271 / 394
夢が覚めないうちに
第269話
しおりを挟む————————————ゴッ…!
外に放出される力が、地上のもっとも低いところで弾ける。
“爆風”が、全ての空間を包み込む。
粉々に砕けた地面と、空中の境目。
そこに一筋の光が見えた。
それは雷鳴のように明るく、そして、——疾かった。
目では捉えきれないほどの速度が、地上と空の境界に駆け走る。
時間の流れそのものが変わる。
そんな急激なエネルギーの膨張が、光さえも取り込みながら膨れ上がった。
——どこまでも、急速に。
ドーーーーーーーーーーォォォォォォ……
瓦解していく音。
千切れていく世界。
爆風が皮膚の表面を焼く。
声を上げる間もなかった。
痛みもなかった。
…ただ、体の芯が爛れるような熱さを感じて、息もつけない息苦しさが、肺の中に入り込んできた。
熱い…!
苦しい…!
その意識はずっと深いところに沈み込みながら、それでも、目前の爆発を捉え続けられるほどには、はっきりとした質感を残していた。
指先の感覚はもう無い。
毛髪の一本も残らないような“熱”が、神経の壁を越えてやってくる。
巨大な隕石は、世界の中心で煌めいていた。
1秒にも満たない一瞬への内側に、その立体的な衝撃波を広げていた。
そして——
落下した隕石の中心から、一気に力が伝っていく。
その方向は無差別だった。
あらゆる方向に進みながら、全てを薙ぎ払う。
爆風に押し出され、もう、身動きは取れなかった。
手足の感覚が無くなる。
喉が焼け爛れたように、声が出ない。
息が続くか続かないかの間際だった。
視界の全部が、——暗闇に包まれたのは……
………………………………………
…………………………
………………
………
…一体なんだ…?
…何が起こった?
落下してくる隕石も、崩れ落ちた街と、……地面も。
…千冬
…なあ………千冬……
……そこにいるんだろ?
……この世界の、この地上のどこかに、まだ……
…………
……
…わからない
…何が起こってるのか
…なにが、起きたのか…
遠い意識の向こうで、金属の擦れる音がする。
気がつくとそこは電車の中だった。
JR阪神線の上りと、須磨高の制服。
吊り革に手をかけながら、窓の外では流れていく海の景色が見えた。
揺れる電車と、午後の夕日。
そのそばで、女は俺の手を握ってた。
耳の奥に触れる優しい声が、——聞こえて
「目が覚めた?」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
真夏のサイレン
平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。
彼には「夢」があった。
真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。
飛行機雲の彼方に見た、青の群像。
空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。
彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。
水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。
未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?


切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる