雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夏の花火

第304話

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 「キーちゃんは、未来を変えるために世界を旅した。遠い過去と、未来と、全てを繋ぎ直すために」


 世界を旅した…?

 …って?


 「さっきの世界で、あんたは何を見た?」

 「何を…って…」

 「キーちゃんがおったやろ?」

 「…ああ」

 「あの世界でまだ「夏」は来とらん」

 「はあ??」

 「せやから、甲子園を目指しとるあんたたちが、この街の上におった。あの場所、あの季節の向こうで、キーちゃんは追いかけとるんや。たった“1球”に触れられる瞬間を」


 神戸高のユニフォームを着て、グラウンドの上に立っていた。

 高校生になった彼女と、手入れの行き届いたグローブ。

 部屋の壁に貼られた、「目指せ甲子園」の文字。

 それにどんな想いが込められてるかを、知らないわけじゃない。


 「…たった、1球…?」

 「そうや。キーちゃんは夢見てた。一度きりの勝負の中に、まっすぐ向かっていける日を。隕石が落ちる前の世界にあった夏。——その場所に、たどり着こうとして」


 女の言ってることがわからない。

 千冬の夢なら、誰よりも知ってる。

 だけどそんなの聞かされたって、実感なんて持てない。

 千冬は海で溺れた。

 ずっと隣にいた彼女が、突然いなくなった。

 あの日に何があったのかを、今でも考えてる。

 千冬はいつも夢みがちだった。

 自分にできないことはないと、いつも信じてた。

 2アウトフルカウントからの1球に、ストレートのサインを要求し。


 女が言ってること、その“内容”を、うまく拾い集めることができない。

 俺に会いに行こうとしていたとか、未来を変えようとしていたとか…

 俺が知ってる「彼女」は、ずっと「過去」の中にいる。

 さっきの世界に行くまでは、どんな顔で笑っていたのかさえ、うまく思い出せなかった。

 一緒に海に行って、キャッチボールして。

 電車に乗って遠くまで行った。

 大阪湾の麓まで突っ走り、瀬戸内海の端まで。


 だから、…よくわからないんだ。

 千冬に会えるならどんなことだってする。

 世界を変えられるってんなら、甲子園でもなんでも目指してやるさ。

 …でも、そんなのあり得ないだろ?

 過去は変えられない。

 起こった出来事は、永遠に同じ場所にあるままだ。

 そんなのわかってるんだ。

 頭の中で考えなくても、“やり直せない”っていうことは。


 
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