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トンネルの向こう
第317話
しおりを挟むカンカンカンカン…
雲ひとつない空の下で、遮断機のバーが降りる。
赤いランプと、揺れる線路。
ジリジリと立ち上がるアスファルトの靄の中心を、電信柱の灰色が透けていく。
“もう一度あの世界に戻る”
女は俺にそう説明した後、トンネルの向こう側へと行こうと言った。
花火を見た翌日、丘の坂道を下って、橋の向こうにある『ある施設』を目指した。
「大学に…?」
「うん。あんたに見てもらいたい資料があってな」
資料?
一体なんのことだと聞くと、未来に関する研究資料が、神戸学院大学の研究室に保管されているそうだった。
でも確か、神戸学院大学って…
「千冬の父親が、確か」
直接会ったことが何度かある。
会ったってだけで話をしたことはない。
メガネをかけて、無精髭を生やしてた。
無口な印象で、千冬とは似ても似つかない見た目をしていた。
白衣を着たその姿は、見たまんまだ。
博士とか“教授”って感じの、インテリ具合が。
「おじさんは今、アメリカにおる」
「おじさんのこと知っとんのか?」
「当たり前や」
俺たちは自転車に乗って、ひたすら高松線を走った。
道路の補修工事が、筋向いの通りで行われている。
犬のマスコットキャラクターが目立つ、レンタカー屋。
駐車場の狭いすき家。
新湊川が横断する、1丁目の景色。
「じっとしといてくれん?」
「んー?」
「スマホいじんな。くすぐったいやろ」
そういえば、昔行ったことがあったな。
千冬のやつ、ああ見えてロマンティックなところがあるんだ。
大学にある展望台デッキに登って、星を見てた。
望遠鏡を覗き込み、木星だか金星だか、よくわからないことばかり。
「どうやって行くんや?」
「なにが?」
「…せやから」
千冬のいる世界に行く。
簡単にそう言うけど、方法は?
また電車に乗るのか?
また、ジャンプするとか言い出す?
目を瞑って、「せーの」で。
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