雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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トンネルの向こう

第328話

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 「商業区!?」

 「そうや。まだまだ構想中やけどな」

 「そんなもんが必要なんか…?」

 「“商業”って言うても、通貨は使用せんけど」

 「どゆこと!?」

 「災害が起こった後の世界で、お金なんて必要ない。必要なのは資源と、それを利用できる環境や。何人生き残れるかは別として、人が暮らしていける生活のサイクルが必要になる。食料に水。服装品。電気なんかのエネルギーもそうやな。とにかく、そういった“場”を形成する必要があるんや」

 「地下に…?」

 「地上では、人は住めんくなる。せやからこの場所がある」

 「住めんくなる…?いつから…?」

 「まだまだ先の話や」

 「先って…」

 「想像できんか?」

 「そりゃ、まあ」

 「でも目の前にあるやろ?この「場所」が。こんな大掛かりな施設が、ただの“地下”として存在しとるとでも?」

 「言っとることはわかるけど、地下で暮らすつもりなんか!?」

 「そうやで?」

 「えぇ…」

 「不思議か?」

 「…そりゃそうやろ」

 「まだまだ、課題は山積みや。よぉ見とき?いずれ暮らすことになるかもしれんで?」


 フロアの中央には、巨大な柱が天井まで繋がっていた。

 柱の直径はゆうに30mは超えている。

 まるで港の工場にある、円筒型の貯蔵タンクみたいだった。

 表面は金属っぽい硬い素材で出来ており、壁には階段が取り付けられていた。

 柱にしては大げさだった。

 こんなに太い必要があるのか…?

 下手したら、ポートタワーよりもでかいんじゃ…


 「これは柱とちゃうで?まあ、天井を支える役割も担っとるが、重要なのはそこやない」

 「柱ちゃうの?」

 「あの柱は海と繋がっとる。“海水“が入っとるんや。要するに「配管」やな。役割としては」

 「配管!?デカくね??」

 「海水を濾過する装置と繋がっとる。それから、『海洋温度差発電』っていう仕組みを利用して、発電ができるようになっとる。発電方法は他にもあるが、地下都市のライフラインを確立するために建造されたんや」

 「水力発電…ってこと?」

 「そうそう。深海1000mの海水を汲み上げるプロジェクトも進行しとる。水素エネルギーとか、熱交換器とか。「海洋エネルギー」にまつわる研究は、神戸学院大を中心に進んどってな?地下に酸素を供給するのも、海の水が担っとるんや」

 「…へぇ」

 「驚いた?」

 「なんか、色々大掛かりやな…」

 「そう?」

 「めちゃめちゃお金かかってそう」

 「仕方ないやろ?人類が生き残るためや」

 「…地下で?」

 「将来ここで暮らしていける設備が、年々整備されとる。莫大な費用が投じられとるが、その甲斐もあってこの大空間が出来上がった。多くの人が携わっとる。多くの企業や、団体も」

 「誰もおらんけど?」

 「ここはな?この施設の管理室やメンテナンス室には、たくさん人がおるで?ほら。あそこにも人おるやん」

 「どこ?」

 「あそこ。2階の窓の向こう」

 「…ああ、確かに」
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