雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夏の花火

第308話

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 「ここからはよく見えないかもしれんけど、確かにあるんや。あの向こうに」


 頭でもおかしくなったのか…?

 しかめっ面で、彼女のことを見る。

 彼女はただ笑ってた。

 さっきまで、そんな素振りさえなかったのに。


 「もし、キーちゃんを救う方法が1つしかないとしたら、あんたはどうする?」

 「千冬を…救う方法?」

 「そうや。たった1つ、——しかもそれが、100%やなかったとして」

 「…そんなもん決まっとるやろ」

 「…どんなことでもか?」

 「当たり前や!」

 「ほんなら、明日雨が降るとしても?」


 …雨が、降る…?


 それに対する言葉を、すぐには用意できなかった。

 躊躇があったわけじゃない。

 天気のことなんてどうでもいい。

 千冬が助かるなら、なんでも…


 戸惑ったのは、そういうことじゃなかった。

 女の言ってることが、いまいちよくわからなかったからだ。

 明日がどうなろうと知ったこっちゃないが、それでも…


 「あんたをあの世界に連れて行ったのには理由がある」

 「…理由?」

 「空にはたくさんの星がある。昔、感じたことはなかったか?銀河の向こうには、何があるのかって」


 女は時々、ハッとなることを言う。

 心の中を覗き込まれたみたいに、ドキッとすることが。


 「ある…けど」

 「キーちゃんが旅をしとったのは、宇宙の向こうにある世界や。果てのない世界。遥かな時間の向こう」

 「笑える」

 「そうかもな?でも、昔言っとったやろ?銀河の中を船に乗って、飛んでみたい。どこまでも続く世界を、旅してみたい」


 …そういえば、そんなことも言ってた。

 天体望遠鏡を覗き込み、空を見上げて——


 「世界には変えられない“事象”がある。どんなに宇宙が広くても、どんなに世界を旅しても」

 「例えば?」

 「キーちゃんが事故に遭ったのは、ずっと前から決まっとった」

 「ずっと、前…から…?」

 「たった一つの時間が、はるか昔に失われた。「夏」がもう来なくなった。いちばん暑かった、あの季節が」


 寂しそうにそう話す。

 心なしか、悲しんでるようにも見えた。

 小さなため息をつくように。

 そっと、肩を落とすように。
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