雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夏の花火

第300話

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 「現在と現在の間には「壁」が無いんや。ピッチャーとキャッチャーを結ぶ一本の線の中に、まだ、追いつけるスピードがある。キーちゃんは思い描いとった。新しい未来が、明日に続いてることを。誰よりも速いストレートが、あの夏の向こうに続いてることを」


 ボールを握りながら、それを俺に渡す。

 千冬が夢の中にいる。

 その意味を、時間を、しっかり考えろと言ってきた。

 千冬が、誰よりも速いストレートを投げようとしていたこと。

 「22世紀の世界」を、取り戻そうとしていたことを。


 「…え?」

 「気の遠くなるような話やけどな」

 「ちょっと待て…」

 「ん?」

 「22世紀…?なんだよそれ」


 わけがわからない。

 「22世紀」?

 確かにそう言ったよな?


 「うん」

 「22ってことは、…えーっと」

 「あと90年くらい先のことや」

 「…ああ、そっか。って、そこやない」

 「ん?」

 「千冬がなんて言った?」

 「22世紀の世界を取り戻す」

 「…?どういうことや…?」

 「隕石が落ちて、世界が崩壊した。隕石が落ちたのは?」

 「…2083年」

 「そう。つまり、や」


 つまり…?

 なんのことを言ってんのかよくわからない。

 「取り戻す」?

 取り戻すって何を?


 「未来が失われた。この言葉の意味が、“全て”や」

 「…待て待て。まだついていけとらんのやけど」

 「今どこまで理解しとん?」

 「まあ、それなりには」

 「嘘つけ!」


 だから、理解できるわけねーって言ってんだろ

 でも、前よりはな?

 けど、その“未来がなんちゃら”って話についてはパス。

 何回聞いてもよくわからんから。


 「その時になってみんとわからんかもしれんけど、遠かれ早かれ、世界は終わるんや」

 「…お、おう」

 「キーちゃんはその「未来」を変えたかった。隕石が落ちてくる「運命」そのものを、壊したかったんや」

 「…どうやって?」

 「想像できんかもしれんが、あんたにはわかるやろ?キーちゃんの「夢」が」


 千冬の夢…?

 そりゃもちろん知ってる。

 だけど、それとこれがどう関係あるっていうんだ?

 そもそも、お前が話してんのは「未来」だろ?

 なんで千冬が出てくるんだよ。


 「キーちゃんは未来で、あんたに会いに行こうとした」

 「は?」

 「あんたを探しとるんや。——ずっと」


 不意に出てきたその言葉に、固まる。

 
 探してる…?


 千冬が…、俺を…?


 「どういうことや」

 「キーちゃんはもう一度、あんたと甲子園に行こうとしとる。あの舞台にもう一度立って、「未来」を変えたいと願っとる。あんたが生まれるよりも、ずっと前から」

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