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夢が覚めないうちに
第260話
しおりを挟む重力の傾いていく方向が、空間の歪みの中に加速していく。
爆発音にも似た鼓動が、地表の外側へと飛び出してくる。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
ちょうど突風が吹いたかのような烈しさが、視界を攫うように通り過ぎていった。
音が、後から聞こえてくる。
——その時間差の、背後に。
ドッ
ノートの下敷きを曲げる。
あの柔らかい曲線が、街全体を覆うかのように空間の底を突いた。
ガラスがあり得ない方向に曲がっていた。
コンクリートがこんにゃくのように柔らかくなっていた。
そんな異質な感触が視点の中央に横切りながら、“刹那”が爆発する。
体全体を揺さぶる何かが、通り過ぎて——
空間の一切が、切れ間もなく千切れていく。
線と線が、交錯する箇所もなく、圧し潰されていく。
すごい勢いで街が持ち上がりながら、世界が動いた。
その“体表”は、全ての輪郭を揺らしていた。
目の前、——あらゆる物体を、押し退け。
……
………
……………
ジジジ
霞むほどに遠くの景色から、一瞬、蝉の声が聞こえた気がした。
だけど、それが気のせいかどうかすらわからなかった。
凄まじい速度で展開する街の変化の一端で、何かが弾けていくような気配がしたからだ。
…何かが、弾けて…?
——いや、加速する何かが、そばにある。
時間?
揺れ?
…いや、そうじゃない。
街の景色の一端から、それは近づいてくる。
見渡す限りのビル群。
その、細長い鉄筋の向こう——
「な、なんや!?」
信号機の、——色。
“青が停止している”
直感として、どうしてそう思ってしまったのかはわからない。
空も、街の匂いも、巨大な波の中に揺れるうねりとなって、視界の全部を動かしていた。
下から突き上げてくるような強い力は、地平線を呑み込むくらいに大きかった。
視点がグラついて定まらない。
足元が覚束ない。
——それにも関わらず、停止した信号の色が、意識の真ん中に。
全てが倒れそうなほど、巨大な力が及んでいた。
雷が落ちた時のような衝撃が、地面全体に伝播していた。
だけど、“停止している”。
それは、さっきよりもずっと、近いところにある感覚だった。
世界が止まったと認識したあの時、まだ、「時間」はそこにあったんだ。
空から落ちてくる光の加減も、風の「形」でさえ、まだ、その気配を保っていた。
それなのに…
水の形が崩れていく。
水の表面にある膜が破けて、飛散する。
雨粒が地面に触れる時、強烈な破裂音が世界に響く。
その反響音が、空間の外側へと逸れていこうとしていた。
まるで、シャボン玉が消える時のような繊細さが、安定しない視界のそばにぶつかろうとする間際だった。
目に留まった青色の最中に、捉えようもない「一瞬」を感じたのは。
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