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あの夏
第235話
しおりを挟むジーワジーワジーワ
ジジジジ…
小学生の頃、俺はあんまり学校に行ってなかった。
クラスのみんなと馴染めなくて、友達もろくにいなかった。
俺くらいじゃないか?
学校に向かうバスの中で、1人だけポツンと後ろに座ってたのは。
理由はいくつかある。
いちいち、口に出すのもめんどくさいくらい。
ただあの頃は、俺なりに色々考えてたんだ。
家族のこととか、自分のこととか。
ま、今じゃいい思い出だが。
小さい時に父さんが亡くなって、おかんはずっと、仕事漬けの日々を送ってた。
少しでもおかんのそばにいたいと思って、家の手伝いをしてた。
皿洗いに洗濯物、あと風呂掃除。
まだ小さかった夏樹の面倒も見てた。
アイツ、幼稚園でちょっとした問題児だったんだよな…
泣き虫というか寂しがり屋というか、連れて行った途端にすぐ泣いてた。
そのせいでよく園内の先生を困らせてた。
毎日のように電話がかかってきて、大変だったんだよ。
熱が出ましたとか「お母さんに会いたい」とか、俺が迎えに行っても、全然泣き止んでくれなくてさ。
とにかく大変だった。
あの当時は。
でも、俺なりに頑張んなきゃって思ってた。
自分でもよくわかんねー
なんでそんなふうに考えてたのか。
…ただ、なんとかしなきゃいけないとは思ってたんだ。
あの日から。
——父さんの葬式の日、普段は絶対に泣かないおかんが、泣いてたのを見て。
俺はいつも、家でゲームばかりしてた。
おかんはそれでいいって言うし、時々街の図書館に連れられながら、一緒に勉強したりしてた。
することがない時は、おかんの仕事の手伝いをしたり。
オイルまみれのタオルに、子供の手には余るレンチ。
バイクが好きなおかんに色々教えられ、大人になったら、俺用のバイクを買ってくれるって約束してくれた。
その約束は今も続いてる…と思う。
あの当時、学校に行きたくないとせがむ俺に、おかんは優しく向き合ってくれたんだ。
焦らなくていいって、一度も怒ることなく。
些細なことだった。
きっと。
俺が学校に行けなくなったのは、別に大したことなんかじゃなかった。
机に落書きをされたとか、喧嘩で負けたとか、誰かに悪口を言われたとか、全部。
子供の頃の俺は、何をするにも自信がなかった。
1人でおつかいにだって行けなかったし、自転車も漕げなかった。
とにかくいくじなしで、泣き虫で、そのくせ、おかんに甘えてばかりで。
学校なんかに行かなくても、おかんのそばにいれたらいいと思ってた。
勉強も、わざわざ学校に行かなくたってできる。
困ることなんてないよな?
自然とそう思うようになって、気がついたら、学校に行かなくなってた。
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