雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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夢が覚めないうちに

第248話

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 ミーンミンミンミン


 ジーーーーーー




 無性に走りたくなる自分がいた。

 自分で言っててなんだが、気持ち悪いくらいだ。

 だって、急に走りたくなるやつなんている?

 ただでさえ暑い日が続いて疲れてんのに、何が嬉しくて走らなくちゃいけないんだ?

 街中の交差点の前で、自転車を止めた。

 信号は赤だ。

 行き交う人と車。

 ——バス。


 千冬は振り向く素振りもなかった。

 まあ、今振り向かれても、変な顔しかできないけど。

 昨日もそうだったが、視線が覚束ないんだ。

 緊張するってのもそうだし、どこを見ればいいかわかんないというか。

 彼女の横顔を見てると、声をかけてきた。

 「何見とんや?」

 って。

 聞きたいことがたくさんある。

 どんな言葉を使っていいのか、わからないくらい。

 考えても追いつかないことが山ほどあって、何をすればいいのかもわかんなくて。

 何を伝えりゃいい?

 どうすりゃ、この気持ちが伝わる?

 一緒に夢を追いかけてきたよな?

 俺たち。

 お互いまだガキだったけど、いつだって夢を見てた。

 俺はお前みたいになりたくて、おかんを誘って、よくバッティングセンターに行ってたんだ。

 1日でも早く追いつきたかったから、「120km」のコーナーで、ひたすらストレートを捕る練習をしてた。

 自分でも嫌になるくらい下手くそだった。

 どうやったら綺麗に捕れるんだ?って、そればかりだった。


 お前のことを“かっこいい”と思えたのは、きっと偶然なんかじゃなかったんだ。

 お前に出会う前の俺は、いつだって俯いてた。

 学校に行きたくなくて、家の外に出るのも嫌だった。

 空はいつも曇ってた。

 どこまでも灰色で、雨が降る予感しかしなくて。


 「なあ、千冬」

 「なんや?」

 「お前の夢は?」


 返ってくる言葉は、一つしかないと思った。

 いつだって遠くを見てたお前が、目指してたもの。

 それを今さら、確かめる必要はなかった。

 そうじゃないんだ。

 本当は。

 知りたいことは、その「答え」じゃない。

 ましてや、何かを“知りたい”わけじゃない。

 どうしようもないくらいに浮き足立つ自分がいても、お前の見てる景色は、いつも変わらなかった。

 だから俺は昨日、あの場所に行ったんだ。

 明石海峡大橋が見える海岸線と、——海。

 あのほとりで、どんなに時間が経っても色褪せることがない世界を、——あの夏を、見つけたかったから。
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