314 / 394
夏の花火
第312話
しおりを挟む「どういうことや、それ!?」
「あんたはずっと、この世界で起きたことを考え続けてきたと思う。あの日の出来事が無くなれば、どんなに良かったかって」
「そうやけど…!」
「でも、もしあの日の出来事が、“元々この世界に存在していなかった”としたら?」
…そんなこと言われても、わかんねー…
元々存在してなかった…?
事故に遭ってなかった…ってこと?
どういうことなんだ…?
「キーちゃんはあんたに会いに行こうとしとる。2人が結婚してた「未来」に、たどり着こうとして——」
「待て待て!」
「ん?」
「一旦話を戻してくれん?事故が無かったってどういうことや!?」
「そのままの意味やが」
「“そのまま”って意味わからんやろ…。もっとわかりやすく言え!」
全然追いつけない。
さも当たり前のように言うが、言ってることが全然わからない。
タイムマシン。
未来。
結婚。
一つ一つのワードが、頭の中で弾ける。
フライパンの上で出来上がるポップコーンみたいに、縦横無尽に飛び跳ねてやがる…
ずっと感じてきてたことだ。
昔から。
あの事故が無かったらって、いつも思ってた。
海を見ながら。
学校に行く、——道すがら。
なのに、「事故が無かった」って…
「説明せぇ」
「今説明しとるやんけ」
「…わかりにくいんや!色々と」
「それはあんたが馬鹿だからやろ?」
「お前の説明が下手くそやからや!」
「…はぁ。苦労するわほんと」
ため息つかれても困るんだけど?
俺からしたら、杖で空が飛べますって言われてるようなもんだ。
ドラゴンがこの世界に存在してるって言われて、お前は納得できるか?
サンタクロースが実在するって、トナカイが空を飛べるって、——言われたら?
「うーんってなる」
「やろ?今の俺の状況。それ」
「そんな難しく考えんでも…」
「考えるやろ!?言ってること相当ぶっ飛んでるって理解してる!?」
…どうやら、理解してないっぽい。
俺の方に原因があるみたいに、ため息をつきながら腕を組む。
将来、お前は絶対に指導者にはならない方がいいと思う。
授業中に呪文のような言葉を言い始めて、生徒を置き去りにする数Aの吉田。
あのタイプだなって思う。
聞く側に寄り添えっていっつも思うんだよね。
健太はそのせいで頭のネジが飛んで、ねりけし用の消しゴムで遊び始めるんだ。
ノートを取ってる俺の邪魔をしてきて、授業に集中できないこともしばしば…
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
真夏のサイレン
平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。
彼には「夢」があった。
真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。
飛行機雲の彼方に見た、青の群像。
空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。
彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。
水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。
未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?


切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる