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トンネルの向こう
第322話
しおりを挟む研究所。
それがどんな所かを、記憶の片隅に追いかけていた。
ひょっとすると、あの場所かもしれない。
そう思う建物が、いくつかある。
でも、どれも違った。
記憶の中には無い場所だった。
“そこ”は。
「でっか…」
そのあまりの巨躯に、首をのけぞらせてしまう。
ビルじゃない。
かといって施設のようなものでもない。
そうだ。
思い出した。
テニスコートの向かい側にある森の向こうに、変わった建物があるなって思ったんだ。
子供の頃に感じた印象は、「校舎」。
木々の向こうにひょっこりと顔を出す四角いフォルムは、森の中にある学校って感じだった。
横一列に並んだ窓と、平べったい屋上が。
「ここが…研究所…」
思わず見上げたのは、間近で見るとかなり存在感があるなって思ったからだ。
高さ自体は10階までしかないが、想像してたよりも横に広い。
外観は正面がガラス張りになってて、3階部分まで吹き抜けの内装が、外からハッキリと見える。
丸太の何倍もある太い柱。
中央に設置されたエスカレーター。
建物の端にはエレベーターが昇降している。
ガラスで覆われた壁の中に、各フロアの鉄骨の梁が複雑に入り組んでいて、カプセル型の本体が、人を乗せて動いていた。
「入るで」
…入るって言っても、正面玄関は?
どこにドアがあるのかがぱっと見わからない。
建物の正面は、どこからでも入ってくださいと言わんばかりに開放的だ。
正面のガラス張りの窓は、一枚一枚がかなり大きい。
それが上から下までズラッと並んでて、外の光を全て吸い込んでいる。
そのせいで逆にわからなかった。
どこが「入口」なのかが。
正面に設置された巨大なキャノピーが、地面の上に影を落としている。
白を基調とした鉄骨が伸びやかに空中を散歩して、滑らかな曲線が、建物の外観を美しく仕上げていた。
戸惑ってる俺をよそに、女はスタスタと建物に近づいていく。
「ちょっと待てよ!」
慌てて歩いていくと、背の高いガラスに重なるように、人が出入りできる用の開閉口が見えた。
まるで、博物館の入り口みたいだな…
研究所のエントランスと呼ぶにはかなり大げさで、無駄に広かった。
高級ホテルでも、こんなにスペースは取らない。
ふと、ノエビアスタジアムの入口を思い出した。
あれくらいのスケール感を感じた。
流石にあそこまでは、って感じだけど。
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