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夏の花火
第301話
しおりを挟む…情報量が多すぎてついていけない。
一体何から突っ込めばいいのかもわからなくなった。
「未来」がなんなのかもよくわかってないのに、急にそんなこと言われても…
高台に着いたあと、展望台のデッキで、女の話に耳を傾けた。
山の裾野では、木々の揺れる音と、虫の声がする。
リーリーと夜の底をつくような深いざわめきが、森の斜面に沿って流れていた。
星が綺麗な夜だ。
月の明かりも、遠くに聞こえる電車の音も。
千冬が未来で亡くなったのは、ある意味「運命」に近いものだそうだった。
ずっと遠い昔から定められた、世界の“決め事”だったと。
「運命なんて言われてもわからんわ…。大体、「昔」ってなんやねん」
「何千年も前のことって感じ?」
「…意味わからんやろ。そんなん」
何千年って…
織田信長だって生まれてなくね?
ワンチャン聖徳太子も生まれてない可能性がある。
…え、合ってるよな?
「バカが移るからやめてくれん?」
「結構昔の人やろ」
「ちゃんと勉強してるん?」
「…してます」
「はいはい」
聖徳太子なんて、小学生の時以来習ってない。
俺の得意分野は理科とか数学だから。
日本史とか、将来の役に立たねーし。
「そういうこと言うやつが、いちばんバカなんやで?」
「そういうお前はどうなんや?」
「私?私は天才やけど」
「上から見ても下から見てもバカにしか見えんが」
彼女は怒った表情で俺を見る。
…話が脱線したが、ようは、そんな昔のことを言われてもって感じなんだけど。
昭和のことだってイマイチよくわかってないんだ。
明治と大正がどっちが先だったかも…
「この神戸の街も、昔は少し違ってた。この高台も無かったんや。無いって言うか、別の場所にあるっていうか」
「…違ってたって、なんで?」
「なんで?…うーん、そうやなぁ、何から話せばええやろ」
困った表情で、手すりにもたれかかる。
肘を柵の上に乗せて、天を仰ぎ見てた。
時折、腕を組みながら。
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