界を変える。
その意味を、理解できずにいる。
女は言った。
「時間」は一つしかないって。
それが、具体的に何を意味してるのかがわからなかった。
単純に考えようとすれば、するほど。
女はどでかいモニターの前に座り、操作盤をカチャカチャ動かしていた。
その様子を後ろから見ていると、あっちに戻る準備はできたか?と聞いてきた。
「…あ、ああ、まあ、多分…」
どっちかっていうとできてない。
何を考えていいのかわかんなくて、固まったままだった。
冗談としか思えなかった。
衝撃的な内容すぎて。
モニター上で指紋認証が要求され、女は手をかざす。
コンピュータからは音声が流れた。
「おかえりなさい。セカンドキッド」
と。
女性の声が聞こえたけど、多分AIの音声だろう。
音程に変なリズムがあって、淡々としてる。
声自体は人間っぽい。
だけど妙に、トーンが冷めてた。
不気味というか、なんというか。
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