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丘の坂道
第286話
しおりを挟む「——甲子園」
「…は?」
「さっきまでおった世界は、“はじまりの世界”や」
「はじまりの…なんて?」
「いや、まあ、それに“類似”しとるって言うべきかも。あの世界で私たちは、まだ出会ってすらいなかった」
「私たち」っていうのは、“俺とお前が”、ってことか?
さっきの世界で、女は知らない制服を着てた。
髪は長くて、見た目が全然違ってて。
なんとなくそうだと気づくまでは、まさかお前だとは思わなかった。
挙げ句、“初めて会った場所”とか言い始めるし…
あれ、どういう意味だよ
絶対場所間違えてるよな?
場所っつーか、なんつーか
「私たちは昔、同じチームに所属してた。須磨ドルフィンズ。あんたもよぉ知っとるやろ?」
…待て待て
どういうことだ
“ドルフィンズに所属してた”…?
お前が?
「ちゃんとレギュラーやったで?」
「ドルフィンズで?」
「うん」
…なにかの間違いだろ
そんな記憶ないぞ。
あの時のメンバーは今も覚えてる。
同じ中学になった奴もいたし、県外に引っ越した奴もいた。
なにより、チームに女子は1人だけだった。
…うん
間違いない
「あんたが知るわけないやろ」
「なんで??」
「今までの私の話聞いとった?」
「聞いとるけど」
「せやったらなんとなくわかるやろ。それが“違う世界のこと”やって」
そんな当たり前のように言われても困るんだが。
所属してた…って、じゃあなんだ?
あれか?
俺たちは幼なじみだったってのか?
違う世界で。
「そういうことになるな」
「…すまん。全く想像できん」
「まあ、そうやろな」
「いつから?ドルフィンズにおったの」
ずっと昔から。
女はそう言う。
その「昔」がいつのことを指してんのかはわからない。
ただ、数秒考えたあと、そう言った。
具体的なことは言わなかった。
教えてくれなかったっていうか、思い出せてないというか。
ボケ老人じゃねーんだからシャキッとしろよ。
昔って言ったってそんな経ってないだろ。
最近っちゃ最近だ。
昔といえば昔だが…
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