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丘の坂道
第270話
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ガタンゴトン
ガタンゴトン
…電車の音?
…それと、アイツが…?
一体いつから電車に乗ってたんだろう…
長い間目を閉じていた気がする。
…夢?
いや違う。
確かに俺は今、街の中にいた。
交差点を渡ろうとして、…その先で…
「大丈夫か?」
「…あ?」
大丈夫…か?
車内の蛍光灯の明かりが眩しくて、目を擦る。
眠たいわけでもないのに、意識がはっきりしない。
…なんだ?
この感覚。
頭の中がボーッとする。
平衡感覚がなくて、思うように立てない。
何がどうなってんだ?
…大体、俺は今——
「次は深江です。深江です。お降りの方は、右側に立ってお待ちください」
深江??
深江って、あの深江か??
なんでそんなところに…?
つーか、…なんで夕方に…?
日はかなり傾いてた。
阪神線沿いの街並み。
防波堤前の船着き場。
マクドナルドの看板が見えた。
ガソリンスタンドにスーパー。
地元で有名な回転寿司屋のチェーン店。
車窓から街を覗く。
…ほんとに深江だな
あんまり通らないからすぐにはわからなかった。
けど、埠頭に立つ工業区の煙突が、港の明かりのそばで白い息を吐いているのを見て、ここが西宮の近くだというのがわかった。
巨大なガントリークレーンの列。
船の上のカラフルなコンテナ。
鉄の匂いがする。
窓が開いてるわけじゃないが、なんとなくそう感じた。
三ノ宮からもう何駅も離れた場所にいるせいか、街の景観が少しだけ暗い。
ポツポツと明かりが灯ってる。
赤レンガのマンションに、背の高い大通り沿いのフェンス。
本庄中のグラウンドが見えて、黒色の上着とストライプのズボンが動いてた。
野球部だ。
練習試合で昔戦ったことがある。
ぶっちゃけ、そんなに強くない。
けどまあ、部員もそこそこいて、県大会で優勝したこともあったんだっけ?
俺らの代はそんな感じじゃなかった。
優勝したのも、だいぶ前の世代だ。
眩しい照明の下に照らされる鮮やかな芝生の上で、かけ声を上げながら走り回ってる。
トスバッティングをしたり、ノックを受けたり。
グラウンドの横には錆びついた郵便ポストと、広い駐車場。
石垣の前に自転車がずらっと並んでた。
グラウンドの裏には市民プールがあって、ちょっとした広間も。
市内に比べると、ここら辺はかなり田舎だ。
遊ぶところなんて何もない。
駅も寂しいし、周りは古臭い店ばっかだ。
昔来た時は、ろくに涼める場所もなくて困ってた。
歩けど歩けど住宅地で、スーパーとかコンビニとかしかなくて。
須磨の方がまだ色々ある。
つっても、あんま変わんないか。
釣り場とか水族館は近くにあるけど、水族館とかガラじゃないしな。
商店街も名ばかりで、何もない。
まあ、板宿の方に行けば、わりかし賑やかだが。
時計を見ると、18時を回ってた。
…嘘だろ?
18時…?
これから学校に向かうところだったんだぞ??
「学校」っつっても、須磨高じゃないが…
…そうだ
千冬は…?
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