雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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あの夏

第244話

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 ドンッ…!


 乾いた音が、辺り一面に響いた。

 それと同時に、勢いよく踏み込んだ左足が、止まらない時間の中で地面を揺らす。

 影。

 砂埃。

 めくれたシャツ。


 着地と同時に蹴り上げられた土が、空中に飛ぶ。

 体ごと前に迫り出したテイクバックは、背筋の伸びた上体を残したまま、肩甲骨を持ち上げていた。

 大きな弧が、回転する左半身の外側から訪れる。

 空間にぶつかる音と、空気を切り裂く音。

 空気抵抗が膨らみながら、全体重の乗った並進運動が、時間の内側へと収縮していた。

 その“壁”をぶち破るかのように、指とボールの境界線上はギリギリの接点だけを保っていた。

 着地した左足のスピードに乗っかり、体の中心から内側へと回転する右腕が最短距離を走って、そのまま、——前方へと。


 プレートの端に残ったつま先。
 
 指の皮膜に押さえつけられる球面。

 放たれたボールは、まっすぐグローブへと伸びてきた。

 空気を押しのける。

 重力を無視しながら、回転する。

 音はまだ、耳の中にたどり着いてはいなかった。

 地面スレスレを走ってくる直線上の軌道はボールの影を追い越し、時間と時間の“間”を押しのけていく。

 強烈なバックスピン。

 焦げ付くような回転量。

 膨張するスピードは、伸び上がる軌道の中にあった。

 ブレーキをかける間合いも、——距離も、なく。
 



 バシィッ…!




 あの頃と変わらない、力のこもった球。

 受けた左手は痺れてた。

 綺麗なスピンがかかった球に、少し反応が遅れて。



 「これで満足か?」


 投げ終えた後、さっさと帰るぞと彼女は言う。

 めくれたシャツを戻し、乱れた前髪を持ち上げながら。

 俺はすぐには立ち上がれなかった。

 なんというか、…その…


 衝撃的だったんだ。


 何もかもちっぽけに思えてしまうほど、あり得ないことが起こってた。

 記憶が蘇っただけじゃない。

 ずっと確かなこと、——忘れちゃいけないことが、そばにある。

 それをどんな言葉で表現していいかも、分からなくて…
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