雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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丘の坂道

第294話

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 風が吹いていた。

 海の向こうから。

 前方から吹く強烈な風に砂が巻き上げられ、キラキラと煌めく沿岸の水面を掬い上げるように、指先と放たれたボールとぶつかる。

 スローモーションに千切れていく世界。

 干上がるような気温。

 砂浜には鯨の死骸が上がっていた。

 海岸線沿いに敷き並べられたように整列し、水平線と向かい合うように目を見開いている。

 その巨躯は海に流されたばかりのように艶がかかり、それでいてどこか、色褪せた肌の色をしていた。

 波はゆったりとしていた。

 けれど重く、深い渦が、透き通った青をかき混ぜるようにひしめいていた。

 海辺に咲くヒルガオが、遊歩道の柵の下に顔を出す。

 淡い桃色が風に靡かれて、コンクリートに染み付いた磯の匂いが、朗らかな潮の満ち引きの中に漂い。


 約束していたはずの夏が、もう来ない。

 彼女の笑っている顔が、滲んだインクのようにぼやける。

 そんな果てのない不安定な雲行きが、いつも空にかかってた。

 振りかぶった彼女のピッチングフォームに、目を奪われた先で。



 …千冬


 …もう、そこにはいないのか?


 信じたくないんだ。


 頭の中ではわかってても、お前の意識が、もう、どこにも無いこと。


 こうして近くにいても、お前がどこか別の場所にいるかもしれないって、思ってしまう。


 さっきまで隣にいたよな?


 あれは嘘なんかじゃないよな?


 たとえ別の世界の出来事だとしても、お前が確かにいた。


 眠たそうにあくびして、他愛もなく微笑んで、当たり前のように自転車を漕いでた。


 わかるんだ。


 「お前」だってことが。


 見た目も、雰囲気も、ここにいるお前とはまるで別人だった。


 だけど一緒だったんだ。


 嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、夢の向こうにいるお前の顔が、なぜか見えた気がした。


 ああ、こんな顔してたんだ…って、心のどこかで…



 ……………………

 …………

 ……


 俺たちは病院を出た後、街中を歩いた。

 商店街を抜け、狭い路地を歩きながら、未来のことについてを話した。

 遠い世界のこと、隕石が落ちた日、——とにかく、いろいろなことを。

 俺たちが昔よく行ったという場所に寄って帰ろうと、女は言った。

 星がよく見える場所。

 煌びやかな神戸港の景色と、ネオンを一望できる高台に。
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