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トンネルの向こう
第323話
しおりを挟む研究所のエントランスを抜けて、中央フロアの横にある受付に、女は向かった。
「職員番号2862。地下フロアに用があると伝えて」
「おかえりなさい楓様。少々お待ちください」
…ん?
俺の聞き間違いか?
今、なんて言った?
なんか意味不明な言葉が聞こえた気が…
「どう、広いでしょ?」
「広いっていうか、デカすぎ。ってか今様付けされてなかった?」
「そうやけど?」
「知り合い?!」
「どう思う?」
受付の人は、ホテルのフロントスタッフみたいにキチッとしてる。
髪も、服も。
何人かいるけど、全員話しかけづらそう…
厳粛な匂いがプンプンした。
研究所ってこんなもん!?
なんかこう、思ってたのと違うな…
もっと“研究者!“みたいな感じの人が待ち構えてるのかと思った。
フォーマルスーツにネクタイって、式典かなんかでもやってんのか?
気味が悪いほど姿勢が正しいし、奇妙なほど静かだし。
周りを見渡すと、体育館が何個か入りそうなくらい広かった。
エスカレーターは3階まで繋がってる。
1階部分も2階部分もめちゃくちゃ高く、しきりがほとんどない。
天井の梁は傘の骨組みのように、アーチ状に張り巡らされてた。
外から見えてた建物の柱は、間近で見るとよりどっしりとしてて、重々しい。
ロビーの周りにはラウンドソファと、大理石の床。
木のアクセントが、所々にある。
外の光が差し込む大空間に、細部まで行き届いたきめ細やかなデザイン。
最近出来たのかな?
つい、そう思ってしまった。
それくらい綺麗な場所だったからだ。
何もかもが。
「おじさんは今アメリカにいるって?」
「うん」
「なんでそれを?」
「聞いたから」
「誰に?」
「誰でもええやろ」
おじさんとどういう関係なのか知らないが、ただの知り合いって感じじゃなさそうだった。
ここの人たちもそうだ。
どう考えても場違いな俺たちの顔を見て、平然としてる。
俺1人だけで来たら警備員を呼ばれるんじゃないか?
そんな雰囲気なのに…
「楓様、準備ができました」
「はいはい」
「こちら暗号化されたプロダクトキーです。使用期限は1時間となっていますので、ご注意ください」
「サンキュー」
サンキューってお前…
年下なんだから気を使えよ。
お姉さんに失礼だろ。
「どの口が言ってんの?」
「俺は普段から礼儀正しいけど?」
「…まあええわ。準備できたから行くで」
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