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トンネルの向こう
第324話
しおりを挟むお姉さんに何を渡されたのか、何が準備できたのか、よくわからない。
だけど女は言う。
日常じゃ考えられないようなことを。
「あそこにおった人たちは、全員人間とちゃうで?」
「…は?」
「肉体的にはそうやが、中身は別モンや」
はい?
な、なに?
人間じゃない?
人間じゃないって誰が?
………は??
「さっきのお姉さん。まあ他の人もやけど」
「え?…どういうこと?」
「ここの研究所は、何を研究しとると思う?」
「科学的な感じちゃうの?」
「アバウトやなぁ。もっと細かく」
「細かくって言ってもわからん。物理系?」
「脳や。『脳科学』。この大学に脳神経科学を学ぶ学科があるんやが、その生徒が出入りしとる場所でもある」
「生徒なんておらんけど」
「たまたまや。普通に出入りしとるで」
「へぇ」
そんなことはいいんだ。
それよりも…
聞き間違いじゃないと思うんだが、“人間じゃない”ってどういうこと?
どっからどう見ても人間だっただろ。
からかうにしても冗談が下手すぎる。
もう少しまともな嘘をついたらどうだ?ん?
「あんたは「人間」をどういうふうに定義する?」
「…人間は人間やろ」
「ほんなら、人間じゃないものは?」
人間じゃないもの?
なんで急にクイズが始まってんだよ。
そんなこと言われてもわかんねーよ。
あれか?
まだなぞなぞか?
悪いけど、今はそんな気分じゃない。
「真面目な質問や」
「人間じゃないもの?うーん…、猫!」
「…」
なんだその目は。
失礼だろ。
真面目な質問って言うから答えたんだろ?
「人間じゃないもの」って猫じゃねーか。
まあ、他にも色々いるけど。
「あんたの頭の中どうなっとんねん」
「こうなってますが?」
「そりゃ猫は人間とちゃうやろ。そんなもんいちいち言葉にせんでもわかるわ」
「真面目に答えろ言うから答えたんやろ?」
「ごめん。私が悪かったわ。あんたに聞くんやなかった」
…なんか、ムカつくな。
逆になんて答えるんだよ。
お前だったら。
「色々あるやろが。サイボーグとか、宇宙人とか」
「何言うとんねん」
「あんたよりよっぽどマシな答えやろ?なんやねん猫って…」
すいません違いがよくわからないんですが、これは俺が悪いんでしょうか?
サイボーグ?
宇宙人?
猫と何がどう違うんだ?
「人間じゃないもの」だろ?
全部正解じゃねーか。
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