雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

文字の大きさ
上 下
255 / 394
夢が覚めないうちに

第253話

しおりを挟む

 見慣れないセーラー服。

 肩の下まで伸びた髪。

 1人の女子高生が、信号機の上に“座っている”。

 足を組み、俺を見下ろすようにその子はいた。

 まるで、目の前の全ての出来事を傍観しているように。


 最初、俺の見間違いかと思った。

 信号機だぞ…?

 何度目を擦っても、ランプのカバーの上に座っていた。

 どうやって登った?

 梯子なんてついてないはずだ。

 大体…


 うまく言葉も出なかった。

 だってそんなところに、人がいるなんて思わないし

 
 空いた口が塞がらなかった。

 視線は硬直したままだった。

 瞬きもできないまま。


 音は、どこまでも深く鳴り止んでいた。

 風の吹く方向はもう見えない。

 動きのない“時間”だけが、どこまでも緩やかに続いていた。

 …いいや、もしかすると、それは水の流れのような滑らかさを持っていたかもしれない。

 “誰かがいる”と認識する間際、その一瞬の切れ端に届いた僅かな光の“揺れ”が、まだ、視界の半分も覆っていなかったから。


 ダッ


 呆気に取られていると、少女は空中に身を投げ出した。

 信号機の上から飛び降りたんだ。

 地面までは、結構な高さがあるにもかかわらず。


 タンッ…!


 スカートが靡く。

 髪が逆立つ。

 加速する重力に引っ張られ、交差点の真ん中にダイブする。

 アスファルトの表面にスニーカーがぶつかり、軽やかな音が響く。

 躊躇はなかった。

 それくらい、身軽だった。

 地面についた膝を持ち上げ、ムクッと立ち上がる。

 凛とした佇まいが、停留する時間の岸辺にあった。

 中央幹線の、ど真ん中に。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真夏のサイレン

平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。 彼には「夢」があった。 真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。 飛行機雲の彼方に見た、青の群像。 空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。 彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。 水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。 未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い

御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

処理中です...