雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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丘の坂道

第271話

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 周りを見渡した。

 車内には色んな人たちがいた。

 ドアの前でダベってる男子中学生。

 カバンを抱えながら居眠りこいてる中年オヤジ。

 乳母車を押す、90歳くらいのおばあちゃん。


 なんで電車に乗ってんだよ。

 そもそも…


 千冬の姿は見当たらない。

 だけど、この場所がどこなのかは知ってる。

 西宮を通り過ぎた先の、「甲子園駅」。

 阪神線と言えば、終着点はあそこだ。

 こうして電車に乗って、よく行ってた。

 たまに自転車で向かうこともあったが、さすがに遠いから電車を使ってた。

 帰りはマックに寄ってたっけ。

 千冬のやつ、てりやきばっか食ってたなぁ

 昨日の朝はマフィンだったから、マックフルーリーをちびちび食ってた。

 今でもてりやき一択なんだろうか?

 ふとそう思いながら、深江駅のホームに電車が止まる。

 次は芦屋だ。

 あと3駅ぐらいで西宮に着く。

 多分15分くらい?

 甲子園駅に着くのは。


 「ここは…?」


 女は俺の目を見た。

 須磨高の制服を着て、ショルダーバックを担いだまま。


 「シャキッとせぇ」

 「…お、おう」


 そんなこと言われても、頭の中がボーッとする。

 はっきりしないんだ。

 感覚があるような、ないような。

 そんな曖昧な手触りが、頭の隅にチラつく。

 一体どこなんだよ、…ここ

 電車の中なのはわかってるが、なんで…?


 「ここは、元の世界や」


 …元の…世界…?

 って??


 「よう思い出しぃ」

 「…思い…出す?」

 「あんたを連れて行くって言うたやろ。キーちゃんのおる場所に」


 千冬のいる…場所?

 何言ってんだ?

 いるもなにも、さっきまで…


 思い出せそうで、思い出せない。

 何か大切なことを忘れてる気がする。

 それがなんなのかはわからなかった。


 …なんだ?

 この違和感…


 胸の動悸が収まらない。

 背中には、ゾクゾクするような寒気が走る。


 …なんだ…これ…


 こんなの初めてだ。

 別に気持ち悪いとか、そんなんじゃない。

 ただなんていうか、スッキリしない何かがあった。


 電池が切れて、時計が止まった時のような…

 洗濯物を、しまい忘れてしまった時のような…
 

 
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