雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夢が覚めないうちに

第254話

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 サラサラと靡く髪。

 粟立つアスファルトの靄。

 日の光は街の表面を照らしていた。

 影はさっきよりもずっと濃くなり、コントラストが強くなる。


 少女の左右には、片側4車線を埋め尽くす車が所狭しと並んでいた。

 真向かいのビルの骨格は、細かい線を幾重にも重ねながら、確かな重厚感を備えていた。

 僅かな変化の機微も逃さずに、翼を広げている鳥。

 淀んだ空気は一切ない。

 それどころか、詰まったような息苦しさが、時間が経つごとに増していき。


 …いや、だけど…


 「時間」…?

 そこに時間はない。

 その“流れ”、奥行き。

 全てが硬直して立ち止まったままのなのに、少女は平然とその平面上を歩く。

 交差点と、横断歩道。

 車と人の行き交う立体的な境界線上、——その境目を、通り抜けるように。


 彼女だけが、世界で動いていた。

 その形容は、意識の外側からやってきた。

 外側…

 意識のずっと、——深く。


 無意識のうちに膨らんでいく「熱流」があった。

 その熱は、砂浜にゆっくりと溶ける波のように、散り散りになりながら沈んでいく。

 それは少し、街の喧騒に似ているものでもあった。

 蝉の鳴き声に透けていく街角の影と、日に焼けるコンクリートの肌。

 ジリジリと焼けつくような熱気が、地面の底から上がってくる。

 悠然とした少女の佇まいは、街の表面を焦がすように冴えていた。

 弾むスニーカーの音は力強く、それでいて鋭い。


 こっちに来る…?

 近づいてきてる。

 …誰だ?

 ロングの黒髪は、凛々しい雰囲気と相まって、圧倒的な存在感を放っていた。

 端正な見た目が、スタスタと歩く軽やかな足取りの側から感じ取れる。
 
 ある意味、異様な光景だった。

 全ての景色や時間を置き去りにして、彼女だけが、世界で動いている。

 それはまるで写真の中の被写体が、二次元の境界を越えて動き出しかのようだ。

 何もかもが、“遅れていく”ように感じた。

 それは、遠ざかっているようでもあった。

 彼女を取り囲む全ての景色や、街の風景が。
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