雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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あの夏

第234話

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 ◇◇◇



 「ほんなら、また明日ね」


 神戸高校の近くまで自転車で帰って、一ノ瀬さんと別れた。

 結局収穫はなかった。

 大ちゃんの家に遊びに行こうかと思ったけど、急にお邪魔するのもなぁと思ってやめた。

 連絡を取ってないんだ。

 知り合っていない可能性だってある。

 そりゃそんなこと理屈じゃ考えられないが、昨日も今日も、信じられないことをいくつも目にした。

 だからあり得なくもないなって、なんとなくさ?


 同じ場所のはずなのに、何かが違う。

 須磨高に行って、とくにそれを感じた。

 ソフト部用のバットやボールが置かれたままの部室。

 みんなと作った「部員募集!」のポスターが、どこにも貼られていない廊下。

 佐藤先生は俺のことを知らなかった。

 さっき駐車場で会ったんだ。

 ブロックの上に座ってたら。

 会釈して、車に乗ろうとする先生に声をかけた。

 久しぶりですって言ったんだ。

 そしたら…


 クラスのみんなはどこに行ったんだろうか。

 大体の部活を覗いてみたが、誰もいなかった。

 絶対ツバサはテニス部にいると思って、もう一度見に行ってみた。

 でもやっぱ、見当たんなかった。

 祐輔はサッカー部に入りたいって前に言ってた。

 だから、サッカー部の様子もずっと見てた。

 健太や岡っちはよくわかんねぇ。

 大ちゃんは、野球部を立ち上げようって話をする前は、とくに何かをやりたいって感じじゃなかった。

 高1なのに将来のことを考えてて、大学に進学するために、いつもまじめに授業を受けてた。

 俺がちょっかい出さなけりゃ、きっと今頃、勉強漬けの日々を送ってたんじゃないか?

 今もちょっとした時間に、1人だけ教科書広げて勉強してるもん。

 成績は優秀だし、週2で塾に通ってるし。

 
 なんでこんなことになってんだろ…

 バス停のベンチに腰掛けて、しばらく休憩してた。

 先週、すぐそこのラウンドワンのゲーセンにみんなと行った。

 岡っちのやつ、毎度毎度太鼓の達人がうますぎるんだよな。

 UFOキャッチャーもめちゃくちゃうまいし、まじでびびった。

 あの日も確か、この付近を色々歩き回ったっけ。

 急にタコベルに行こうとか祐輔が言い出して、チーズ入りのナチョスを腹一杯食った。

 商店街の中を散歩しながら、生ぬるいコーラを片手に。

 須磨駅の前もそうだったが、ここは、ほとんどなにも変わってない。

 神戸の街は神戸の街だ。

 中央区の古い街並み。

 三ノ宮駅南側の巨大な噴水。

 ベイエリア。

 夕方になると、三ノ宮駅の周辺は建物や車の光で埋め尽くされる。

 路地裏でタバコを吸ってるスケーターや大学生。

 手を繋いで歩いてるカップル。

 仕事帰りのサラリーマン。

 いろんな場所で、いろんな人たちが行き交いながら、街が動く。

 まるで、これから祭りでも始まるのかっていうくらい、賑やかな音が鳴り始めて。

 
 でも、なんかが違うんだよな。

 ビルの広告も、チラシを配ってるお兄さんも。

 …アイツ、なんて言ってたっけ?

 この世界に来る前、「世界線」がどうとかって言ってた。

 並行世界がどうちゃらって。

 もちろん意味はよくわからない。

 いまだに。

 つーかやっぱ謎すぎる。

 「別の世界にいる」って、何度も考えた。

 そう考えるしかなかったからだ。

 でもそんなこと、普通じゃ信じられないだろ?
 
 辻褄を合わせようと、できる限りのことは想像したんだ。

 学校の屋上で、寝転びながら。


 夢…じゃないよな?

 1日の中でふと、そう思ってしまう。

 妙に足元がフワフワして、地面がそこに無いくらいに遠い。

 視線がぐらついてしまうのはなんでだ?

 わけもわからない不安が、頭の片隅によぎるのは?

 もしもここが夢じゃないなら、それを確かめる方法は1つしかないと思った。

 たとえここが別の世界だとしても、あの場所は何も変わっていないはず。

 この街でいちばん静かな、あの場所なら——
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