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トンネルの向こう
第336話
しおりを挟むそこに書かれてるのが、俺のことだとは思わなかった。
日付的にも、内容的にも。
2015年はまだ来ていない。
それなのに、そこにはその数字が書かれていた。
……………
………
というか…
…キス?
衝撃的な内容すぎてビビった。
なんでそんなことが起きてんのか、まったく理解できないんだが…
「…ま、まあ、内容は内容としてやな」
「人違いやないよな?」
「紛れもなくキーちゃんのことや」
「いや、そうやなくて…」
千冬が誰と“キス”したのか、そのことが頭から離れなかった。
わけわからなくね?
なんでそんな展開になってんだよ…
キスだぞキス。
まず、その「状況」がおかしい。
なにがどうなってそうなった?
…え、あり得ないよな?
大体アイツはそんなことするようなタイプじゃない。
仮にするとして、絶対俺じゃないだろ。
相手は。
「あんたしかおらんやろ」
「いやいやいや」
「内容はさておき、私の言っとったことがわかるやろ?」
「…なにが?」
「あんたに会いに行くって」
「…うーん」
「まだなんか腑に落ちんのか?」
「2015年って?」
「2015年は2015年や」
「真面目に言っとる?」
「…どういうこと?」
それはこっちのセリフなんだが。
色んな世界があるのはわかる。
ここじゃない別の世界があって、俺の知らない「時間」が、どこかに広がってる。
だからパソコンの中にある文書には、ここじゃない場所の記録が、綴ってある。
それはわかるんだ。
別の世界のことも。
「千冬」のことも。
だけど、未来の俺が何をしているかを、すぐにはすぐに想像できない。
それなのに、未来の自分が千冬と同じ世界にいて、当たり前のように会話してる。
ファーストキスという言葉。
“何十年ぶり”という不可解な言語。
…遊びにいってるんだぞ?
アイツの「家」に。
それをどんなふうに受け止めろって?
…無理だろ
…色々とさ
文書を読み進めていって、マウスを動かしながら画面を追いかけた。
そこにどんな言葉が載ってるかなんて、いちいち考えてる余裕はなかった。
ただ夢中で目を動かしたんだ。
何か見つかるかもしれない。
何か、わかるかもしれない。
そう思いながら。
「…………………………………え?」
ふと、視線が止まる。
マウスポインターが静止する。
言葉が出なかったのは、そこに書かれてるものが、絶対にあるはずのないものだったから。
目を疑ったんだ。
何行もの文字列。
何ページにも及ぶ論文。
普段なら、絶対に見ないその内容に、ふと、目を奪われた。
載ってたんだ。
そこに。
あるはずのない「名前」が。
“俺”の、名前が。
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