雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

文字の大きさ
上 下
266 / 394
夢が覚めないうちに

第264話

しおりを挟む


 足が動かない。

 逃げなきゃいけない…!

 …でも、どこに…?



 地面はあちこちが窪み、立っているのもやっとなくらいの揺れが、収まる気配さえない。

 波の飛沫が霧のように飛んでいる。

 うなり声を上げる地響きが、渦のように逆巻いている。

 どこにも逃げ場はなかった。


 大通りも、路地裏も、橋の向こうも。


 道路の標識は、すでにその面影すら無くなっていた。

 信号機はもう何色かもわからず、コカコーラの自動販売機は、跡形もなく街から消えた。

 散開する破片がスローモーションの画面のようにふっと落ちて、撥ねる。

 空気を伝って、視界全部が倒れていくような気配が、雨足のように近づいてきた。



 サァァァァァ



 ——風?

 いや、違う。

 風じゃない。

 風はもう吹いていない。

 …だとしたら、なんだ?

 


 ポタポタと何かが降ってくる感触がして、ほっぺたを拭う。

 水…?


 …一体、どこから?



 晴れ上がっていた空から、冷たい水滴が落ちてくる。

 ゴロゴロと唸る雨雲が広がり、空全体が曇り始めていた。

 “空そのもの”は回転していない。

 止まったままだ。

 それがわかったのは、綺麗な一本の尾を引くひこうき雲が、まだ、神戸市内の上空に停止していたからだ。

 雲の尾は飛行機のエンジン口から噴き出るように線を引きながら、止まっていた。

 まるで、世界の中心に、線を引いたかのように。



 ——雨?


 回転していないはずの空から、ポツポツと雨が降り始める。

 今日は雨の予報なんてなかった。

 さっきまで、伸び上がるような青が広がっていた。

 どす黒い雲が空の向こうに、……見えて



 一体、いつから…?



 まばらに散らばった灰色の綿雲が、いつの間にか、上空の至るところに浮かんでいた。

 低いところ、高いところ、そのあちこちに飛翔し、上昇気流を掴んでいる。

 日の光がその雲の切れ間に透けて見えて、ほんのりと青白い。

 落下してくる星は、その輪郭をさらに大きくしていた。



 何万メートルもの高度に聳える頭上、——そのずっと、向こうから。


 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...