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あの夏
第234話
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「ほんなら、また明日ね」
神戸高校の近くまで自転車で帰って、一ノ瀬さんと別れた。
結局収穫はなかった。
大ちゃんの家に遊びに行こうかと思ったけど、急にお邪魔するのもなぁと思ってやめた。
連絡を取ってないんだ。
知り合っていない可能性だってある。
そりゃそんなこと理屈じゃ考えられないが、昨日も今日も、信じられないことをいくつも目にした。
だからあり得なくもないなって、なんとなくさ?
同じ場所のはずなのに、何かが違う。
須磨高に行って、とくにそれを感じた。
ソフト部用のバットやボールが置かれたままの部室。
みんなと作った「部員募集!」のポスターが、どこにも貼られていない廊下。
佐藤先生は俺のことを知らなかった。
さっき駐車場で会ったんだ。
ブロックの上に座ってたら。
会釈して、車に乗ろうとする先生に声をかけた。
久しぶりですって言ったんだ。
そしたら…
クラスのみんなはどこに行ったんだろうか。
大体の部活を覗いてみたが、誰もいなかった。
絶対ツバサはテニス部にいると思って、もう一度見に行ってみた。
でもやっぱ、見当たんなかった。
祐輔はサッカー部に入りたいって前に言ってた。
だから、サッカー部の様子もずっと見てた。
健太や岡っちはよくわかんねぇ。
大ちゃんは、野球部を立ち上げようって話をする前は、とくに何かをやりたいって感じじゃなかった。
高1なのに将来のことを考えてて、大学に進学するために、いつもまじめに授業を受けてた。
俺がちょっかい出さなけりゃ、きっと今頃、勉強漬けの日々を送ってたんじゃないか?
今もちょっとした時間に、1人だけ教科書広げて勉強してるもん。
成績は優秀だし、週2で塾に通ってるし。
なんでこんなことになってんだろ…
バス停のベンチに腰掛けて、しばらく休憩してた。
先週、すぐそこのラウンドワンのゲーセンにみんなと行った。
岡っちのやつ、毎度毎度太鼓の達人がうますぎるんだよな。
UFOキャッチャーもめちゃくちゃうまいし、まじでびびった。
あの日も確か、この付近を色々歩き回ったっけ。
急にタコベルに行こうとか祐輔が言い出して、チーズ入りのナチョスを腹一杯食った。
商店街の中を散歩しながら、生ぬるいコーラを片手に。
須磨駅の前もそうだったが、ここは、ほとんどなにも変わってない。
神戸の街は神戸の街だ。
中央区の古い街並み。
三ノ宮駅南側の巨大な噴水。
ベイエリア。
夕方になると、三ノ宮駅の周辺は建物や車の光で埋め尽くされる。
路地裏でタバコを吸ってるスケーターや大学生。
手を繋いで歩いてるカップル。
仕事帰りのサラリーマン。
いろんな場所で、いろんな人たちが行き交いながら、街が動く。
まるで、これから祭りでも始まるのかっていうくらい、賑やかな音が鳴り始めて。
でも、なんかが違うんだよな。
ビルの広告も、チラシを配ってるお兄さんも。
…アイツ、なんて言ってたっけ?
この世界に来る前、「世界線」がどうとかって言ってた。
並行世界がどうちゃらって。
もちろん意味はよくわからない。
いまだに。
つーかやっぱ謎すぎる。
「別の世界にいる」って、何度も考えた。
そう考えるしかなかったからだ。
でもそんなこと、普通じゃ信じられないだろ?
辻褄を合わせようと、できる限りのことは想像したんだ。
学校の屋上で、寝転びながら。
夢…じゃないよな?
1日の中でふと、そう思ってしまう。
妙に足元がフワフワして、地面がそこに無いくらいに遠い。
視線がぐらついてしまうのはなんでだ?
わけもわからない不安が、頭の片隅によぎるのは?
もしもここが夢じゃないなら、それを確かめる方法は1つしかないと思った。
たとえここが別の世界だとしても、あの場所は何も変わっていないはず。
この街でいちばん静かな、あの場所なら——
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