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俗に言うアレ
第231話
しおりを挟む「ちーちゃんに勝つんやろ?」
……え?
千冬に勝つ?
アイツも似たようなことを言ってた。
千冬と俺は、ライバルだったって。
千冬の球を打つ。
それが、この世界の俺の「夢」だったと。
そんなこと言われてもなぁ…
この世界の「俺」が何を考えてたのか、想像すらできない。
一ノ瀬さんはまっすぐ俺のことを見てきた。
冗談を言ってるようには見えなかった。
プロ野球選手?
世界一?
…そんなバカな
でも、一ノ瀬さんは大真面目だった。
それが当たり前であるかのような、——口調で。
俺はずっと、千冬を追ってきた。
それは今も変わってない。
千冬のようなすごいピッチャーになりたくて、ずっと練習してきた。
アイツにも言ったように、千冬の代わりに甲子園に行こうと思ってた時期もあった。
今でも、ふとした時には。
千冬はずっと憧れてたんだ。
“160キロの球を投げたい”って。
その先にある「夢」を追いかけて、丘の坂道を降りながら、どこまでも続く水平線の向こうを見つめてた。
だから俺は、いつか千冬の夢を叶えたいと思った。
マウンドの上に立つ彼女が、俺の世界を変えてくれたように。
「なんか、別人みたいやね」
「俺のこと?」
「うん」
どこがどう別人なのか、さっぱりわからん。
千冬とライバルだったって言うけど、彼女のことをそんなふうに考えたことはない。
憧れてた。
ずっと。
まっすぐ向かってくるアイツのストレートを、いつも追いかけてた。
捕るので精一杯だったんだ。
まだ、あの頃は。
「ちーちゃんはちーちゃんで、亮平君には負けんって」
「…アイツが?」
「うん。いっつも勝負しとるやん。皆が帰った後にグラウンドで。3球勝負。負けたらジュース1本」
そんな…ことが?
そういえば、昔海辺で勝負してたっけ。
勝負っつーか、相手になってなかったけど。
かすりもしなかった。
球が速すぎて、バットが追いつかなかった。
負けるのがわかってたから、何かを賭けたりはしなかった。
かといって、手加減もしてくれなくて。
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