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夏の花火
第311話
しおりを挟む「おかえり」
「…ただいま」
顔を洗ったけどダメだ。
一回冷静になろう。
…えっと、どこまで話してたっけ…
「あんたたちが未来で結婚しとったってところやな」
「う、うん…」
「せやけど、もうその「未来」はこない。——永遠に」
整理できずにいる中で、女は言う。
…永遠に?
でも、ちょっと待って…
そもそも、「結婚する」って言うのが…
「千冬って結婚したって、いつ?」
「せやから、“未来”」
「さっきの世界でってこと??」
「…いいや」
「ほんなら、どこで?」
わけわかんねー
さっきの世界じゃないって、じゃあどこだよ
「さっき言うたやん。“科学装置が発明される前”の世界やって」
「その科学装置ってなんやねん、…結局」
「『タイムマシン』みたいなもんや」
「タイムマシン!?」
「厳密には違うけどな?」
タイムマシンって、あの…?
仮にそれが発明されたとして、それが…?
「私たちは殺してしまった。これから生まれるはずだった、確かな「未来」を」
「“私たち”って…?」
「“人間”。この世界に生きる人たちのこと」
「…はぁ」
「永遠に生きることを望んでしまった私たちが、殺してしまった。“未来に生きるということ”、——その「時間」を」
“殺す”
ずいぶんと物騒な言葉を使う。
その口調は穏やかで、それでいて冷たかった。
少しだけ、怒っているような気もして…
「たった一度きりの夏が、まだ世界に残っていた時、あんたとキーちゃんは、確かな未来を約束してた。たった一つのボールが、あの海辺の上にあった。覚えとるやろ?2人でキャッチボールしてたこと」
「…そりゃ、まあ」
「せやけど、失われてしまった。もう2度と、あんたたちがすれ違うことは無くなった。この世界で、キーちゃんが事故に遭ったように」
…ちょっと待て
女の言葉を追いかける。
一体何を言ってんのか、すぐには理解できなかった。
だけど、こう聞こえたんだ。
まるで、千冬が事故に遭ったことが、“元々起きるはずのなかった出来事”だって。
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