雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夢が覚めないうちに

第262話

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 ——星…?


 いや、あれはなんだ?

 なんで、空に、月が2つも…?


 混乱する頭の中で、異様な光景が飛び込んできた。

 空に浮かんでいる2つの星。

 月と、——もう1つ。


 雲と雲の切れ間の向こうに、それはあった。

 白い表面に、丸み帯びた形。

 月よりも少し大きな、輪郭。

 巨大な質量。
 
 

 なんでそんなものが空にあるのか、さっぱりわからなかった。

 “それ”は雲を払うように、青天のど真ん中にいた。

 成長する積乱雲の峰の向こう。

 ——限りない、空の向こうに。



 「あれは、世界の“先端”や」



 地面に膝をつく俺のそばで、女はそう言った。

 彼女は、平然とその場に立っている。

 まるで、地面の揺れを意に介していないようだった。

 他の街の人たちと同じように、揺れの影響を感じていないかのような…



 ——先端?

 一体、…何言って



 「かつて、世界は1つだけやった」

 「1つ…だけ?」

 「あれは空の向こうからやってきた。“時間”の外側から」



 そのうちに耳をつん裂くような金属音が聞こえて、街の一部が消失し始めた。

 ビルの一部が崩れ始めたんだ。

 ビルだけじゃない。

 信号機も、電柱も、バス停のベンチも、——人も車も。


 まるで砂粒が風に飛ばされるかのように、少しずつその形を失い始めた。

 ちょうど、砂場で作った城が雨風に打たれて壊れていくように、実体が、線が、消えていく——。

 波が粒子へ、線が点へ。

 そこに重力はすでになかった。

 少なくともそう見えたのは、崩れていくあらゆる物質の表層が、跡形もなく宙に飛び去っていこうとしていたからだ。

 さらさらと空中に飛散するミクロの粒子。

 散り散りに解けていく街の風景。

 氷が水に変わる時のように、じんわりと、それでいて急速に、その変化は進んでいった。

 蝋燭の芯が、少しずつ失われていく時のような。


 「嘘…やろ!?」


 呆気に取られたんだ。

 街が消えていってる。

 高層ビルの上階は、すでにその形を持っていない。

 街路樹の葉は枝ごと切り離され、建造物のほとんどは、バラバラに朽ちていこうとしていた。


 こんなの、…バカげてる…


 世界が止まった。

 それでさえまだ、現実の中の出来事には思えない。

 なのになんだ?

 …なんで、崩れていってるんだ?

 ガラスもコンクリートも、レンガも草も、ガードレールも。

 ショッピングモールとビルを繋ぐ遊歩道が、人を乗せたまま分解していく。

 電話ボックスの扉は剥がれ、電柱は倒れることもなく、根本から綻んでいく。

 煙が立つかのように空気の中に融けていき、掠れていく道路の標識。


 ——物質“そのもの”が蒸発していた。


 透明の炎のような揺らめきが、ユラユラと立ちのぼりながら。
 
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